「G-SHOCK」のカシオが“一人負け状態”に。セイコー、シチズンと明暗が分かれた理由――ニュース傑作選

2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。企業や業界の実態から2024年を振り返る「経済ニュース」部門、第10位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年3月28日 記事は取材時の状況、ご注意ください) *  *  *

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 セイコー、シチズン、カシオは日本を代表する時計メーカー。各社の方向性やカラーは全く異なりますが、時計セグメントの売上高は驚くほど似通っています。

 その数字に異変があらわれました。カシオが王者の座を追われているのです。

◆中国とアメリカで大苦戦するカシオ

 カシオの2022年4-12月の時計セグメントの売上高は1211億円。シチズンとは38億円(3.2%)、セイコーとは109億円(9.9%)もの売上差がついていました。しかし、2023年4-12月のカシオの売上高は1265億円で、シチズンの1272億円に追い抜かれたのです。セイコーとの差も38億円(3.2%)に縮まりました。2023年4-12月はセイコー、シチズンともに売上高は1割増加しています。一方で、カシオは4.5%の増加に留まりました。

 セグメント利益はカシオが17.2%の減少。セイコーは39.3%、シチズンが17.2%と、他2社はそれぞれ増加しています。日本が世界に誇る時計ブランド「G-SHOCK」のカシオが一人負けとなってしまったわけです。

 カシオの日本の時計売上は、意外にも全体の17%に過ぎません。アメリカとヨーロッパが36%、中国とインドを含むアジア圏が47%で、海外の比率が圧倒的に高くなっています。特に不調なのがアメリカと中国。2022年4-12月の売上高は、アメリカが13%、中国に至っては38%もの減少に見舞われていました。

 アメリカはインフレによる消費意欲の減退。中国はゼロコロナ政策による消費活動の制限が大きく影響しました。2023年に入っても回復しきらず、アメリカは更に5%減少しています。中国は19%増加するものの、コロナ禍の減少分を取り戻す水準まで戻りきっていません。

◆コンクールで実力を見せつけたセイコー

 セイコーは主力ブランドの「グランドセイコー」、「セイコープロスペックス」が好調でした。

 グランドセイコーは信頼性の高いブランドとして海外から強い支持を得ています。

 信頼性を獲得しているのは、セイコーが地道な努力を重ねているからです。時計大国スイスでは、毎年ムーブメントの精度を競う世界大会「天文台コンクール」が行われていました。1964年にセイコーが参加するものの、144位という散々な結果に。しかし、3年後には上位入賞を果たします。その後も結果を出し続けました。

 世界的な舞台で活躍し、メーカーとしての存在感をアピールする姿は、数々のレースで実力を見せつけた本田技研工業とよく似ています。ホンダブランドは、今でもアメリカを中心に絶対的な信頼を獲得しています。

 天文台コンクールは1976年に終わりを告げますが、セイコーブランドを世界に知らしめることができました。セイコーは時計職人の育成に力を入れており、2004年に機械式腕時計の生産を一貫して行う雫石高級時計工房を新設。技術と技能を伝承する取り組みを本格化させています。

 セイコーもカシオ同様、アメリカと中国で苦戦をしていますが、ヨーロッパが底堅く推移しています。また、日本におけるインバウンド消費が旺盛。日本の時計といえばセイコーというイメージが海外観光客に浸透しているのです。

◆シチズンのアメリカ進出は吉と出るか?

 シチズンは「ATTESA」と「PROMASTER」の主力ブランドが増収をけん引。海外はやや苦戦しているものの、国内が堅調に推移しています。特に「ATTESA」が人気です。

 このブランドはチタン素材を採用した腕時計で、軽量かつ堅牢という特徴があります。更に光発電、GPS電波時計、多局受信型電波時計などの最先端技術を盛り込みました。価格は10万円程度で手に入るモデルが多く、ビジネスからカジュアルまで幅広く使えることから若いビジネスマンに人気があります。

 現在、シチズンはアメリカ攻略を着実に進めています。2007年にアメリカの機械式時計の老舗メーカーである「BULOVA(ブローバ)」を買収し、増収に寄与しています。また、2023年12月にフラッグシップストア「CITIZEN FLAGSHIP STORE NEW YORK」をニューヨーク5番街にオープン。「CITIZEN」やブローバなどの主要ブランドを展開しています。

 シチズンもセイコーと同じく時計職人の育成にも力を入れています。腕時計の組立てまでを自社一貫製造する環境を整え、技能五輪への出場をバックアップしているのです。ムーブメントはアナログクオーツが軟調である一方、機械式ムーブメントは堅調に推移しています。

◆停滞する時計市場と好調なスマートウォッチ

 腕時計の市場はスマートウォッチに侵食されていると言われていますが、最初のターゲットとなるのはデジタル腕時計でしょう。機械式時計は趣味性が高いため、スマートウォッチが代替品にはならないからです。

 スマートウォッチはスマートフォンと連動するために利便性が高く、機能性はデジタル時計と遜色ありません。防水タイプもすでに登場しており、使用できるフィールドは着々と広がっています。

 MM総研はスマートウォッチの国内販売台数に関する調査を実施しています(「2022年度通期 スマートウオッチ市場規模の推移・予測」)。それによると、2022年度の販売台数は前年度比13.7%増の390.3万台でした。2024年度には500万台、2026年度には600万台を突破するとの予想を出しています。

 日本時計協会によると、2022年日本の腕時計の総出荷数は5220万個。前年比0.4%の減少でした(「2022年日本の時計産業の概況」)。このうち、水晶デジタルは1670万個。前年比で1.2%増加しているものの、コロナ前(2019年)の1920万個と比較すると、15.0%減少しています。デジタル化が進んだコロナ禍をきっかけとして、スマートウォッチが市場を侵食したとも見ることができます。

 カシオは堅牢であることに特化するか、スマートフォンなどと連動するスマートウォッチに寄せるか、はたまた別の展開を行うか。中長期的には新たな取り組みが求められるでしょう。

<TEXT/ 不破聡>

【不破聡】

フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

2024/12/20 8:45

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