文春の“宝塚トップスター陰湿いじめ報道”に疑問の声。元タカラジェンヌが語る、記事への違和感
「真風の同期はあの記事に首をかしげています」
というのは、元宝塚歌劇団関係者。「あの記事」とは『週刊文春』2023年1月19日号の「宝塚娘役を追い詰めたトップ<真風涼帆>の陰湿イジメ」というスクープだ。
記事を読んだ宝塚ファンのショックは大きく、SNSは「こんなひどい記事を書くなんて」「記事を書かれた本人たちが傷ついているはず」「事実と異なるのでは」などさまざまな声があがった。
◆「文春」が報じたトップスターのいじめ
記事の概要は、劇団関係者や団員の証言として、2017年から宙(そら)組のトップスターである真風涼帆が、当時相手役だったトップ娘役・星風まどか(現花組トップ)に陰湿なイジメを行っていたというもの。
記事では「真風は感情の起伏が激しく、まるで“王様”のように振る舞う」「トップの真風がやめないため2番手、3番手がなかなかトップになれずに確執が生じている」「真風が『デブだからこの人(星風)はリフトできない』と大勢の前で言い放った」「真風の罵倒を星風が録音して劇団に訴えた」といったトップスターや組長によるいじめの内容が続く。
◆元タカラジェンヌも「報道はちょっと信じがたい」
ということはやはり記事は本当なのか。真風さんと個人的に親交のある元タカラジェンヌのBさんが「あくまで中立の立場として個人の意見をお話しします」と取材を引き受けてくれた。
「私はもうずっと真風さんと舞台をご一緒していないし、彼女の後輩でもないので、彼女が後輩にどう接しているかは知りません。なので、あくまでプライベートの真風さんの印象ということをご了承ください。私の知る真風さんはとても穏やかで、謙虚で、トップスターとは思えないくらい細やかな配慮ができる人です。優しくて素敵な人です。だから今回の記事を知って、驚きました。私の知っている人物像とはかけ離れています。この報道はちょっと信じがたいなと思いました」
◆年長者が後輩をサポートする宝塚イズム
どこからが教育で、どこからパワハラかの解釈は人それぞれだが、真風さんを知る人も信じられないという。いったいどういうことなのか。前出の元タカラジェンヌBさんはこう続けた。
「宝塚歌劇団は、年長者が後輩のサポートし、面倒を見て育てます。だから後輩は年長者に対して憧れや尊敬を抱くし、同じ気持ちで下の子に技術を伝えていきます。そうやって宝塚イズムやスキルが受け継がれていくんです。とても素敵な文化だと思います。トップスターを5年も続けるって、なかなかできることではありません。技術を保ち、人気を落とさずに活躍しているからトップスターを続けられるのではないでしょうか。
メジャーリーグで活躍するプロ選手と同じです。プロ選手もタカラジェンヌになるにも努力と鍛錬が必要ですが、トップになるには、誰もできない努力をしなければたどり着けません。私は外部の人間ですから、詳しい状況は分かりません。もしかしたら、真風さんが自分の尺度で伝えたことが、普通の人には厳しく聞こえ、それが報道につながったのかなとは思います」
昨年末にも、宝塚歌劇団の演出家が新人の団員にセクハラを行っていたと文春が報じている。今回の記事はそれに続くもので、「宝塚に蔓延するハラスメント気質」を印象づける。歌劇団はセクハラ報道については「宝塚歌劇団に関する一部報道について」(2022年12月28日)で一部事実を認めたが、今回の記事に関しては「事実と異なる内容」(2023年1月10日)と完全に否定した。
◆宝塚ファンの声は…
ファンの多くも演出家のセクハラは否定しないが、今回の記事には嫌悪感をあらわにしている。
「パワハラは絶対いけません。でも厳しい指導があったにせよ、記事は悪意を持って誇張しているように感じます。組長さんも一緒になっていじめたという点も引っかかります。組をまとめる役割の組長が、トップ娘役のメンタルを壊すようなことをするでしょうか。下手したら公演に影響が出る可能性だってあります。
組長・副組長は人望と懐の深さがないと務まらないと思いますし、ましてや寿つかささんは組長に就任してから14年にもなるのでとても違和感があります」(30代女性ファン)
◆50代、20代ファンの思いも…
「宙組は下級生たちののびのびとした舞台の様子や、各千秋楽での退団者たちとのトークからは、日常のギスギスを隠しているようには思えません」(50代女性ファン)
「記事で団も否定していましたし、真風さんも後日、舞台で否定していました。宝塚歌劇団は閉じられた世界だし、情報統制されていると分かった上でファンなので、夢を見たいだけなんですよ。その思いを壊されたことでみんな怒っているんだと思います」(20代女性)
SNSでは感情的な書き込みが散見されるが、今回、取材したファンはみな冷静でロジカルだ。しかし、こうした記事が出ることでトップが萎縮し、後輩を指導できなくなってしまうかもしれない。
◆真風さん「好きな人を応援し続けて」
多くのファンに夢を与える舞台を作り上げるには、時に厳しい指導が必要なこともある。真風さんの罵倒が事実なら、確かに指導の域を超えているが、ファンはこれを事実と感じていない。ファンはタカラジェンヌたちが厳しいレッスンと自制を科しているにもかかわらず、舞台ではそれを一切見せない潔さと美しさに感動するのだ。
報道された日、真風さんは『MAKAZE IZM』というリサイタルの最中だった。真風さんはその翌日、舞台で、記事について触れ、「私のことは悪く書かれてもいいけれど、他の子たちには同じような思いをしてほしくない。星風は私の言ったことを悪く取るような子ではない。みなさんは今まで通り、安心して好きな人を応援し続けてほしい」といった趣旨で、強く記事を否定して涙ぐんだという。
真風さんは次の大劇場公演で退団が決まっている。それだけでもファンの悲しみは深く、チケットはいつにもまして争奪戦が予想される。にもかかわらず、そのタイミングでの報道に、ファンは衝撃を受けているようだ。
◆報道を信じるか、信じないかも…
「宝塚は、舞台ごとのカンパニーではなく固定の仲間でずっと回していくことにも特徴があります。ピラミッド社会に否定的な感覚を持つ人もいるかもしれませんが、立場ごとの役割があって、それをまっとうしてこそひとつの舞台が作り上げられるんです。トップも組長も下の人たちから尊敬されないとなり立たないと思います。
でも物事の受け取りかたは人によります。人の数だけ真実がありますから、本当のことは分かりません。厳しい指導をパワハラと受け取るか、感謝するかはその人次第。報道を信じるか、信じないかも、その人次第です。ファンの人たちは、自分が見たもの、目で見た舞台を信じていいと思います」(元タカラジェンヌBさん)
大多数のファンは、タカラジェンヌを信じて疑わない。これからも多くの人たちに夢と希望を与え続けて欲しい。現在(1月23日)、文藝春秋に本件の見解を尋ねており、回答があり次第、追記する。
<取材・文/和久井香菜子>
【和久井香菜子】
ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表
ダンディ髭麻呂☆
1/26 12:55
事実があったか否かではなくて、悪意を持った記事に対して非難してるところがエラいと思います。こんな冷静な正義感を持った記者がまだいたんだね!文春は、反省して見習うべきです。