年末の駆け込み時期に注目される新しいかたちのふるさと納税 観光で訪れたまちを体験し、応援できる「旅先納税®︎」誕生秘話
株式会社ギフティは、キモチの循環を促進することで、よりよい関係でつながった社会をつくるために、eギフトを軸として、人、企業、街の間に、さまざまな縁を育むサービスを提供しています。そのサービスの1であり街と人をつなぐソリューションとして、2019年より提供を開始した仕組みが、旅先でのふるさと納税を実現する「旅先納税®︎」です。2024年12月23日(月)時点で、全国87自治体に採用されています。
こちらの記事では、「旅先納税®︎」が誕生した背景や、全国の地域で徐々に浸透するまでに乗り越えた困難や苦境などの裏話や、サービスに込められた思いをご紹介します。
毎年、師走の時期は「ふるさと納税」を控除の上限額まで寄附を実施しようという駆け込み寄附が増えます。「ふるさと納税」とは、応援したいと思う自治体を自由に選べて寄附ができる制度。寄附をすることにより、地域貢献につながるうえ、「確定申告」または「ワンストップ特例制度」を利用することによって、税金の控除・還付を受けることができます。さらに、自治体によっては寄附者へ「お礼」という形でその土地の名産品や特産品が送られます。
「ふるさと納税」の返礼品の人気ランキングで上位にあがる常連は、イクラやホタテなどの海産物やブランド肉といった各自治体の特産品です。これに対しギフティは、ふるさと納税の返礼品として旅先で訪れた街のお店で利用できる電子商品券をスマートフォンで受け取ることができる「旅先納税®︎」の仕組みを考案し2019年より提供を開始、昨今、新しいかたち「ふるさと納税」として存在感を高めています。
コロナ禍後の旅行需要の回復に従って、ギフティが提供する「旅先納税®︎」の導入自治体は急速に増えており、2024年12月23日(月)時点で、87自治体にまで拡大しています。また、「旅先納税®︎」の返礼品である電子商品券には有効期限が設けられていますが、有効期限を365日以上に設定している自治体も33自治体にまで増えています。1回の旅行で使い残した電子商品券を、再び別の機会で利用できるほか、駆け込み時期に購入しても、1年間のうち、都合の良い日程で旅に出かけて、電子商品券を使うことができるメリットがあります。
ギフティ 常務執行役員 森悟朗さん
「旅先納税®︎」を主幹している常務執行役員の森さんは「ふるさと納税の新たな返礼品および寄附手段として、また地域経済活性化の手段として、全国の自治体への「旅先納税®︎」の提供を推進しています。また、ギフトで人と街の間に、さまざまな縁を育むサービスを提供するというコーポレート・ビジョンのもと、各種サービスやソリューションの普及を通じて、地域活性化および旅行者の新たな体験の創出に貢献していきたい」と意気込みます。
電子化を体験したばかりの市長との出会い 岡山県瀬戸内市で「旅先納税®︎」第1号案件
「旅先納税®︎」は、スマートフォンから即座にふるさと納税(寄附)ができ、ふるさと納税の返礼品として地域で利用可能な電子商品券を即座に受け取り、市町村内のお店で使用できる仕組みです。ギフティが展開している自治体・地域の課題を解決するデジタルプラットフォーム「e街プラットフォーム」の基本ソリューションであり、地域で利用可能な電子商品券の発行、流通を可能とするシステムである「e街ギフト®︎」とあわせて自治体が導入することで、ふるさと納税の一環として、「旅先納税®︎」の実施から、返礼品の受け取り・利用までの一連の行動を旅前・旅先で実施することが可能となります。
旅先で寄附を行うことで旅行中にベネフィットを得やすくなるため、ふるさと納税の促進にもつながります。寄附に加えて返礼品として受け取った電子商品券が旅先で利用されることで、よりスピーディーな地域への還元を実現し経済波及効果の向上も期待できます。さらに、旅前の寄附を促進することで、返礼品を受け取った方に対して観光を誘致することも可能です。このほか、地域で利用可能な電子商品券の利用実績は全て自動でデータ化されるため、加盟店における裏書や集計、請求が不要で、入金を含む精算作業にかかる時間を短縮することができ、加盟店の負担も減らし迅速な経済還元が実現できるなど、様々な効果を生み出すことが期待できます。
このように、導入自治体と加盟店、旅行客(納税者)の“三方良し”の実現を狙った「旅先納税®︎」は、どのようにして生まれたのでしょうか?森さんは、「ギフトで人と街をつなぐというミッションに沿った新しい事業を立ち上げるため、ギフティの関西支局であるギフティ京都を拠点に全国を行脚し、地域のニーズを聞いて回る中で生まれたサービスです」と振り返ります。
2016年「しまとく通貨」発表時の記者会見の様子
左から)株式会社J&Jギフト 代表取締役社長 森さん(2016年当時)、しま共通地域通貨発行委員会江口事務局長(2016年当時)、ギフティ太田代表取締役
まずは、2016年に長崎の離島地域で始めた電子地域通貨「しまとく通貨」がきっかけになりました。「しまとく通貨」は、ギフティと当時森さんが代表と務めていた株式会社J&Jギフトの協業のもと実現した国内初となるスマートフォンを活用した電子地域通貨であり、もともと紙で発行されていた地域通貨の集計などの処理にかかるコストや手間を省くことに成功した例として、大きな話題になりました。このときから、同様の仕組みを使って、ふるさと納税の返礼品としても活用できるのではないかとのアイデアが持ち上がりました。
そして、様々な自治体に営業活動をしていた2019年春ごろ、ふるさと納税の電子化事業に興味を持っていた岡山県瀬戸内市の武久顕也市長と森さんとが出会ったことをきっかけに具体化への道が開けたそうです。その後、半年かけて準備をして、19年11月に「旅先納税®︎」の第1号案件の発表にこぎつけました。武久市長は、森さんとの面談の前、東京の離島地域をイベント出席のため訪問されており、その時に使ったプレミアム付き宿泊旅行商品券「しまぽ通貨」を使った経験があり、その便利さを実感いただいていたそうです。「しまぽ通貨」は東京都の島しょ地域で発行される地域通貨で、「しまとく通貨」に続き、2017 年からギフティが電子化を手掛ける通貨です。実際の面談相手が偶然にも「しまぽ通貨」に関わった森さんだったことで、「しまぽ通貨のような仕組みが、この街にもあったら、様々な可能性が広がるはず」という話で意気投合し、「旅先納税®︎」実現へ向けてとんとん拍子で話が進みました。
スマートシティ関連の展示会で高い関心 未来が見えた矢先に新型コロナの試練
そのあとすぐ、京都で実施されたスマートシティに関する展示会にギフティが「旅先納税®︎」を出展したとき、ブースに足を運んだ自治体関係者から「ぜひ、やりたい」というオファーが相次いで寄せられました。しかし、その矢先、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの集団感染が発生したというニュースが流れ、パンデミックの猛威が日本でも現実のものとなりました。世の中は、感染拡大を防止するための対策が最重要であり、観光に関する施策を展開する時期ではないといったムードにガラリと変わりました。
それでも森さんは、「一度は多くの自治体に関心を持ってもらえたので、しっかりと説明すれば、「旅先納税®︎」の魅力は必ずわかってもらえるはず」と確信を持っていたそうです。しかし、パンデミックの波は猛威と収束が交互にやってきて、コロナ禍はいつ明けるかがわからない。まさに、五里霧中のなかで事業展開のチャンスを待つしかありませんでした。
「GoToトラベル」で発行された地域共通クーポン(電子クーポン)
そんな時、「しまとく通貨」「しまぽ通貨」という地域通貨事業の実績が評価され、政府の施策「GoToトラベル」で、全国の地域共通クーポンを電子化し運用する基盤としてギフティの「e街プラットフォーム」が採択されました。当時はまだ、パンデミックは終わったわけではなく、観光需要が完全に回復する前に感染拡大の波がやってくる状態でした。しかし、「全国規模の国の施策を回し切った」という“お墨付き”が評判を呼び、その後の自治体を回る営業活動では、確かな手ごたえを感じることが多かったうえ、観光業界にも足がかりをつけることができました。
コロナ禍で苦境にある飲食店や体験施設などの観光業界を救済することを目的とした政府の「GoToトラベル」は、そのシステムを受託したギフティの認知度を上げるきっかけとなり、同時に、ふるさと納税では光が当たらず、かつコロナ禍で最も深刻な影響を受けた観光業界に恩恵をもたらすことができるギフティの「旅先納税®︎」に対する注目度も高まっていきました。
コンソーシアム結成で自治体間の連携を強化 企業との共創により認知度を高める戦略も奏功
2023年には「旅先納税広域連携コンソーシアム」の総会を
北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」で実施
2022年1月には「旅先納税®︎」を導入した自治体有志が集まり、成功事例などを共有する「旅先納税広域連携コンソーシアム」を設立しました。森さんは「「旅先納税®︎」を広げようと考えた時、一度、その良さを体験した利用者に、別のまちでも体験してもらうことが重要です。寄附者の旅先納税IDを共通化して、「旅先納税®︎」のシステムを導入する自治体間で広域連携する新たな地方創生チャネルを作ること、またベストプラクティスを自治体間で共有するというのがコンソーシアム設立の狙いです。コンソーシアムでは全国の好事例を発表する総会の場を設けていますが、参加者は年々増えていて、主催者であるギフティよりも、成功例を雄弁に語る参加者の情熱が伝わってきて、感激しています」と話しています。
さらに、利用者への認知度を高めるため、2022年11月には、JAL(日本航空株式会社)と業務提携契約を締結しました。JALは旅行前や旅行中を意識した旅行客のタッチポイントで、「旅先納税®︎」の利便性やメリットを伝えるプロモーションやキャンペーンを実施し、利用客を増やすことに貢献しています。さらに、JALとともに導入自治体を開拓したり、JALグループが「旅先納税®︎」の事務局を担うこともあります。また、JALグループは24年9月からは、JALふるさと納税サイトで「JALの旅先納税」サービスの提供を開始されました(※)。「JALの旅先納税」に寄附すると、ギフティが展開する「旅先納税®︎」の返礼品である電子商品券をサイト上で受け取り、寄附先の自治体ですぐ使える仕組みです。一方、関西圏の飲食店を中心とする地域店舗のネットワークをデジタル化し地域経済の活性化に貢献するため、22年10月には大阪ガスと業務提携契約を締結しました。その後、関西圏の自治体が「関西おでかけ納税」に参加するなどネットワークの輪が広がっています。このほかにも、「旅先納税®︎」を行う地元の社会インフラを担うエネルギー企業との連携も広げています。
ふるさと納税は基礎自治体(市町村と東京23区)が寄附を集めるというルールになっていますが、観光客は基礎自治体の区分を考えて旅行を楽しむわけではありません。「旅先納税®︎」は、基礎自治体をまたいだ周遊観光型の地域で活用できるソリューションとしても注目されています。基礎自治体が広域で連携する周遊観光型の「旅先納税®︎」の成功例の一つとして、「海の京都地域」と呼ばれている京都府北部地域の7自治体(福知山市、舞鶴市、綾部市、宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)があります。
2024年2月 さっぽろ連携中枢都市圏 「旅先納税®︎」導入発表時の記者会見の様子
左から)北海道観光振興機構 小金澤会長、札幌市天野副市長、ギフティ森さん
「海の京都地域」のような周遊観光型の地域では、「寄附は基礎自治体にしたうえで、返礼品の電子商品券は共通化するという「旅先納税®︎」の仕組みが適しています。。基礎自治体の寄附に偏りが出ないように、サイトを開いた時に、表示される自治体の順番がシャッフルされる仕組みにしています。海の京都地域の「旅先納税®︎」は、周遊観光型の地域の成功モデルとして、全国の観光協会やDMOなどから評価されるようになりました。この後、さっぽろ連携中枢都市圏内の11市町村(札幌市、小樽市、岩見沢市、江別市、恵庭市、北広島市、石狩市、当別町、新篠津村、南幌町、長沼町)が海の京都地域を視察し、「旅先納税®︎」をスタートするなど、まさに“ご縁の数珠つなぎ”になっています。
旅行前に電子商品券を使える加盟店をチェック 行きたい店を計画的に回る使い方がおすすめ
地域経済の活性化に寄与することを目指した「旅先納税®︎」ですが、利用者にとっての魅力は、何といってもその使い勝手の良さにあります。ふるさと納税の制度を利用し、旅行・出張で訪れた自治体に寄附できるうえ、寄附すると、返礼品として宿泊施設や飲食店、レジャー施設、土産物店などで使える電子商品券が即もらえます。しかも、スマホを使って約5分ほどで簡単に寄附を行え、電子商品券はその場でもらえるので、旅先ですぐに使うことができるという手軽さを評価いただいています。例えば、加盟店の飲食店でオーダーした後や食事を楽しんでいる間に寄附をしても大丈夫。お会計時に返礼品である電子商品券を利用することができます。
返礼された電子商品券は様々な地域の加盟店で利用できる
左上から)札幌市「鮨 棗 大通ビッセ店」、花巻市「藤三旅館」、高松市「オーベルジュ ドゥ オオイシ」、出雲市「松露庵 出雲店」
寄附上限額はふるさと納税の仕組みと同じで、年収などの条件から算出される「控除限度額」と呼ばれる金額の範囲内の寄附を行います。「旅先納税®︎」公式サイトのシミュレーターを活用すれば、年間のおおまかな上限額を確認することができます。例えば、年収500万円の会社員独身(または共働き)の場合、目安の金額は6万1000円になります。
寄附金額に応じた額の電子商品券が返礼されます
事前に「旅先納税®︎」のサイトなどを参考にして、訪れたい街を選び、旅行の計画を立てるというのもオススメです。6万円の寄附を行えば、寄附額の3割にあたる18,000円の電子商品券がもらえます(一部返礼率が異なる自治体もあり)。電子商品券が使える加盟店は各自治体の専用サイトで調べておくと便利です。自己負担額は2,000円で、ワンストップ特例制度の利用や確定申告を行えば、翌年の住民税や所得税から58,000円が控除されます。
ふるさと納税の手続きに期限が設けられていることにも注意が必要です。ワンストップ特例制度は、寄附した翌年の1月10日(自治体必着)で、確定申告は原則寄附した翌年の3月15日までです。この点でも、「旅先納税®︎」を駆け込み利用する場合は、期限までに手続きを済ませておけば、多くの自治体が電子商品券の有効期限を設けているので、ゆっくりと旅の計画を練ることができます。
これまでの「旅先納税®︎」の使われ方を見ると、寄附から電子商品券の利用までのタイミングが24時間以内に行われるケースが利用者全体の6割から7割を占めています。旅行に出かけて、旅行先で「旅先納税®︎」のことを初めて知って、手続きをする人がほとんどなのです。それもひとつの楽しみ方ですが、さらに効率的に「旅先納税®︎」を行うには、旅行前に電子商品券を使える加盟店を調べたうえで、どこで商品券を使い、どういうルートで観光をするのかなどの計画立てることがおすすめです。
ギフティが費用を投下しプロモーションを強化 観光地中心に250自治体のネットワーク目指す
森さんは「「旅先納税®︎」はギフティの登録商標ですが、関係者が現地型ふるさと納税のことを旅先納税と呼ぶと思ってもらえるほど、認知度は高まっています。さらに、多くの人に知ってもらうためには、次年度からは、プロモーションをより強化していきたいと考えています。意欲のある自治体に呼び掛け、協力して多くの成功事例をつくっていきたいです」と今後の展望を描いています。
「旅先納税®︎」担当メンバー(一部)
「旅先納税®︎」は2024年12月16日時点で、87自治体にまで導入が拡大しています。「まずは、3ケタの自治体導入を早期に達成し、これらの「旅先納税®︎」の成功事例とその秘訣を示しながら、これから「旅先納税®︎」にトライしてみたいという自治体に対し、その魅力と効果的な実施方法を訴求すべく進めます。全国に約1,700ある基礎自治体のうち、交流人口の多い観光地を中心に、250自治体程度にネットワークを広げていくことを目標に、「旅先納税®︎」の更なる普及、および地域経済活性化をめざします」と森さんは語ります。
(※) 2024年8月には、ANAあきんど株式会社が運営するふるさと納税ポータルサイト「ANAのふるさと納税」内でも、「ANAの旅先納税」を開始しています(参考)