鳥の言葉がわかるようになると、どうなるの?子どもたちに伝えたいこと|動物言語学者・鈴木俊貴さん
「シジュウカラの言語研究」という世界初の道を切り開き進んできた、鈴木俊貴先生。今回は私たち人間が抱える課題と、シジュウカラの研究を通して先生が伝えたいこと、目指すものについて、教えていただきました。
好きなことを本気でやってきたら、東大の先生に!?
続けてきた研究を認めてもらい、現在は東大の准教授となり、世界的に名誉ある賞もいただけるようになりました。どうして、できたのか?それは「好きなことを、本気でやり続けたから」に尽きるのではないかと思います。
僕は、幼少の頃から大好きな「生き物の観察」にずっと打ち込んできました。その延長に今があります。もちろん、この間にはシジュウカラとの出会いがあり、多くの人との出会いがあり、それら1つ1つが重なって成り立ったものです。
でも、振り返って思うのは、好きなことを夢中でやっていると応援してくれる人も現れるし、自分の力を必要としてくれる人も現れる。僕は、たまたま大学の先生になったけれど、どんな「好きなこと」にも、その延長には必ず活躍の場があると思います。
好きなことを本気でやる! それが生きる力になる
好きなことをやってきたとはいえ、その過程がラクだったかいうと、そうではありません。
研究の成果は1~2時間もあれば人に伝えることはできるけれど、その成果を出すためには、1年の半分以上森にこもり、日の出から日没までずっと巣箱の前で張り込んで、1つ1つを記録する作業をしてきました。それを18年以上、続けています。
僕自身、それが楽しいし、やめたいと思ったことは一度もありません。でもこれを他の人ができるかというと、難しいんじゃないかな。僕は、誰よりもシジュウカラが好きで、観察が好き。誰よりも夢中になれたから、誰も気づかないことに気づけたのだと思います。
本当に好きなことに夢中になっていたら、いつの間にか他の人ができないようなびっくりすることができてしまう!それが、人間のすごいところだと思います。
だから、子どもたちにも、好きなことをやってほしい!なおかつ、「本気でやる」ことが大事だし、それが「生きる力」になるんじゃないかな。
図鑑だけじゃわからない。「体験」したからこそわかることがある
僕がシジュウカラの言葉に気づいたのは、毎日森に行きシジュウカラを自分の目で「観察」してきたらですが、新しい発見は、やはり「実体験」からしか得られないと思っています。
なぜなら、インターネットや図鑑の情報もそうだけど、言語化されているものはすべて過去に誰かが考えたことに過ぎないから。
これらを利用することは悪いことではないけれど、そこで得た情報だけで納得をして、おしまい。そうやって「経験」をおろそかにしていくと「事実」からかけ離れていってしまう可能性もあります。
たとえば、シジュウカラの「ヂヂヂヂ」という鳴き声は、濁った響きだから「警戒」だと書かれた情報もあるけど、実際調べてみると、そうではないわけです。
鳥の言葉をわかると、鳥と人間の関係はどうなるの?
まず、鳥から見た人間は、変わらないと思います。なぜかというと鳥は「人間」の暮らしや行動を、すでに十分わかっているんです。だから人工物を利用して巣を作ったり、猫が近寄らない人通りが多いところを巣の場所に選んだりしています。うまく、人間を利用しているんです。
わかっていないのは人間のほう。鳥に観察されていることにだって、気づいていないでしょ。
本来、人間と自然や野生の生き物との関わりは、もっと深かったはずなんです。それこそ、鳥たちの動きから、猛獣が来ることを察知していた時代もある。他の動物の動きや、自然の中で起こっていることに関心をもって生きていたのにはずなのに……。
ところが、いつからかその関心が失われていき、今や人間は自然とどう付き合っていいかもわからなくなってしまいました。
だから、「環境を守ろう」と言ったところで何をしていいかわからないし、自然を理解していないところでやみくもに何かをやっても、本当の意味での環境保全はできないんです。
人間に「自然とのつながり」を取り戻してほしい
だからといって、昔の生活に戻るべきと言っているわけではないのだけど、もっと自然に目を向けて、「自然とのつながり」を取り戻すことは大切だと思います。僕の研究は、その一つのきっかけになってくれるのではないかと思っています。
鳥たちが言葉を操ることを知り、何を話しているかがわかれば、鳥や動物の見方も変わってくるし、自然との向き合い方も変わってくるでしょ。
すると、「どんなことができるか」を考えられるようになると思うんです。「人間だけが言葉をもっている」「人間のほうが高貴だ」といった思い込みを抱いているときとは、まったく違う世界が見えてきますよね。
鳥の言葉がわかったら、それだけでも楽しいでしょ!
僕の研究がきっかけでバードウォッチングを始めたとか、鳥の言葉がわかるようになったと言ってもらえることが増えてきて、それがいちばんうれしいです!
シジュウカラは北海道から沖縄まで日本全国に分布していて、山地や森だけでなく、街の中にもいます。もちろんシジュウカラだけでなく、周りにはたくさんの鳥がいます。でも、それに気づいていない子どもたちも多いです。
だから、まずは自然に目を向け、じっくり観察してみてほしい。観察することって、とても楽しいし、鳥の言葉がわかったら、さらにワクワクするでしょ。
ちなみに僕は、毎朝シジュウカラの鳴き声で目が覚めます。シジュウカラが考えていることも、どんどんわかるようになってきたし、森に行くとシジュウカラが近寄ってきてくれます。
だいぶシジュウカラのような人になってきたんじゃないかな。
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鈴木俊貴(すずき・としたか)●動物言語学者。東京大学先端科学技術研究センター准教授。世界で初めて、シジュウカラが言葉を話していると突き止める。2018年に日本生態学会宮地賞、2021年に文部科学大臣表彰若手科学者賞と日本動物行動学会賞を受賞。著書に『動物たちは何をしゃべっているのか?』など。
撮影/目黒-meguro.8- 取材・文/柿沼曜子