日本の評価を落とす「薄っぺらい商売」…観光地で「日本人が食べたことがないメニュー」を提供する歪さ――ニュース傑作選

2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。企業や業界の実態から2024年を振り返る「経済ニュース」部門、好評につき延長の第11位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年9月1日 記事は取材時の状況、ご注意ください) *  *  *

 外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。「日刊SPA!」では、これまで30年間のコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。今回のテーマは、「インバウンド向けの外食・中食産業」です。

◆インバウンドを意識するのは良いのだが…

 新型コロナウイルスの影響で激減していた訪日外国人の数も、2022年ごろから回復傾向にあり、インバウンドビジネスも好調のようです。とくに日本の食べ物は外国人に人気があり、インバウンド向けに展開している日本の外食・中食産業も好調を維持しています。

 多くの外国人が日本の食文化に触れ、それを満喫してくれるのは私たちにとっても嬉しいことです。しかし日本の食を提供する側の飲食店などの動きを見ていると「それでいいのか?」と、疑問に感じることもあります。

 外国人に人気の日本の食スポットは、東京ならば豊洲千客万来や築地場外市場、大阪ならば黒門市場、京都なら錦市場などがあります。どこもインバウンドを意識しているのですが、何か勘違いをしてはいないかと感じることがあるのです。

◆「千客万来と築地場外市場」で外国人客の表情が全然違う

 先日、豊洲千客万来に行ってみたのですが、楽しそうにしている外国人客がほとんどいないという印象を受けました。例えば3階はフードコートになっていますが、買ってきたものをそこで食べている人よりも、疲れた顔で休憩している人のほうが圧倒的に多かったのです。そしてそのあと、今度は築地場外市場に行ってみました。するとそこにいる外国人客の多くはとても楽しそうにしていたのです。この差は何でしょうか?

 また、京都の錦市場に来ている外国人がとても楽しそうにしていたのに比べて、大阪の黒門市場に来ている外国人はそうでもない……。そんな印象でした。一体それはなぜなのでしょうか。

◆ニーズに応えていないインバウンドビジネス

 一番重要なのは、お客さんが楽しんでいるかどうか、ということです。飲食業に限らず、サービス業に携わる者は、お客さんが何を望んでいるか、どうすれば楽しんでもらえるかということを大切に考えなくてはなりません。

 私たちも外国へ行ったときは「せっかく来たのだから」と、そこでしか味わえないもの、その土地ならではのものを食べたいと思います。来日する外国人の多くもそれと同様に、日本の歴史や文化に触れたいと思っています。食についても、いままで知らなかった日本の伝統的な家庭料理や屋台料理を味わいたいと思ってやってくるのです。

 ところが昨今のインバウンド向けの飲食店のメニューを見ると、串に刺さった鰻の上に牛肉やウニやイクラがのっかっている……といったような、日本人すら食べたことがないようなものを提供しているところが多いのです。それは果たしてお客さんの立場に立ったものなのでしょうか。外国から来たお客さんに、それが日本の伝統食などと思われてしまっても困るというものでしょう。

◆「外国人が本当に触れたかった日本食」は簡単なものが多い

 価格を上げるために、日本人が食べたこともないようなものを作って提供する。そこからヒット商品が生まれる可能性は否定しません。しかしそれは外国のお客さんで“実験”するべきではありません。

 私は高価格のものを提供すること自体を否定するつもりはありません。しかし鰻に牛肉をのせてインバウン丼……などという名称で提供するような、安っぽい小手先のものであってはならないでしょう。

 ではどんなものならばいいのか。例えば、日本人も憧れる神戸牛などの和牛。それがステーキでもすき焼きでも楽しめる、和牛の楽しみ方がすべて詰まったゴージャスなコースを設けるのです。そして「これは日本人にとっても贅の限りを尽くした和牛コースです。せっかくいらしたのですから日本の和牛料理を存分にお楽しみください」と、客単価1万円のお店が2万円で提供するというのは、私はアリだと思っています。

 またこの1~2年で、日本に来た外国人にとって満足度の高い日本食は、ネットなどからもある傾向をつかむことができます。それは意外にも簡単なものが多いのです。寿司や刺身、鰻はもともと人気がありましたが、トンカツ、ジャパニーズカレー、煮魚、クリームコロッケなどは最近、外国人の評価が高まっています。こういったことをしっかり調べれば、奇をてらうことなく、ニーズに応えることはできるのです。

◆日本の価値を下げる「浅はかなインバウンドビジネス」

「せっかく日本に来たのだから」というお客さんの動機に寄り添うことをせず、「売れるから」というだけで日本人が食べたこともないものを提供する点に、いまのインバウンドビジネスの薄っぺらさを感じずにはいられません。

 前出の豊洲千客万来と築地場外市場、黒門市場と錦市場。なぜお客さんの笑顔に差が生まれてしまうのか。例えば築地場外市場には古くからやっている老舗の寿司店や惣菜店があります。そういうところは昔から変わらない本質的なビジネスでインバウンドに向き合っています。

 錦市場は近くに祇園や四条河原町などがあり、エリア全体が観光地になっています。錦市場はその中の“ワンシーン”であり、お客さんにとってのウェイトは小さいのかもしれません。お祭り感覚で錦市場の屋台グルメを味わい、昼食や夕食は別のところですませているというケースもあり、それで差別化ができているのでしょう。

 自分たちはどんな環境でどんなビジネスでお客さんのニーズを満たしているのか、もっとしっかりと考えて取り組む必要があります。浅はかなインバウンドビジネスでは、かえって海外での日本の評価を落としてしまいかねないと危惧しています。

<TEXT/永田ラッパ>

【永田ラッパ】

1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜』も好評配信中。

2024/12/21 8:43

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