大谷翔平に認識されてない?プレミア12敗戦で批判噴出の井端監督が「侍ジャパン指揮官に適任なワケ」

 先月に行われた野球の国際大会「プレミア12」。若手中心のメンバー構成となった日本代表の侍ジャパンは、大会を通じて8勝1敗の好成績を残したが、唯一の黒星が台湾と争った決勝戦だった。

 それまでの8試合で合計63得点を記録していた打線は、肝心の決勝で台湾投手陣の前に4安打と沈黙。一方、先発マウンドを託された先発の戸郷翔征(巨人)は5回に台湾打線につかまり、この回だけで4失点と打ち込まれた。

 結局、侍ジャパンは0-4で敗れ、国際大会における連勝は「27」でストップ。“格下”とみられた相手に完敗を喫したことで、SNSなどでは井端弘和監督の采配に対して、懐疑的な意見も見られた。

 最たる例が戸郷を5回まで引っ張ったことだろう。イニングの先頭打者に先制弾を許したまではまだ良かったが、制球が安定しない戸郷を続投させた末に致命的な3ランを献上。これには、井端監督の指揮官としての経験不足を嘆く声が多く聞かれた。

◆“セ・リーグびいき”の人選だったのか

 また、決勝戦で投手を含めたスタメン10人のうち7人がセ・リーグ所属の選手だったことにも疑問符が投げかけられていた。

 直近の2年はセ・リーグの阪神とDeNAが日本一に輝いているものの、ここ20年ほどはソフトバンクを中心としたパ・リーグが隆盛を誇ってきた。実際に過去のWBCでチームの顔を務めてきたのは、イチロー松坂大輔、ダルビッシュ有、大谷翔平、吉田正尚らパ・リーグ出身の選手が多い。

 ただ、井端監督は選手としてだけでなく、指導者としてもパ・リーグに所属したことが一度もない。いいか悪いかは別として、今大会の人選を見ると、セ・リーグの選手に偏重していたと言わざるを得ないだろう。

 また、決勝戦直前の円陣声出しが物議を醸したが、そんな雰囲気を許した井端監督にも非があったと言われてもおかしくないだろう。決勝まで危なげなく勝ち上がったことで、チーム内にどこか緩んだ空気が漂っていたのは間違いない。井端監督にも、台湾相手なら勝てるだろうという油断があったのではないか。

◆井端監督を擁護する声も

 井端監督に対する批判の声が目立ったが、その一方で「9試合で1敗しただけだよ」「今回は台湾が強かっただけ」など擁護する声も少なくなかった。

 また、井端監督自身は指導者としての経験が浅いことも言い訳にできるだろう。中日と巨人で活躍した井端監督は、2015年に現役を引退。16年から巨人の一軍内野守備走塁コーチを3年務めたが、その後は解説者の傍ら、社会人チームの臨時コーチや母校・亜細亜大学の外部コーチなどで指導者経験を積んだものの、監督として指揮を執ることはなかった。

 侍ジャパンには17年からコーチとして携わっており、19年には強化本部編成戦略担当に就任。19年のプレミア12と21年の東京五輪では内野守備・走塁コーチとして、金メダル獲得に貢献している。

 指導者として着実に実績を重ねる中、侍ジャパンの監督に就任したのは昨年の10月だった。同年春にWBCを制した栗山英樹監督の後任として白羽の矢が立てられたが、実情はイチロー氏や松井秀喜氏、上原浩治氏ら少なくない元名選手らが侍ジャパン監督のオファーを固辞したためと言われている。

 そんな井端監督が侍ジャパンの指揮官として初陣を飾ったのは今年3月。欧州代表との強化試合を2連勝したが、今回のプレミア12がいわば本番デビューであった。

 先に述べた決勝戦における采配やベンチ内の空気など、井端監督の経験不足が露呈する部分が悪目立ちする結果となったが、むしろ2026年のWBCに向けてはいい意味で課題があぶり出されたのではないか。

◆どれだけ日本人メジャーリーガーを招集できるか

 井端監督に不安があるとすれば、オールジャパンが期待されるWBCでどれだけのメジャー組を招集できるかだろう。

 特に昨年のWBCで伝説の“憧れるのをやめましょう”という声出しを行った大谷翔平の参戦可否が最重要課題だ。実は、現時点で井端監督と大谷の間にはパイプがないとみられ、今年1月の『スポーツニッポン』の取材で、井端監督は、日本人メジャーリーガー全員と面談する方針を明かす中、「大谷とは個人的な面識はなく『認識(されて)ないと思って行きます』」と自虐的に語っていたほどである。

 実際に、今年の夏には8日間にわたって米国視察を行った井端監督だったが、日本人メジャーリーガー全員との面談は叶わず。特にドジャース戦を2試合観戦したにもかかわらず、大谷との対面は実現しなかったという。

 WBC連覇には大谷を筆頭として日本人メジャーリーガーの招集が大きなカギとなるだけに、あと1年強で彼らとどれだけの関係性を築けるかが非常に重要になってくるだろう。

◆長期政権が視野に入る可能性も

 プレミア12の決勝戦後に「井端辞めろ」がトレンド入りするほど憎まれ役となった井端監督だが、実は中長期的に見れば侍ジャパン監督として最も適任といえる。

 先述したように19年から侍ジャパンの強化本部編成戦略を務め、昨年までU-12の監督を兼任していた。今年からはU-15の監督を務めており、すでに続投が決まっている26年WBCで結果を出すことができれば、28年のロサンゼルス五輪や、現在U-15の“愛弟子”らがトップチームに加わるであろうその先のWBCを含めた長期政権も視野に入ってくるかもしれない。

 プレミア12の悔しさをバネに、まずは来年3月に行われるオランダ代表との強化試合2戦で真価を発揮してもらいたい。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】

1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。

2024/12/13 8:54

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