『孤独のグルメ』名ゼリフ誕生秘話を原作者が語る「見た目どおり原寸大にウマイ」
食マンガの金字塔として長く愛され続け、ドラマシリーズも人気の『孤独のグルメ』。その名シーンを、主人公・井之頭五郎の自由気ままで、時に奥深い「独り飯名ゼリフ」とともに紹介していく!
◆五郎の名ゼリフ誕生秘話を原作者・久住昌之が語る
『孤独のグルメ』(原作・久住昌之 作画・谷口ジロー)は、輸入雑貨商を営む男・井之頭五郎が、仕事で訪れたさまざまな街でひたすら腹をすかせ、飯を食う。食うのは、いわゆる「グルメ」とは程遠い、街場の普通の飯だ。ただそれだけの物語にもかかわらず、’96年の初版刊行以来多くの人に愛され続け、最近では作画・谷口ジロー氏の全集『谷口ジローコレクション』の一部としてB5のビッグサイズ(全2巻)も刊行された。
独りで飯を食うことの豊かさと救い、そしてそこから生まれる小さなドラマが、緻密で静謐な谷口ジロー氏の作画と、自由気ままでどこかトボけた、それでいて奥深い五郎のセリフに凝縮されているからこそ、多くの人に共感されているのだろう。今回は『孤独のグルメ』の名シーンを五郎のセリフとともに振り返り、その誕生秘話を原作の久住昌之氏に語ってもらった。
◆名ゼリフ「モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず自由で なんというか 救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで 豊かで……」
●1巻・第12話「東京都板橋区大山町のハンバーグ・ランチ」より
従業員を怒り続ける店主に五郎爆発!? 五郎の武闘派な一面が見られる人気回だ。
「『独り飯の美学』みたいに引用されることも多いセリフなんですが、自分としては『五郎も何言ってんだか』くらいの気持ちで書いたんです(笑)。食べている目の前で、人が怒られているのが苦手なのは本当です。店主が従業員に『おまえ、なんなの?』と怒っている場に居合わせたりすると、つらくなりますよね」
この後、五郎は「見てください! これしか喉を通らなかった!!」とも発言している。
「店主からしたら『知らないよ』と思いますよね。そこは、五郎もやっぱり変だけどねって部分を出したかったのかな」
◆名ゼリフ「うわあ なんだか凄いことになっちゃったぞ」
●1巻・第15話「東京都内某所の深夜のコンビニ・フーズ」より
残業中、「腹もペコちゃんだし」と、深夜のコンビニで買い込んでしまった回もある。
「お腹がすいているから、調子に乗って買っちゃったんだけど、やりすぎだよね。でも、楽しかったなぁ。これも買っちゃおう、あ、あれもって感じで実際に買って、資料写真を撮って。『凄いことになっちゃったぞ』って普通の言葉なんだけど、食べ物が並んだコマと合わせると生きてくる。谷口さん、一コマ描くのに一日かかったんじゃないかなあ。凄いことです(笑)」
◆名ゼリフ「こういうの好きだなシンプルでソースの味って男のコだよな」
●1巻・第17話「東京都千代田区秋葉原のカツサンド」より
「人ってふとしたときにこういう隙のある顔をする」と久住さんが語るのは、カツサンドを頬張る五郎の表情がちょっとマヌケで印象的な回。
「うどんを生醤油で食べるとか、お刺し身とか、醤油って素材を生かす引き算の調味料で、日本的ですよね。一方西洋料理は、グリルして、ソースをかけてって、どんどん味の足し算をする。それが、防具をつけたり、武器を持ったりって感じがして、男のコっぽいなと思って書いたセリフです」
◆名ゼリフ「見た目どおり原寸大にウマイ」
●2巻・第7話「東京都世田谷区駒沢公園の煮込み定食」より
駒沢公園近くの店で食べた煮込みの味は、今でも思い出せる味だという久住さん。
「あー、この感じかと、想像していたとおりの『原寸大にウマイ』味だったんです。それがよかった。『一口目からとろける!』とか『想像以上!』とかじゃなくていいんですよ。そういえば、前の仕事場の近所にカレーを出す喫茶店があって。スパイシーでもなく、むしろちょっと物足りない。だけど、たまに無性に食べたくなる。それが20年以上続いてるんです。凄くおいしいと大騒ぎしたものを、二度と食べに行かなかったりするのに。おいしいって、つくづく不思議なものですね」
【マンガ家・音楽家 久住昌之】
’58年生まれ。『孤独のグルメ』のほか、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)、『食の軍師』(泉昌之名義、作画・和泉晴紀)など代表作多数
<取材・文/週刊SPA!編集部 マンガ彩色/廣木陽一郎>
―[『孤独のグルメ』名ゼリフ傑作10選]―