ディズニーは「もはや金持ちしか楽しめない」?クリスマスイベントの混雑で見えたもの

 チケット価格が上昇するたびに大きな話題となるディズニーリゾート。現在の東京ディズニーリゾートのチケットは変動価格制を採っており、7900~1万900円となっている。遊びに行くハードルが上がっているというネットの声に反して、今年のクリスマスイベントも例年通りの混雑日が続いている。

「ディズニーリゾートは富裕層しか行けなくなった」のではないのだろうか? 共感ブランディングを提唱するブランディング専門家の松下一功氏は、「クリスマスの時期なので、消費の二極化現象(ニーズとウォンツ)が顕著に現れたからだろう」と話す。そして、チケット価格の値上げは単なる利益追求ではなく、ブランド価値向上のための布石なのだとも。その理由とは?

◆チケット代アップはブランディング強化の方法

 近年のディズニーは、マーケティング的な観点から「富裕層しか行けなくなった」という見方をされることが多い。しかし、「ブランディングの観点からは、ニーズ(必要)とウォンツ(欲しい)を明確に分けた戦略と見ることができる」と松下氏は話す。

「ディズニー作品は、小さな子どもの発達教育にはとりわけ有効的です。普段の日常生活においても、助けられている親は多いでしょう。ディズニーチャンネルやディズニーショップは、正にそういったニーズを補うアプローチと考えられます。対するディズニーリゾートは、どうしても行きたい方々のウォンツを満たすアプローチだと言えます」(松下氏、以下同じ)

 とはいえ、度重なるチケット価格の値上げに嘆く人が多いのも事実。物価上昇の波に乗り、利益追求のために値上げに踏み切ったように見えたとしてもおかしくはないだろう。しかし、「ブランディングの観点からすれば、『利益追求のための値上げ』ではなく、本質的なブランド戦略の一手としてチケット代を値上げしたのだと考えられます」と松下氏。

◆エルメスに見る強固なブランディング力の作り方

 その理由は、ディズニーはブランディングの神髄とも言える「強固なファン作り」に軸足を置いているからだと続ける。

私が提唱する共感ブランディングでは、その企業やブランドが持つ信念やこだわりに共感してくれるファンを作り、そのファンに支えられて、共に成長していくことで、価値を高めていくと説明しています。まずは共感者を増やすために情報提供・拡散。その後で情報管理・情報統制に力を入れてブランド価値の希薄化を防止しながら、ファンと密接な関係を構築し、熱狂的なファンを増やしていきます。そうすることで強固なファンコミュニティが形成され、ブランドは継続できるのです。

 世界的な有名ブランドのエルメスがわかりやすいでしょう。エルメスは、元は馬具製品を作っていましたが、時代が変わって馬具の需要が減ったため、その製法でバッグを作るようになりました。作るものは馬具からバッグに変わりましたが、確かな技術を持つ職人がひとつひとつ丁寧に仕上げるというこだわりは変えませんでした。そこにたくさんの共感者が生まれ、世界的に愛されるブランドとなったのです」

◆チケットはエルメスのバーキンのような存在に

 ディズニーリゾートにおけるチケットは、エルメスにおけるバーキンを買える資格のような存在だと推測している。

エルメスの中でも特に人気の高いバーキンは、誰もが簡単に買えるものではありませんよね。エルメスの価値を十分に理解し、バーキン以外のエルメス製品も愛用している、ゆるぎない信頼関係を築けている顧客でないと、なかなか購入の機会がありません」

 商売にあるまじき行為とも思えるが、これにはなんら不思議はない。「人間、一人ひとりが感情や考えやポリシーを持っているように、ブランドも感情や考えやポリシーを持っています。丹精込めて作った商品を誰に売りたいかと考えたら、その商品を長く愛して、大切に使い続けてくれる人でしょう」と松下氏。

「ディズニーの場合は、ディズニーが大好きで、生涯に必要としているお客さんにサービスを提供したいと考えられます。チケット代の値上げはむしろ、真のサービスを提供したい方々との強固な関係構築につながるのです

◆ディズニーが求めている真のファンとは?

 チケット代の値上げは、「ディズニーがサービス提供するべきお客さん=真のファン」を探し出すためのひとつの方法だとしたら、どんな人が真のファンに当てはまるのだろうか?

「先ほどもお伝えしたように、ブランドは、その信念やこだわりに共感してくれるファンを作り、そのファンに支えられて、共に成長していき価値を高めていくものです。つまり、ファンでありながら、共に成長していくファミリーでもあります

 そしてディズニーは、名前に『リゾート』と付いているように、慌ただしい日常から離れて休暇や余暇を過ごすために足を運ぶ特別な場所という意味が込められています。誰かにとっての特別な空間、特別な時間を演出するためには、来ていただくお客さんの協力も必要です。

『キャラクターも結局は着ぐるみで…』というような、ディズニーのかけた夢を壊すような発言をする人や、『大切な人と過ごすクリスマスだから、とりあえずディズニーに行けば間違いないだろう』と考えている人に来てほしいとは考えにくいでしょう。つまり、ディズニーが本当に来てほしいのは、『共にディズニーの作品世界に没頭できて、特別な空間、特別な時間を楽しめるファン』だと推測できます」

◆誰もが特別感を持っている「クリスマス」

 本当に好きなモノ・好きな人のためであれば、お金や時間や距離といったハードルは、ハードルですらなくなる。チケット代を値上げしても、ディズニーが大好きで必要としているファンは必ずやって来る。それを証明したのが、現在開催中のクリスマスイベントの混雑具合なのだ。

 今となっては考えにくいかもしれないが、2000年代初頭までは、クリスマスの経済効果は1兆円を超えるとも言われていた。現代では7000億円ほどにとどまっているが、バレンタイン・ハロウィンは共に1000億円台を推移している。

「最近は、若い世代を中心にクリスマス離れが広がっているため、重要度にはバラつきがありますが、日本人にとってクリスマスが重要なイベントであることに、さほど変わりはないでしょう。『クリスマスだから、大好きなディズニーに行きたい』『せっかくならホテルにも宿泊して、思いっきりディズニーの世界を満喫したい』と考えるファンたちが集まっているのだと思います」

 東京ディズニーリゾートは、かつて気軽に訪れることができた場所から、現在では特別感を求める熱心なファン層に支えられる施設へと進化した。ブランディングによる差別化を図ることで、今後も安定的な成長を遂げていくのだろう。

<取材・文/安倍川モチ子>

【松下一功】

経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者。株式会社SKY PHILOSOPHY 会長。40年近く、企業アイデンティティーやブランドコンセプトの確立を専門とし活動。2011年より「真のブランディングを世に伝える」ことをミッションに、講演、講師、コンサルティングを行う。2024年、著書『共感ブランディング®ドリル』で、自身の体系的オリジナルロジックを一般公開。ブランディングのわかりやすい実践書として高評価を得ている

2024/12/20 8:52

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