横浜流星の役者魂に心が震える映画『正体』山田孝之、吉岡里帆、森本慎太郎の熱演にも注目です
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、横浜流星主演映画『正体』(2024年11月29日公開)です。先に発表された第49回報知映画賞で作品賞、主演男優賞(横浜流星さん)、助演女優賞(吉岡里帆さん)を受賞した本作。
試写で見ましたが、最初から最後まで緊張の糸がピンと張り詰めた状態のサスペンスで、目がスクリーンに釘付けでしたよ!
では、物語からいってみましょう。
【物語】
日本全国を震撼させた殺人鬼として死刑宣告された鏑木慶一(横浜流星さん)が脱走。逃走し続ける彼はさまざま土地で見た目と仕事を変えながら、ある目的のために走り続けていました。
鏑木を追う又貫刑事(山田孝之さん)は、彼が働いた職場の同僚たちに話を聞きますが、それぞれの持つ鏑木の印象は別人……。彼の真の目的とは?
【鏑木の正体を炙り出す演出にゾクゾク】
死刑囚の鏑木の脱走から始まる本作。その後、鏑木が職を変えながら転々とする様子とともに又貫刑事の執念の追跡を描きます。
鏑木が逃亡中に出会った人物に又貫刑事は証言を求めるのですが、そのエピソードの積み重ねが鏑木という人物の “正体” を炙り出していく。時系列を前後させながらの真の鏑木に迫っていく構成と演出がゾクゾクするんですよ〜。
【同僚たちの証言と鏑木の真実】
証言者としてメインで登場するのは3人。建設現場の同僚で鏑木を「ベンゾー」と呼び、仲が良かった野々村和也(森本慎太郎さん)。
在宅ライターとしてペンネームを名乗っていた鏑木の担当編集者の安藤沙耶香(吉岡里帆さん)。老人ホームでバイトをしていた彼に恋心をいただく同僚の酒井舞(山田杏奈さん)。
それぞれの人物と鏑木のエピソードが回想として描かれるのですが、鏑木のちょっとした言葉に真実が隠されているんです。たとえば和也にお酒を勧められたとき「お酒は飲めない」と言ったり、沙耶香にご馳走してもらったとき「こんな美味しいもの初めてだ」と言ったり、ずっと本を読み勉強をしていたり……。
素直な反応が彼の真実を物語っており、すべてがわかるラストで「ああ、そうだったのか」と。鏑木の正直な反応や言葉が伏線となっていたのです。
【横浜流星の役者魂とその凄み】
藤井道人監督と主演の横浜流星さんは『ヴィレッジ』ほか、多くの作品でタッグを組んでいますが、本作はふたりの集大成ではないかというほど素晴らしいです。“鏑木は本当に殺したのか、なぜ逃げるのか、目的は?” というミステリーの謎解き要素に対して、同僚の証言と鏑木の行動でその謎を徐々に解き明かしていく展開がもうたまりません!
また鏑木慶一の “諦めない生き様” がすごかった。何がなんでも目的を達成するという真っ直ぐな気持ち、闇堕ちしそうな人生を自力で取り戻そうとする情熱が、スクリーンからヒシヒシと伝わってきて、これらはすべて横浜流星さんの熱演あってこそ。
鏑木が追手を振り切ろうとマンションのベランダから飛び降りるシーンは実際に流星さんが14回も飛び降りたそうです。逃げないと人生が終わってしまうというギリギリの状況を肉体をも駆使して演じた流星さんの役者魂の凄みを感じました。だからこそ鏑木の生き様に心が震えたのでしょう。
共演俳優たちもベストなお芝居を披露しています。特にいつも法律書を片手に勉強をしていたベンゾーの影響で、学ぶことで人生を変えられることを知った和也を演じた森本慎太郎さん。短い出番ながら、和也の成長もしっかり見せてくれてよかった!
予告編の血まみれの横浜流星さんを見て「怖い映画?」と思うかもしれないけど、あの状態から鏑木はどうやって生き抜いたのか……。ぜひスクリーンで観てください。ハラハラドキドキを超えた感動が待っていますよ!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:(C)2024 映画「正体」製作委員会
『正体』
2024年11月29日(金)より全国ロードショー
原作:染井為人『正体』(光文社文庫)
監督:藤井道人
出演:横浜流星
吉岡里帆 森本慎太郎 山田杏奈
前田公輝 田島亮 遠藤雄弥 宮﨑優 森田甘路
西田尚美 山中崇 宇野祥平 駿河太郎 / 木野花 田中哲司 原日出子 松重豊
山田孝之