ジャンポケ斎藤の“いじめについて語る”活動と芸人
みなさんはお笑い芸人のプライベートの姿にどんな印象を持っているだろうか。テレビ通り普段から明るく面白いイメージ? それとも普段はテレビとは真逆の物静かなイメージ?もちろん芸人によって変わってくる。
よく言われているが「明石家さんま」さんのように全く裏表のない芸人もいれば、逆に普段はスイッチをオフにして極力、喋らないようにしている芸人もいる。それは個人ごとのスタイルで、テレビに映るタイミングで面白ければ、芸人としてはなんの問題もない。
ではお笑い芸人になるような人間は子供のころから面白いのかどうか。皆さんはどんなイメージだろうか? 関西の方に良く聞くが、お調子者でひょうきんな子供がいると決まって「あんたは将来お笑い芸人や」と言われると。
それを考えると子供のころから面白い人間がお笑い芸人になるのでは――?
いや、そうじゃない。もちろんこれもプライベートの姿と同じで、元々ひょうきんな人間もいれば真逆の人間もいる。僕のイメージでは、性格は根暗で人とコミュニケーションを取るのが下手な子供の方が今お笑い芸人をやっているというパターンが多い気がする。なぜそういう子供がお笑い芸人を目指すのか?
あのダウンタウンの松本人志さんも言っていたが「面白いやつ」というのは、子供の頃のカースト制度で上位に位置している「足が速いやつ」「勉強ができるやつ」「喧嘩が強いやつ」「家が金持ちのやつ」「バク転が出来るやつ」と並ぶ価値を持っている。だから運動や勉強が出来なくても、喧嘩が弱くても、面白いというだけで一目置かれる存在となれるのだ。それに気づいた根暗な子供が面白くなろうと努力をして今までとられていたマウントをひっくり返すというわけだ。
『気づいただけで面白くなれるのか?』と思った人もいるだろう。そもそも根暗で寡黙な子供というのは、何も考えていないわけではない。ほかの子供同様、頭の中ではいろいろなことを考え、聞こえない独り言を発しているのだ。
しかも学校が楽しくない分、家での時間を楽しもうとする。テレビから流れるバラエティ番組を食い入るように見たり、家族との会話を大切にする。番組からお笑いセンスを手に入れ、大人との会話で間の取り方やコミュニケーション能力を培うのだ。あとはそれを披露するタイミングだが、昨日まで寡黙だったやつがいきなり面白くなっても違和感しかない。なのでクラス替えや進学、転校などのタイミングを見計らい違う自分に変身するのだ。
かくいう僕自身も、転校を機に変身したうちのひとりである。それまでは社交性など皆無。ほかの生徒とコミュニケーションも取らず、根暗で寡黙な少年だった。
ただ勘違いして欲しくないのは、もともと根暗で寡黙だったわけでは無い。根暗な子供の多くは何かしら、要因があってそうなっている。それは家庭環境だったり、学校自体が原因だったり。
僕の場合は学校が原因だった。わかりやすく言うと『いじめ』だ。僕は他の生徒と比べると遥かに体重が重く肥満児だった。それを理由に『いじめ』の的にされたというわけだ。
最近、僕と同じようにいじめにあっていたという芸人の記事が大きな反響を呼んでいる。その芸人とは「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんだ。
6月19日にSBS(静岡放送)が「『いじめた人は一瞬で忘れるが僕は一生恨んでいる』”ジャンポケ”斉藤慎二さんが壮絶な体験を語り続ける理由」と題した記事を配信した。
【当該記事】
https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1078853.html
内容は斉藤さんが10日に常葉大付属橘中学校・高校で話した公演を紹介したというもの。
斉藤さんは背が小さいというだけでいじめの的になってしまった。「チビだ」「死ね」「生きてる価値が無い」という子供特有の心無い残酷な言葉を言われるようになり、ひどいときには後ろの生徒から彫刻刀で背中を切られて血が止まらなくなったという。
斉藤さんの母親は教師をしており、家でも忙しそうにしている姿を見て「負担をかけるわけにはいかない」と思い、いじめられていることを母親に内緒にしていたそうだ。
この気持ちはすごくわかる。僕の両親も共働き、なおかつ僕には7歳年下の妹おり、母親はその世話もしなければいけないのでいつも忙しそうにしていた為、僕もいじめられていることは隠していた。それにプラスして「いじめられていることは恥ずかしい」という思いがあり、余計に言えなかった。
話を戻そう。斉藤さんはある児童が誕生会をしたときに、クラスで自分だけが呼ばれなかった。それを知り担任の先生に相談したところ「それは斉藤くんに理由があるのかもしれないね。だからひと言ずつ斉藤くんの悪いところを言っていこう」と提案し、児童30人が一列になり、次々と悪口を言われた。半分以上の生徒は「死ね」と言い、先生はそれを止めることも怒ることもせず、ぼーっと見ていて、時には笑っていたそうだ。
一体この先生は何をしたかったのだろうか。味方もなくたった一人で罵詈雑言を必死に耐えている子供の姿を想像するだけで、怒りがこみ上げる。先生が言うようにもしかしたら、斉藤さんにも何かしらいじめられる理由があったのかもしれない。例えばうまくコミュニケーションがとれない子供ならではの、嘘やワガママに見える言動のせいで。
ただ、はっきりしているのは100%いじめた側が悪い! いくら理由があるからと言っていじめていいなんてことはありえないのだ! いじめた側は何をされても文句を言えないと思っておいた方が良い。自覚があろうがなかろうがそれくらいのことをしているのだ。
斉藤さんは当時、「死にたい」と思い父親のベルトで首をくくり「これで終わりだ。やっと楽になれる」と首を吊ったという。もがき苦しんでいる音にお兄さんが気づき助けてくれた。もしお兄さんがいなければ……。それくらい、いじめは人の命を傷つけるのだ。
斉藤さんは元々お笑い芸人を目指したわけではなかった。中学の時に芝居を見に行く機会がありそこで感銘を受け「自分に価値はないけど、誰かの役になりきったら、初めて人間としての価値が生まれるんじゃないか」と思い、俳優という夢を抱き高校へ進学した。
「自分の生き方を変えなければいけない。人として認められたい。人と対等に話したい。笑った学生生活を初めて体験したい」小学校3年生から中学生までいじめられていたが、夢を持つこと、進学というタイミング、そして彼の決意が新しい自分に変身させ、いじめという呪縛から解放してくれたのだろう。
テレビに出演する機会が多くなったある時、番組で初めていじめについて語った。すると当時斉藤さんをいじめていた元生徒から電話がかかってきた。
「いじめのやつ記事で見たんだけど、いじめた側に俺入ってる?」という確認の電話だったそうだ。
なんとその相手はいじめの中心人物。「家族ができたから名前は出さないでくれ」と。謝罪は一切無かった。
斉藤さんは言う
「もし、人を傷つけている人がいるなら絶対にやめてほしい。その人は一瞬で忘れるかもしれないけど、いじめられてる側は一生忘れない。僕は一生恨んでいます。(傷つけている側は)自分がやったことを後悔して、これから自分は変わっていくんだ、これからは人を傷つけずに生きていくんだ、という気持ちを持ってくれたらすごくうれしい」と。
斉藤さんは、初めは芸人としてのためらいもあったようだが、”少しでもいじめで悩んでいる子供たちを救いたい”という気持ちから、このようにいじめについて語る活動を数年前から始めた。
この記事に対し多く寄せられた反応はやはり「いじめられた側は一生忘れない」「一生いじめてきたやつらは恨む」「一度壊れた心は完璧には戻らない」など。
僕は幼稚園から小学校3年生までいじめられ、その後転校した先でも小学校4年生から小学校6年生の途中までいじめに遭い、そして次の転校でいじめから抜け出すことが出来た。何故なら転校のタイミングで成長期に入り、体が痩せたからだ。とても運が良かった。もし太ったままだったらまだいじめが続いたかもしれない。
もうひとつ運が良かったのは幼稚園から小学校への進学、2度の転校により、いじめ相手が絞られていないことだ。それなのでどんないじめにあっていたかは覚えているが、誰にいじめられていたかははっきりと覚えていない。そのお陰で一生恨むという気持ちは無いのだ。
斉藤さんのように同じ相手にずっといじめられていた場合、そういう気持ちになってしまうのだろう。
子供の頃の貴重で大切な時間を、恐怖と惨めさで彩られた世界にされた恨みは、計り知れないと思う。もし自分がいじめた側という心当たりがある人がいるのならば、今すぐに連絡し謝罪をしてほしい。もちろん全てが許されるわけでは無い。せっかくと思って謝っても許されないこともあるはずだ。だが、いじめられた側の灰色の学生生活に、少しは色が着くかもしれない。
いじめというとどうしても学生生活をイメージしてしまうが、社会生活でももちろんいじめはある。大人になるといじめの形態は変わっていき、体ではなく心を傷つけるいじめになっているかもしれない。
もしこの記事を見ている人の中で、自分がいじめられていると自覚している人、もしくは周りにいじめにあっている人がいるならこう伝えて欲しい。
「今すぐその場所を辞めよう」
子供なら学校を、大人ならば職場を。無責任かもしれないが、いじめられるより圧倒的にマシだ。いじめは少しずつ命を削っていき、最終的には斉藤さんのように取り返しのつかない行動に出てしまう。生きていれば何とでもなる。生きていれば必ず未来がやってくる。今の現実より悪い未来になんて絶対にならない。何もいじめに立ち向かおうと言ってるんじゃない。逃げようと言っているのだ。
もし自分一人で辞められないのなら親でも先輩でも友達でも上司でも頼れる人にお願いしよう。恥ずかしがらず、相手の事情も考えず、とにかく助けてもらおう。あなたが大切だと思っている人は絶対にあなたを大切だと思っている。必ず助けてくれるはず。1人でも2人でも3人でも大切な人に頼ってみよう。何も表立って助けてもらう必要はない。辞め方を相談したり「辞めさせます」って電話してもらったり、とにかく何でもいい。
あなたの苦しんでいる顔は、見ている人も辛い。でもあなたの笑っている顔は見てる側も楽しくなる。
あなたが今いる世界は広いように見えてとても狭い。外に出ればこんなに広かったのかと笑みがこぼれるはずさ。
とりあえず未来を見て前に進もう。人間は後ろを向いて歩けないように出来ている生き物だから。