空目した日本馬の海外G1勝利/島田明宏
【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】
また老眼鏡を買った。今年だけで3つ目である。老眼鏡なんて、虫眼鏡をフレームにくっつけただけだからどれも同じだろうと思っていたのだが、そうではなかった。フレームの重量や柔軟性、レンズの倍率のほか、目からの距離が非常に狭い範囲でしかピントの合わないものがあるなど、しばらく使ってみないとどれが自分にフィットするのかわからないのだ。
特に、競馬新聞の馬柱を見るときなど、老眼鏡は欠かせなくなった。例えば、「競馬ブック」の馬柱で「弥生賞ディープインパクト記念」は「デプ記」と略されているのだが、裸眼では何回見ても「デブ記」にしか見えない。
「空目(そらめ)」の辞書的な意味は、「見えないのに、見えたような気がすること」「見ても見ないふりをすること」「上目(うわめ)を使うこと」といったものだが、ネットでの用法なのか、「文字を見間違えること」という意味で使われることも多くなった。というか、これが一番多い使われ方かもしれない。
その意味での「空目」をメディアがあえて利用することもあって、よくあるのは、女性タレントの「ノーバン始球式」という見出しだ。「ノーパン」と勘違いさせ、気を引こうとしているわけだが、老眼鏡なしのオジサンは、毎度それに引っ掛かってしまうのである。
私が直近でやってしまった「空目」は、先週末の香港カップ終了後にネットに出た「日本馬 6年ぶりに海外G1勝てず」というニュースの見出しだった。それは老眼のせいというより、注意力のなさや思い込みによるものなのだが、「日本馬 6年ぶりに海外で勝てず」と、「G1」を見落とす形で空目してしまったのだ。
6年ぶりに海外G1を勝てなかったことがニュースになるのだから、岡部幸雄氏や武豊騎手がアメリカの未勝利戦を勝って「世界の〜」と呼ばれていた(もちろん、その意義も非常に大きいのだが)ころに比べると、隔世の感がある。
6年ぶりということは、2018年以来ということになる。その年、ジェニアルがフランスのG3メシドール賞、モーニンが韓国のコリアスプリント、ロンドンタウンがコリアカップを勝っているが、G1では、ヴィブロスがドバイターフと香港マイルで2着、ディアドラがドバイターフで3着、香港カップで2着、リアルスティールがドバイターフで3着、リスグラシューが香港ヴァーズで2着に惜敗するなどしている。
さらに遡ると、2011年にヴィクトワールピサがドバイワールドカップを勝ってから、2017年にネオリアリズムが香港のクイーンエリザベスII世カップを勝つまで、日本馬は7年連続で海外G1を制している。
日本馬が海外で未勝利だったのは、2009年が最後になっている。アースリヴィングのUAE1000ギニーとUAEオークスでの2着が最高で、のべ11頭の日本馬が海外で出走した。
それから四半世紀を経た今年の日本馬による海外での勝利は、フォーエバーヤングのサウジダービーとUAEダービー、リメイクのリヤドダートスプリントとコリアスプリント、クラウンプライドのコリアカップの5勝。のべ99頭が海外で出走し、出走取消となった馬たちを合わせると、海外遠征に出た日本馬が初めてのべ100頭を突破した。
海外G1で未勝利だったとはいえ、フォーエバーヤングがケンタッキーダービーとブリーダーズカップクラシックで3着になったり、ドバイワールドカップデーのG1でドンフランキー、ナミュール、シャフリヤール、ウシュバテソーロの4頭が2着になったり、ローシャムパークがブリーダーズカップターフで2着、ワープスピードがメルボルンカップで2着、ソウルラッシュが香港マイルで2着、リバティアイランドとタスティエーラが香港カップで2、3着になるなど、世界の大舞台で日本馬は存在感を示しつづけた。なかでも、ハナ+ハナという僅差の3着だったフォーエバーヤングのケンタッキーダービーや、香港最強馬ロマンチックウォリアーを相手に、一瞬「おっ」と思わせる2着となったリバティアイランドの走りなどが印象的だった。
日本馬の海外遠征と逆に、ロマンチックウォリアーが安田記念を完勝したり、オーギュストロダンがジャパンカップで話題を集めたりと、久しぶりに海外の大物たちが来日し、日本のターフに華やかな国際色を添えてくれた年でもあった。
来年のカレンダーが続々と送られてきて、仕事部屋と居間などにどう振り分けて飾るか、迷うのも楽しい。まだ買っていない人で、落ち着いた雰囲気の写真を好む人には、内藤律子さんの「サラブレッドカレンダー」をお薦めしたい。内藤さんの「とねっこカレンダー」も可愛らしくて、眺めているだけで幸せな気分になれる。
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