データ活用で製茶業務を効率化。鹿児島県・堀口製茶のデジタル化サポートの裏側
「データを活用し『きちんと儲かる農業』の実現をサポートしたい」
テラスマイルが目指すのは、農作業の記録や気象のデータなど、農業にまつわるあらゆるデータを「見える化」「分析」することで生産性を高めることです。農作業の効率化や人材育成をデータで支援することで、日本の農業を持続可能なものにし、農業にかかわる方々の生活を豊かにしていきます。
そんなテラスマイルが提供する、経営管理クラウドサービス「RightARM(ライトアーム)」を活用してくださっている方々との対談を通じて、農業現場の現状や、農業における経営課題がどのように解決されてきたかをお伝えする連載。
今回ご協力いただいたのは、鹿児島県の大隅半島にある鹿児島堀口製茶(以下、堀口製茶)の3代目代表・堀口大輔氏。同社は日本最大級の茶畑を運営し、深蒸し茶、浅蒸し茶、烏龍茶、紅茶、てん茶、釜炒り茶と多様な6種類のお茶を生産しています。
RightARMの活用を通じた茶葉の生産管理や業務効率化について、テラスマイル執行役員 CTO・林戸宏之とともに紹介します。
「IT活用でさらに業務効率化を図りたい」と考えプロジェクトを開始
ー堀口製茶とテラスマイルが一緒にプロジェクトを進めていくこととなったきっかけを教えてください。
堀口さま:9年ほど前、熊本にある中小企業大学校の人吉校に、私がテラスマイル代表の生駒さんの講演を聞きに行ったのがきっかけでテラスマイルの事業を知りました。講演後に代表の生駒さんとお話ししたところ、これから茶業のデジタル化にも挑戦していくと言っていたんです。数年後に再会し、その後の展開を聞いてみたところ話が進んでいたので、何か一緒にできないかとなったのが始まりですね。
ーIT活用に関する課題感をお持ちだったということでしょうか。
堀口さま:実は父の代から、すでにIT活用は進めていました。パソコン導入も同業種の中では早かったと思います。ただ、会社の規模も大きくなってきて、いろいろな方が働いている状況で、もっと進めていくべきだと感じていました。
初めはオフラインでパソコン上に作業記録などを入力できるソフトを使っていました。その後、大手企業が提供するシステムを使って作業記録をつけたりしていました。ただ、そのシステムの導入時はまだインターネット回線が強くなく、畑に行くとつながらないことも多かったです。また、使いやすくするための改修にもかなりの時間と人手がかかり、結局現場で使えませんでした。その後、別の会社の提供する、畑ごとに栽培する作物やそこでの作業内容を記録できるアプリケーションを使って管理し始めました。
そうした試行錯誤を繰り返し、IT活用でさらに業務を効率化しようと考えていた時に、テラスマイルとプロジェクトを進めることになりました。
摘採と製造計画の自動化で、従業員の働きやすさも向上
RightARM画面イメージ
ー堀口製茶さまが使われているテラスマイルのシステムは、具体的にどのようなものでしょうか。
林戸:我々の提供するRightARMは、農業経営者が持つ畑の情報や作業や機器の記録、気象の情報や市況の情報など、農業現場を取り巻くさまざまなデータを取得・集約し、農業経営に役立つデータ分析を可能にするプラットフォームです。堀口製茶さんの場合だと、分析機器やシステムもあるので、それらからもデータを取得してRightARMに集約し、さまざまな場面で活用していただいています。
RightARMを通して集約できる農業現場における様々なデータ
堀口製茶さんに提供しているシステムは2種類です。1つは、実績データの分析システムです。お茶の場合、1年間に4回摘採(摘み取り)しますが、それぞれのタイミングでの出来や、茶畑や品種ごとの分析をしています。また、堀口製茶さんには系列の農家さんがいらっしゃるので、その作業記録データも含め、さまざまな切り口でその年の結果を示せるようにしています。
もう一つのシステムが、茶葉の生育状況を見ながら摘み採り時期を自動で算出する「摘採支援システム」です。
生育状態を見ながら茶葉の摘採時期を判断しなくてはならないのですが、摘採適期(摘み取りに適した期間)は3日ほどしかありません。工場がさばける上限量も決まっているため、畑と工場の両方の管理が非常に重要です。茶葉を摘んだあとにすぐに工場で加工できなかったり、工場のキャパシティがいっぱいだからといって摘み残したりすると、茶葉の質が下がってしまいます。収穫と製造のバランスを取らなくてはならず、きちんと計画を立てた上で従業員のアサインや指示を行う必要があるため、非常に複雑な管理が求められます。
我々のシステムに情報をインプットすることで、各茶畑単位で摘採予定日と予定量が自動算出され、その結果をもとに毎日工場に持ち込まれる量も計算できます。そのため、畑と工場を管理するうえでの作業負担を大幅に軽減することができます。
RightARM(摘採支援システム)の活用フロー
ーRightARMによりかなり業務が効率化されたのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
堀口さま:すごく良くなりました。工場や系列農家さん、自社の社員からの情報をシステムが自動で集約して活用できる形にアウトプットされるため、かなり業務が効率化されました。
もしこうした作業を手書きで行った場合、情報の伝え方がバラバラになってしまいます。また、消したり書いたりするのに時間がかかりますし、情報が適切なタイミングで共有されず、推測の中で摘み採り時期などを決めなければならないこともありました。それをRightARMが解決してくれたと感じます。また、摘み採りの順番や進捗を全員が見られるため、会話だけだとうまく伝わらない部分や、勘違いが起きがちな部分を、その場で解消することができています。
生産実績が見られるのもありがたいです。それぞれの責任者や担当者と認識を合わせやすいですし、それぞれの社員が自分の業務の周辺情報もきちんと把握でき、業務の円滑化が進んでいます。
徹底的なヒアリングによるシステム構築できちんと定着
ー昔からITを活用されていたとはいえ、新しいサービス導入への抵抗はあったのではないでしょうか。
堀口さま:もちろんありました。今とは違うことをするのには、誰しもがストレスを感じると思います。
新しいことを始める場合、誰が何を伝えるのか、誰と組むのかというところが一番大事だと考えています。そこで、林戸さんを含むテラスマイルの方々に来てもらい、私はもちろん、それぞれの担当者へのヒアリングや説明をしながら進めていただきました。現場との相違があった場合は、きちんと双方の意図を確認して細かい所を詰め、最終的なシステムを構築してもらいました。
ーそうした細かなやり取りを経て、システムが出来上がったのですね。
堀口さま:かなり御足労をおかけしましたが、だからこそ定着したと思います。パッケージとしてできたサービスを入れようとすると、現場とどうしてもずれが生じます。テラスマイルの皆さんはきちんと現場と話をすることで、そこを解消してくれたと感じています。
林戸:堀口製茶さんの従業員の方々が、一緒にしっかりと取り組んでくださったのが印象的でした。当初は不安もあったと思いますし、表情や反応からもそれは感じ取れました。そのなかでも、我々の説明を熱心に聞いてくださり、システムの導入にも真摯に取り組んでくださいました。だからこそ、しっかりやり切ることができましたし、定着したと思います。
プロジェクトは終了しましたが、その後もシステムを継続利用していただいており、年々問い合わせや操作ミスが減ってきているのを実感しています。
ーRightARMを入れたことで、明らかに良くなった点は何ですか。
堀口さま:現場で働く人たちのストレスが明らかに減り、今までよりも確実に働きやすくなりました。先ほど、作業記録などを手書きした場合、色々な人が書き変えて、情報がうまく共有されなくてという話をしましたが、同じ話の繰り返しでや言い間違い、やり間違いが多いことほどストレスなものはないです。そうした無駄をなくせた結果、多くの人が働きやすくなっています。
人、場所、機械のシェアでさらなる効率化を
ー今後チャレンジしていきたいことがあれば教えてください。
堀口さま:堀口製茶の関連会社の「大隅ティーナリー」で、4つの事業の柱ができました。そのうちの1つであるシェアリング事業を、テラスマイルのシステムを活用しながら2025年をめどに本格始動させたいです。
このシェアリング事業は、系列の農家さんを含む堀口製茶の関係者の間で、人と機械と場所を共有してより業務効率を高めようというものです。
系列の農家さんを含め、堀口製茶では6つの茶種を700以上の茶畑で製造しています。毎年繁忙期には人を採用していますが、年々人材確保が難しくなっています。ただ、繁忙期は農家ごとに微妙に違うんです。そのずれを活かして人、場所、機械をシェアできれば、ムダなくムラなく作業をすることができると考えています。
テラスマイルのシステムを使うことで、どこに何人いて、それぞれがどういった状況かを把握できるようにします。それにより、繁忙期前後の比較的余裕のある農家さんの人手を、適切な場所に配置することができると期待しています。
実は堀口製茶の工場では、2023年、2024年と、人手不足で日曜日の作業を止めざるを得ませんでした。この人員不足を採用で埋めようとすると、利厚生を含めて年間で2000~3000万円ほどの費用が発生します。テラスマイルのシステムをうまく活用し、シェアリングによって人材が確保でき、日曜日も稼働できれば、製茶作業が1週間から10日ほど早く終わるんです。しかも、新たな人材確保にかかる費用と比べると20分の1から30分の1に抑えられるため、浮いた資金を畑の整備や福利厚生などに充てられます。
そうした観点で、シェアリング事業は絶対に必要だと考えているので、きちんと実施していきたいです。
林戸:堀口製茶さんでは、先ほど紹介したシステムを2021年に導入しましたが、毎年少しずつ拡張していっており、今まで扱っていなかったデータも少しずつ取り込み始めています。その流れで、今回のシェアリングの話が出てきました。こうしたデータ活用で、今後も堀口製茶さんの成長と発展に寄与していきたいです。
ーテラスマイルはデータ活用によりさまざまな農業経営者を支援しています。今後はサプライチェーンも含めてデータ化することで、農業におけるあらゆる分野の生産性向上を目指していきます。