未来会計をすべての企業に――税理士が描く企業経営支援と成長のビジョン
あんしん経営をサポートする会は、全国の会計事務所で組織された経営サポートのエキスパート集団です。経営者一人ひとりが描く未来を実現するため、経営計画立案と達成管理の仕組みづくりをサポートしています。
あんしん経営をサポートする会が発足した1997年は、バブル崩壊によりつくったものが売れない、不動産の担保価値が下がってお金が借りられないといった、中小企業にとって非常に厳しい不況の時代を迎えていました。
会計事務所の仕事は、バブル期前後で大きく変わりました。利益を出すお手伝いをしないと企業も会計事務所もうまく回らない時代がやってきたのです。
そこで、会計のプロが企業の経営サポートをする仕組みを確立しました。そして、その仕組みを多くの会計事務所が組織的に実践することができるよう、あんしん経営をサポートする会を創設したのです。以来、全国の会計人が参画し、数多くの中小企業の存続と発展のため伴走支援に努めています。
今回のストーリーでは、当会の三代目会長を務める税理士・久保田博之先生(税理士法人 久保田会計事務所)に、当会の活動に対する想い、またこれから当会が目指す先、その未来について、当会事務局長の山脇がお話をうかがいました。
仕事が先か、人が先か?
山脇:久保田先生自身も、事務所の経営に迷っていた時があったと聞きました。
久保田:私があんしん経営をサポートする会の意思決定機関である代表幹事に就任した頃、私の事務所は人員が安定せず、増えたり減ったりしてどうしても20人の壁を超えないという時期が10年くらい続いており、「30人の事務所を目指す」というのが私の第一目標でした。
そんな悩みが続いていたある日、あんしん経営をサポートする会の創設者である初代事務局長の高山さんとゴルフをする機会がありました。その時に「皆さんはどうやって大きい事務所になったのでしょうか?」と聞くと、「ね、どうしてだろうね(笑)」と、そのまま質問が返ってきました。そして、「仕事が先かな、人が先かな」と聞かれ、「人が増えないと仕事も増えませんよね」と答えると、「そうですよね」と短く返されたのを覚えています。
山脇:当時、久保田先生は先代から事務所を引き継いだタイミングでしたよね。
久保田:はい。当時の私は、人の成長のために先行投資をしようという発想がありませんでした。それどころか、新人を入れたらその分利益はマイナスになってしまうくらいの感覚でした。それが、高山さんがティーショットを打つまでの2~3分間の会話の中に、私の人生を変えるほどの大きな発見があったのです。それ以来、自分自身の事務所の中期計画を真面目に考えるようになり、採用にも力を入れ始めました。
山脇:未来会計を学ぶことが、ご自身の事務所経営にも影響があったということでしょうか?
久保田:あんしん経営をサポートする会に所属し、いろいろな先輩方の事例やお話を聞いて勉強させていただき、最後には高山さんに背中を押していただいたおかげで、私と私の事務所は変わることができました。私自身が事務所の経営に悩み、乗り越えてきたその経験は、後に経営支援業務を本格化させていくにあたり大いに役立つこととなりました。
情報はオープンに共有
山脇:久保田先生は、企業秘密になるような経営支援の方法を、詳らかにするので驚くことがあります。
久保田:私は、情報は常にオープンであるべきだと思っています。オープンにすればするほどいい意見が返ってくるし、逆に「私はこんなことをしているよ」という情報も集まる。社内の人間にもよく話していることですが、私たちが思いつくくらいのアイデアなんてたかが知れています。特許が取れるわけでもないのだから、どんどんオープンにしていくほうがいいと思っています。「せっかく作り上げたものをなぜ公開するんですか?」という職人気質な人もいますが、オープンにするからまた次の新しい情報が入ってくるのです。
山脇:私も、情報が集まってくることこそが、当会の強みだと考えています。
久保田:当会の代表幹事会は、事業として成り立っている人の集まりでもあるし、まだその段階に到達していないけれど、そこを目指している人の集まりでもあります。全員に共通しているのは“前向きにやっていこう”という強い気持ちです。正直、当会の代表幹事に就任することで直接的な利益は一切ありません。ボランティアのようなものです。しかし、ここで自ら学ぼうとする人はきちんとリターンを持って帰ります。私も代表幹事の就任当初は、自分が会長になるなんて思いもよらなかったですし、この会を変えるのだという強い想いがあったというわけではなく、自分自身の成長のために興味津々で中に入れてもらったという状況でした。
当会には、「学びたい」という人に対して情報を隠す先生はいないので、どんどん質問や情報が飛び交う環境であってほしいと願います。そして、その学びのすべてを、支援する企業経営者に還元してもらいたいと思います。そのためにも、私は代表幹事として会員向けに事例共有・情報発信をこれからも続けていきます。
あんしん経営をサポートする会事務局長・山脇との対談の様子
「すべての企業に未来会計を」
山脇:会計事務所といえば、結果が出た後の計算をするのが仕事と思われていますが、我々は「未来会計」を用いて、まだ見えない未来をサポートしています。
久保田:「すべての企業に未来会計を」これは、あんしん経営をサポートする会の基本方針です。もともとは、私自身の事務所の基本方針として掲げていた言葉なのですが、当会としても大切にしていきたいと提案しました。会計には、過去の数値集計により税金計算を行う税務申告のための会計「過去会計」と、経営者が思い描く未来を構築するための数値活用を目的とした会計「未来会計」の2種類の考え方があります。企業が社会的役割を果たすためには、未来会計は絶対に必要です。
未来会計は私たちが提供するサービスの根幹にある考え方ですが、会計事務所がいなければ成り立たないものではありません。むしろ、会計事務所ありきの考え方であってはいけないと考えています。あくまで企業が未来を見据えた経営計画を作るべきだという考えがベースで、私たち会計事務所は“できないところを手伝います”というスタンスです。「これから成長していきたいのにまだ成長しきれない」、「何をやっていいかわからなくて迷走している」という場合は、私たちの経営サポートを受けていただきたいと考えます。
一方で、私たちの事務所のお客様には上場企業の経営者もいらっしゃるし、監査法人が監査するようなレベルの企業もあります。そのような企業は私たちがあえて経営支援をしなくてもいいと思います。ただし、自社で経営計画を立てている会社に対しては何もしなくていいというわけではありません。あらためて経営理念をうかがって掘り下げて、事業との結びつきについて考えていただくことをします。「私たちはこのような考えを持っています」と経営者に話すと、私たちのことをパートナーとしていいなと思ってくれるようになります。税金の計算屋ではなく、事業のパートナーとして見てくれているのが伝わってきます。
山脇:未来会計はすべての企業に必須だという想いが伝わってきます。
久保田:はい。すべての企業に未来会計は絶対にあったほうがいいし、邪魔になることはありません。しかしそれは、すべての企業がきちんと経営をするという前提があってこそ。脱税を目論む経営者、自分だけがよければいいという考えの経営者にとっては、未来会計なんてどうでもいいことかもしれません。「すべての企業に未来会計を」と聞くと、「あの会社にはできない」と言う会計事務所があります。このような経営者を思い浮かべてのことかもしれませんが、それは大きな間違いです。会計事務所側が勝手な判断で「やる、やらない」を決めるのではなく、未来会計という考えを企業に根付かせていくことが大事です。不良な企業も、未来会計を通して良い企業に変わっていくかもしれません。自分の給料だけにしか目を向けていなかった経営者が、「成長するためには未来会計」と気づいてくれたら素晴らしいことだと思います。
山脇:それをサポートするのが、当会の役目であると。
久保田:当会には未来会計を用いた経営支援業務の事業化を志す会計人がたくさん所属していますが、事業として成り立たせるためには多くの壁が存在し、決して容易なことではありません。そこに当会を設立した意味があります。同じ志を持つ者同士、互いに学び合う場を提供し事業化を促進する。それにより、一社でも多くの企業の存続・発展を支援することができるようになります。ひとつの会計事務所が経営支援を提供できる企業数には限界があります。「すべての企業に未来会計を」この実現のためには、より多くの会計事務所が参画し、事業として経営支援が提供できる状態になることが重要なのです。
多くの人に「未来会計」を知って欲しい
山脇:この先、成し遂げたいことは何ですか?
久保田:あんしん経営をサポートする会が、今後もっとブランド化していくことが目標です。当会は知名度がまだまだ浅いです。今後は「経営計画のことはあんしん経営をサポートする会に相談しよう! この人たちに聞いたら間違いないよ」と言っていただけるような、そういうブランドになりたいですね。
そのため、2年前から広報チームを立ち上げました。ただ、私たちの広報活動の方針は、戦略的バズマーケティングのようなテクニックで注目を集めるのではなく、「あんしん経営をサポートする会には未来会計で経営支援に取り組むすごい会計人がたくさんいますよ」ということがきちんと伝わるように地道に浸透させていきたいと考えています。
当会の取り組みや未来会計が広がり、「なんだか商売しやすくなったね」と感じる経営者が一人でも増える世の中になったら最高ですね。
あんしん経営をサポートする会