「家元襲撃」逮捕の花柳幻舟は獄中ドラマを自作自演/犯罪史に刻まれた「事件の女」ファイル(3)

 80年、花柳流家元・三世花柳壽輔を包丁で襲ったのが花柳幻舟。作家の亀和田武氏は、襲撃の際に幻舟が放った言葉を反芻する。

「幻舟は『思い知りなさい!』と言ったんですよね。一方、斬りつけられた家元は『な、何すんのさ!』と。このどこか芝居がかったところが、44年経っても語り継がれる所以なのかもしれません。家元制度の打倒を本当に実行してしまう。もちろん刃物を振り回すのは論外なんですけどね」

 家元襲撃前は舞踏家として活動しつつ、映画にも進出。68年に公開された「怪談残酷物語」(松竹)では金子信雄相手に激しい情事を演じ、スレンダーな体からは想像できない胸を披露。74年には「㊙色情めす市場」、「実録阿部定」(75年)などにっかつ作品にも出演した。

「すでに70歳を過ぎていた歴史学者の羽仁五郎との老いらくの恋も話題になりました。小学校もロクに出てない彼女はかなりつらい目に遭いながらどん底から叩き上げてきた。その一方、肝が据わっていて、陽気な感じで羽仁をたぶらかす艶気がありました。羽仁はうれしくてしょうがなかったんじゃないですか」(亀和田氏)

 襲撃後は艶気よりも活動家、稀代のダークヒロインとして引っ張りだこになる。

「自伝『夕焼は哀しみ色』をもとにした2時間ドラマ『花柳幻舟獄中記』(テレビ朝日系)に本人が出てたからね。本当の自作自演。今だったらありえないキャスティングだよ」(マグナム北斗氏)

 後に安部譲二が実際の刑務所経験をもとにしたベストセラー「塀の中の懲りない面々」を映画化してみずから出演したことがある。幻舟のブレイクパターンを踏襲したのだろうか。

「89年、家元制度打倒から1人の女性としての生き方を通して日本そのものの姿を描くイギリスのドキュメンタリー映画『幻舟』は、ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭グランプリを獲得して世界的に注目を浴びました。翌90年11月『即位の礼』パレードの際、天皇制を批判するビラ100枚をばらまいたほか、爆竹を投げ現行犯逮捕。コトがコトだけに、事件後はテレビやマスコミに露出する機会が激減した」(社会部デスク)

 それでも、04年に放送大学を卒業。「小学校中退、大学卒業」の著書を残して、最後まで反抗を貫いている。

(つづく)

2024/12/1 18:00

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