【裁判傍聴記】YouTube登録100万人超、有名ミュージシャンが薬物で逮捕されていた

 YouTubeにアップしたMVの中には5000万回以上再生された名曲も…。有名音楽ユニットのメンバーとして活動していたミュージシャンが、違法薬物で逮捕されていた。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が初公判から判決までリポートする。

 東京地裁で行われた刑事裁判で、とあるミュージシャンの男性に有罪判決が言い渡されました。公式YouTubeチャンネルの登録者数は100万人を超え、多くの人に注目されているはずなのに全く報じられていないのです。毎日それなりの数の裁判が行われていて、何を報じるかは各会社の自由ですし、全ての裁判が新聞・テレビ・週刊誌で報じられる訳ではないので当然の話と言えばそれまでなのですが。

罪名:麻薬及び向精神薬取締法違反

被告人:会社役員の30代男性

 今年10月に行われた初公判。被告人のファンなのか、たまたまこの法廷に入ってきただけなのか、傍聴席で14人が見守る中で裁判スタートしました。

 起訴されたのは2件。1つ目は、今年の5月7日、被告人が自宅でMDMAの錠剤を覚醒剤と誤認して使用した件。2つ目は、その翌日、被告人が自宅でMDMA1.602g、覚醒剤6.55gを所持した件。

 罪状認否で被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校中退後に動画クリエイターになり、2023年からは会社を設立して会社役員になっていたという。前科は無く、今回が初めての刑事裁判になります。2023年11月からMDMAを使用するようになっていたという。

 そして今年の5月6日。被告人は密売人から10万5000円でMDMAを購入し、自宅に保管。翌日の夜に購入した違法薬物を使用したところ、体に異変を感じて自ら119番に電話を掛けて「もろヤバイ死んじゃう」と通報。駆け付けた救急隊員がマンションの手すりに捕まって「ヤバイヤバイ」と言って震えている被告人を救助。尿検査で尿から違法薬物が検出されたというのが事件の経緯になります。

 取り調べに対し被告人は「初めてMDMAを使ったのは去年の11月。今年の4月になると週2回のペースで使用していた。一度に3錠使っていた。密売人からは全てMDMAだと思って買った」と供述しているそうです。そして被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「自分で通報したら違法薬物を使ってるのがバレるとは思いませんでしたか?」

被告人「捕まる覚悟で。死にそうなくらい苦しかったので電話しました」

弁護人「最初に使ったのはいつですか?」

被告人「去年の11月に1錠だけ」

弁護人「何故手を出したんですか?」

被告人「興味本位です」

弁護人「その時、危険性とか気にならなかったですか?」

被告人「考えてませんでした」

弁護人「ちなみに、誰かと一緒に使う事ってあったんですか?」

被告人「1回だけありました」

 一緒に使用した相手についての質問はありませんでしたが、複数人よりも1人で使っている方が周りに止めてくれる人がいないので薬物に溺れていくというか堕ちていくイメージがありますね。

弁護人「逮捕が今年5月ですけど、その前の体調ってどんな感じでした?」

被告人「仕事や生活面で参ってました…」

裁判官「んん?それだけじゃ分からないです。参ってたって体調はどうだったんですか?」

被告人「目標がなくなって、集中力も無くなっていました…」

弁護人「そういう心の隙間に薬物が入り込んできてた、と。病院とか行ってなかったんですか?」

被告人「行ってませんでした」

弁護人「今は?」

被告人「週1で通っていて、当面通おうと思っています」

 と、通院して薬物に関する治療をすると約束です。そして、二度と違法薬物には手を出さないという約束をして弁護人からの質問は終了です。続いては検察官から。

検察官「興味本位で使い始めたって言ってましたね。具体的に何に興味あったんですか?」

被告人「知らない世界を知りたいと常に思っていたので」

検察官「使ったらどうなると思ってました?」

被告人「テンションが上がる……楽しくなる…」

検察官「実際はどうでした?」

被告人「リラックスという感じでした」

検察官「やめられないのは何故ですか?」

被告人「ズルズルいってて、量が増えてたという感じです」

検察官「普段はいつ使ってたんですか?」

被告人「寝る前に使ってました、1日の終わりに」

 違法薬物の常習性についての質問が多めに出ていました。

検察官「で、5月7日ですけどいつ使いましたか?」

被告人「寝る前、作業が終わった後です」

検察官「量はいつもと同じですか?」

被告人「効いてこなかったので、より多く服用しました」

検察官「それって、取り調べで言ってますか?」

被告人「言ったと思います。最初に4個で体調が悪くなって。それで戻ったので更に、と。計9個。体調悪くなったのは何だったんだろうって」

検察官「それっていつもより効いてたってことじゃないんですか?」

被告人「最初に服用した数時間後似心臓止まるんじゃないかって、ガッと急にきて。でも落ち着いたので何だったんだろうって」

検察官「警察官に自分から薬物を提出したのは何故ですか?」

被告人「捕まるつもりで連絡したし、仕事の助けにもならないし、マズイ物だと思って」

 この日に限っては、密売人から購入した物の質が違ったのか、長期間使ってて蓄積したものがあったのか、いつもと違った感じだったようです。そこで初めて、被告人は違法薬物のヤバさに気付いたといったところでしょうか。

検察官「5月7日以降、違法薬物を使いましたか?」

被告人「その後に別件で逮捕されるんですけど、その事件の4日前に貰った物を飲みました」

 どうやら本件で現行犯逮捕とはならなかったようで、被告人は釈放された数日後に違法薬物を誰かに貰って使用し、何かの事件を起こして逮捕されてしまったということなんですね。逮捕された方の事件は不起訴となって、本件の薬物所持使用でのみ起訴されたという流れになります。検察官もあまり詳しく質問しないし、冒頭陳述でも言わないのでこのやり取りを聞くまで一体何の話をしてるのやらって感じです。

検察官「5月7日以降も1回使ったと。また使うんじゃないですか?」

被告人「もうそういう目に(逮捕された事件に)遭いたくないので」

検察官「逮捕された件は薬物の影響もあると思っていると」

被告人「はい」

 自ら通報した今回の一件で懲りて欲しいものですけど、逮捕されたことで違法薬物の恐ろしさを体感したってことですね。

検察官「今後監督してくれる人はいるんですか?」

被告人「母親、交際相手に支えてもらってます」

検察官「お母さんは何て言ってますか?」

被告人「最近おかしくなってたと。仕事の方も見てくれてて、モチベーションが変だと。とにかく怒られました…」

 母親と交際相手の監督に従って、違法薬物から脱却することを誓っていました。そして、最後は裁判官からの質問です。

裁判官「興味本位で始めたと。違法だからやめようって思わなかった?」

被告人「ネットで検索して見ていたので、軽く考えていました」

裁判官「いい効果があると思って使い続けてたんじゃないですか?」

被告人「ん?…いや?、使っている時は…」

 言葉を選んで答えようとモゴモゴしていると、裁判官が堰を切ったようにたたみかけます。

裁判官「今だって、そうですよ。自分本位なんですよ、さっきから話を聞いてると。自分の体調が良くなるか悪くなるかなんて、わからないかな。ネットで見て軽く考えてたって言うけど、検索するのも簡単でしょ?またやるんじゃないですか?」

被告人「判断が付かなくて、今回迷惑を掛けた大きさや迷惑掛けた人数がわかっているので、やりません!」

裁判官「そもそも違法なんでしょ!迷惑掛けた人数とか歯止めが効くんですか?」

被告人「そういう人には近付かないです…」

 と、密売人など怪しい人とは付き合わないと約束して被告人質問は終了。この後検察官は、被告人は常習的に使用していて違法薬物との親和性がみられるとして懲役2年6月とMDMA4錠と覚醒剤の結晶12錠と2片没収という求刑をして、初公判はこれにて閉廷です。

 そして、11月6日。判決が言い渡されました。主文は、懲役2年4月執行猶予4年。それとMDMA4錠と覚醒剤の結晶12錠と2片没収。とりあえず執行猶予付きの判決なので、刑務所に行くことはないですが、被告人の公式Xを見ると音楽活動の方は休止。ファンとしては寂しい話ですね。薬物はやらないと法廷で誓ってたのが唯一の救いでしょうか。

 この裁判を傍聴するまで被告人が関わった曲を全く知らなかったんですけど、多くの人に支持されてるだけあって良い曲が多い!曲に罪は無いけど、作った人や歌った人など関わった人の情報まで背負うからね、歌は。時間と共に良くも悪くもなるというか。裁判傍聴してなかったら、聞こえ方も違ってくるんだろうな。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

2024/12/5 10:00

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