『徹子の部屋』ゲストに、なすなかにし “芸人地獄門”で那須くんの脳梗塞は大丈夫か
これまで、数々の芸人を“スベリ”という名の血の海に沈めてきた芸人地獄門こと『徹子の部屋』(テレビ朝日系)。同局の『アメトーーク!』では何度も特集が組まれ、その被害者は枚挙にいとまがないところだ。
今年8月には『M-1グランプリ』で4年連続ファイナリストの経験がある気鋭の漫才師・オズワルドが出演。その緊張とスタジオの異様な雰囲気にのまれて伊藤俊介が漫才のネタを飛ばし、大いに落胆していた姿は記憶に新しいところ。年間1,000ステージをこなすオズワルドの伊藤をして「テレビでネタを飛ばしたのは初めて」だというのだから、『徹子の部屋』がいかに魔境であるか我々視聴者には計り知れない。
そんな『徹子の部屋』29日放送分に招聘されたのは、松竹芸能の若頭・なすなかにしだった。いとこ同士のコンビとして知られるなすなかにしといえば、年間300本のロケをこなす「ロケの達人」にして、誰も傷つけない芸風の良識派、コンビ仲もよく、オードリー・若林正恭をしてその漫才は「世界一おもしろい」と評されたこともある実力の持ち主である。
だが、昨年12月にツッコミの那須晃行が突如、脳梗塞を発症。緊急手術を受けて芸能活動を休止したことがあった。今年4月には仕事復帰を果たしているが、いまだに後遺症の影響で言葉が出ないことがあり、漫才を控えている状況だという。
そんな状態の那須が『徹子の部屋』に足を踏み入れたら、死んでしまうんじゃないか。頼むぞ、中西。グレーのスーツに身を包んだ2人が登場し、地獄の幕が開いた。
初出演となるなすなかにし。冒頭には「中西顔の那須です、那須顔の中西です」と定番の自己紹介で様子をうかがうが、徹子はスルー。その言葉尻にかぶせるタイミングで2人がいとこである説明に入り、機先を制した。
その後、「年間ロケ300本」の話題で徹子が驚くと、中西が「基本、部屋の外にいる芸人なんで」とフォロー。すると、これぞ徹子という質問が飛び出した。
「雨が降ってるときはどうするの?」
早くも想定外の問いかけにタジタジになる2人。「傘は差しますけど」とジェスチャーをそろえながら答えるが、そのジェスチャーになすなかにしというコンビの関係性が垣間見られるシーンがあった。中西は自分1人に傘を差し、那須は傘を2人の間に差して相合傘にしていたのだ。
この日も中西がつい那須を「あきゆき」と呼んでしまう場面があったが、なすなかにしは基本的に「中西が那須を偏愛している」というキャラクターを打ち出している。しかし、無意識に2人の間に傘を差した那須もまた、中西が大好きなのである。
ところで、『徹子の部屋』が芸人にとって地獄だといわれるゆえんは、そのネタ披露のコーナーにある。その場で本ネタを披露させられ、ほとんど笑わない徹子とスタッフたちに手練の漫才師たちが狼狽していく様子が、ひとつの見どころとなっているのだ。
しかし、漫才封印中のなすなかにし、この日はVTRでの漫才披露となった。
映し出されたのは、YouTube「なすなかチャンネル」の動画だった。不十分な照明の中で、私服の2人がネタを披露している。テレビ朝日にはなすなかにしのネタ動画があるはずだが、そういえば昨年末の『検索ちゃんネタ祭り』に出演が決まっていたなすなかにしは、那須の急病でその出番をキャンセルしていたのだった。
「ふっふっふっふっふ、おもしろかったです」
いつになく好リアクションの徹子。これには那須も「うれしいです、優しい」と感動したようだ。
地獄のネタ披露をVTRで乗り切ったなすなかにしだったが、別の試練が用意されていた。ロケの達人であるならば、この『徹子の部屋』をレポートしてみろというのだ。CMをまたぎ、たっぷりとなすなかにしのロケ芸が披露された。よそ見をしてからの「ごめんなさい、カメラこっちやった」から「スタジオにお返しするまで3秒前、3、4、5、増えたらアカンやん!」まで、正味3分。これも徹子をじゅうぶんに満足させたようで、「おもしろいです」という御言葉をいただいていた。
今回の『徹子の部屋』なすなか回。ご両親と妻に向けてカメラから直接メッセージを言わされた2人が天丼を作ってスルーされたり、再出演を望む那須を徹子が「うまくいかなかったときは出ないかもしれない」と切り捨てたりと不穏な場面もあったが、おおむね平和に過ぎていったといえそうだ。
「今度、お2人の漫才を見せてくださる? せっかくですからね」
番組をしめくくった徹子の言葉は、なすなかにしにとって僥倖であるとともに、本物の地獄への招待状だったのかもしれない。
(文=新越谷ノリヲ)