ヤマト運輸“サービス力低下”を招いた経営陣の誤算。現場&顧客を軽視、“120億円訴訟”日本郵便との関係は泥沼化へ

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 ヤマトホールディングスが迷走に次ぐ迷走を重ねています。ヤマト運輸と日本郵便は2023年6月に小型薄型荷物の配達業務を、日本郵便に委託することで合意。しかし、2024年11月にヤマト運輸は「クロネコゆうパケット」の配達移管を見直すよう申し入れました。

 日本郵便は120億円の損害賠償を求めて提訴。事態は泥沼化しています。現場と顧客を軽視した経営陣の甘さが露呈する結果となりました。

◆経営目標を達成するためには…

 2023年6月に合意した協業内容は、メール便と小型薄型荷物領域の2つ。ヤマト運輸が顧客から荷物を預かって日本郵便が管轄する地域区分局に差し出し、郵便の配送網を使って届けるというものです。

 ヤマトホールディングスは2022年3月期から2024年3月期までの中期経営計画「Oneヤマト2023」において、2024年3月期にROE10%以上という経営目標を掲げていました。2023年3月期は7.6%。目標達成には、生産性や収益性を高める取り組みが必須となっていました。なお、ヤマトの2024年3月期ROEは6.3%で着地しています。

◆「営業所の縮小」と「2024年問題」

 2023年3月期からはネットワーク・オペレーション構造改革を強調するようになり、多様化する物流ニーズに最適化した専用ネットワークの構築と拡大を進めていました。特に都市部においては宅急便営業所を集約、大型化するという青写真を描いており、2023年3月末時点で3,331ある営業所を2027年3月末には1,800まで縮小するという計画でした。結果として、オペレーティングコスト(固定費)の削減を図ることができ、収益性の向上に期待ができるとしていたのです。

 当時はそれ以外にも頭の痛い問題がありました。トラックドライバーの時間外労働の上限が960時間に制限されるという「2024年問題」が目前に迫っていたのです。配送事業者は時間外労働の規制で強制的なコストカットが望めると同時に、属人的になりがちな配送業務の効率化を図らなければならないという、難しい問題に直面していました。その間隙に生まれたのが、宿敵とも言える日本郵便との協業体制だったのです。

◆2023年9月に「3万人との契約打ち切り」

 ヤマト運輸は2023年9月に配送業務委託をしていた3万人との契約打ち切りを決定します。日本郵便に委託することが決まったメール便、薄型荷物の配送を委託していた個人事業主が中心。ヤマトは日本郵便との協業体制が上手く行くものと確信したのか、本格的な移行を待つ前に契約解除を決めてしまいました。

 2024年4月のクロネコDM便・クロネコゆうメールの取扱件数は前年同月比で12.9%。9割近く減少しました。こちらは順調に委託が進んでおり、予定通り日本郵便に全量の配達を委託しています。

 一方、ネコポス・クロネコゆうパケットの委託はスムーズに進みませんでした。

 クロネコゆうパケットは、ネコポスと比べると配送日がネコポスプラス1日。これはヤマト発送営業所から日本郵便の引受地域区分局に届けられ、更に配達地域区分局から郵便局、届け先と経由地が増えるためです。

 また、メルカリなどの個人間取引のサイト利用者は、クロネコゆうパケットの契約ができなくなりました。法人や個人事業主に限定されたためです。

 確かにクロネコゆうパケットはネコポスと比べると割安な部分もあります。しかし、利便性や迅速に配送できるというメリットを失いました。最も重要な顧客にとって、日本郵便と協業体制を敷いたヤマト運輸を使うメリットが少なくなったのです。これがヤマトの業務効率化を進めた経営陣の誤算でした。

◆「こねこ便420」は日本郵便への宣戦布告?

 ヤマトホールディングスは2024年12月18日、ネコポスからクロネコゆうパケットへの切り替えに伴い、配送日数が伸びていることを認めたうえで、日本郵便に対して配達委託スケジュールの見直しに係る申し入れを行い、協議を重ねていることを明らかにしました。配達委託をすべて停止することを打診したという、一連の報道を牽制しています。

 しかし、日本郵便の執行役員・五味儀裕氏はオンライン会見にて、ヤマトによる一方的な事情で誠意ある協議がなく、約束が否定されたと語っています。

 そもそも、ヤマトは2024年8月に「こねこ便420」を開始していました。これはクロネコゆうパケットの料金のわかりづらさを解消し、配送期間の短縮を目的としたものであることは明らか。協業相手である、日本郵便への宣戦布告とも言えるサービスでした。

◆日本郵便の赤字幅は拡大…

 日本郵便によるゆうメールの2024年4-9月の取扱数量は15億1500万通で前年同期間比12.4%の増加となっています。しかし、947億円もの営業損失を出しており、前年の508億円から赤字幅を広げました。日本郵便からすれば、採算性の悪いメール便を押し付けられた形になるのです。

 日本郵便は薄型荷物の配達受託をやめる準備を始めたとも報じられており、協業から競争相手へとかわる公算が高まりました。この騒動は、ヤマトホールディングスの経営陣が経営効率を重視するあまり、顧客や現場を軽視した結果だと見ることができます。

 サービス力が低下したクロネコゆうパケットは、多くの顧客を日本郵便のゆうパケットに奪われたと言われています。ヤマトは顧客と現場に向きあい、サービス力向上に努めなければならないでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】

フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

2025/1/9 8:53

この記事のみんなのコメント

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  • 有能なパートさんを大勢首を切り運転手にその分押し付けそれでも間に合わないから運転手をこき使い人が足りないからと隙間パートの無能を引き入れクレームの嵐(雑な扱いで箱とか商品壊す)経営陣は役に立たないゴキブリどもその癖給料はバカ高い手取りそして有能の運転手はスズメの涙いまでは他の運送会社に転職凄役に立たつ喜んでいる本当に無能な上役わ政治家も住友の恍惚の極悪ゴキブリジジイがいるから住友の株下がってるよね

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