深夜ドラマ主演の20歳俳優の“まさかの父親”。有名CMも堂々と受け継ぐ最強のポテンシャルとは
毎週火曜日深夜24時30分から放送されている『ウイングマン』(テレビ東京)主演の藤岡真威人は、まだ20歳の新人ながら、フレーム(画面)に対する感性が優れている。
父は藤岡弘、(以下、藤岡弘)。初代ライダー俳優の息子が、本作で新たな特撮ヒーローを演じているだけでも面白いと思う。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、令和最強のポテンシャルを感じる藤岡真威人を解説する。
◆『ウイングマン』に感じるユニークなヒーロー像
ずいぶん頼りないヒーローがいるもんだ……。『ウイングマン』の主人公・広野健太(藤岡真威人)は、特撮ヒーローに憧れる高校生。授業そっちのけで大好きなヒーローの絵を描いて、学校帰りに持参したコスチュームで変身することを楽しみにしている。
単に憧れるだけではあきたらない。健太は、コスチュームで変身したからには世直しとばかりに意気込み、タバコのポイ捨てなどを取り締まる。それくらいでやめとけばいいのに、第1話でクラスメイトの小川美紅(菊池姫奈)が不良に絡まれているところに遭遇して放っておけなかった。
見た目はヒーローだが中身は普通の高校生である。健太は、返り討ちにあってぼこぼこにされる。これが令和の新しいヒーロー像なのかはよくわからないが、でも本作にはそれなりにユニークなものを感じる。
◆ドタバタ喜劇映画で多用されていたカットのつなぎ方
なにがどうユニークなのか。不良たちに絡まれる美紅と遭遇した場面を確認してみる。健太が親友の福本智夫(丈太郎)と歩いている少し先の方に美紅たちがいる。健太は迷わず向かう。画面上手からフレームアウト。
次のカットで不良たちを今まさに相手にしようとする健太が、今度は画面下手からフレームイン。よーく見ていなければ、なんてことはない場面に思えるが、現代の映像表現としてこれは古風だなと感じた。
今どき、フレームアウトした人物を本作のようにこんな律儀なフレームインでつなぐことは少ないからである。これはたとえば、チャーリー・チャップリンなどのサイレント期のドタバタ喜劇映画で多用されていたカットのつなぎ方。それを令和の特撮パロディー(?)ドラマであえて使っているところに本作のユニークな魅力を感じたのだ。
◆コメディ俳優の素質
そうした古風な演出に対して、藤岡真威人はなんとも涼しい顔して前のカットから次のカットへ、フレームアウト、フレームインする。フレームに対する感性が優れている彼が演じる広野健太がコミカルなキャラクター性ということもあるが、そもそも本人が本質的にコメディ俳優の素質をもっているのか。
他の作品も確認してみる。さまざまなタイプの「“クール”で“ドジ”なイケメン男子」たちの生態をで描く『クールドジ男子』(テレビ東京、2023年)に藤岡真威人が出演している。彼が演じた二見瞬は、“強がりストイック”というタイプに分類されている。
第1話の初登場が登校場面として描かれる。バス車内でゆられる瞬がイヤホンで音楽を聴いてテンションをあげているつもりが、実はイヤホンが抜けていて音がだだもれになっている。内心焦りながら、外面はカッコつけようとする性格が分類の理由である。
◆画面の内と外を想像力で結びつける
内面の焦りがモノローグで描かれることで、静かに取り繕う外面とのちぐはぐなギャップが、藤岡の身体全体で表現されている。この内面ドタバタな感じをそれこそクールに演じるあたり、やっぱりコメディ俳優の素質があるんだなぁ。
すました顔でつり革につかまり、画面上をゆらりゆれる姿もすごくいい。登校場面から翻って、下校する場面でも瞬は音をだだもれにする。校舎からでてきた彼がイヤホンを耳に装着していると、まーた絶対コードがつながっていないよなと視聴者はすぐに想像できる。
つまりコードがつながっていないスマートフォン自体を画面上に写さず、つながっていなかったというオチを開示する前からコミカルな状況が伝わる。『ウイングマン』第1話でのフレームアウト、フレームインといい、藤岡真威人は、画面の内と外を(視聴者と共同する)想像力で結びつけている。
◆二世俳優が乱立する令和最強のポテンシャル
現在20歳。俳優デビュー作は、セガによるオリジナルキャラクター「せが四郎」動画シリーズ。どうしてこのシリーズ動画に藤岡真威人が出演したのかというと、彼の父が藤岡弘である文脈にふれないわけにはいかないだろう。
1997年、セガのCMで道着を着た藤岡弘が演じたキャラクター名が、せがた三四郎。息子俳優が新たなキャラクターとして受け継ぐ。メイキング動画を見ると、撮影現場で藤岡真威人を眼差す藤岡弘が「僕の若い頃にちょっと似てきたね、う〜ん」とディープなトーンでつぶやいている。
言わずと知れた初代ライダー俳優である父をもつ藤岡真威人が、『ウイングマン』でヒーローに憧れる高校生から実際にヒーローの力を得る姿はこの父子にしかできない時代の超え方ではないか。一方で筆者は、『クールドジ男子』放送時、そうした関係性をまったく知らなかった。
客観的に見て、藤岡真威人は、二世俳優が乱立する令和最強のポテンシャルを秘めている気がする。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu