『おむすび』第43回 北村有起哉と小手伸也、2人のおじさん俳優が朝ドラを救う?
おそらくはフリーの芝居だったと思うんですよ。終盤、カスミンが振る舞ってくれたお寿司を米田家でいただくシーン。アユ(仲里依紗)は中トロからいって、パパ(北村有起哉)はご丁寧に「僕は、イカを……」とか言いながらイカを頬張って。そのあとみんなでおしゃべりしながら食べ始めるわけですが、結ちゃん(橋本環奈)は、いきなりウニでした。「結 ウニ」って台本はないよな、たぶん。
別にいいけど、橋本環奈っていきなりウニの人なんだなと思いました。なんかちょっとこの人のプライベートが見えたよね。別に全然いいんだけど。
そんなNHK連続テレビ小説『おむすび』第43回、振り返りましょう。今日はね、悪くなかったと思う。
■おまえの髪を切らせろ
元町でのデート中にママ(麻生久美子)に呼び戻され、翔也(佐野勇斗)を連れて帰宅した結ちゃん。パパ、アユと4人でお好み焼きを囲むことになりました。気まずい雰囲気の中、アユがズケズケと翔也の家族構成や実家の農園の経営状況などを聞き出します。結ちゃんは「失礼やろ」とたしなめますが、結婚を意識している翔也は誠意を持って回答しています。
続いてパパのターン。口ごもりつつも、何か言おうとしたところでオープニングのB’zへ。この独特の引っ張り方というか、タイミングというか、チョイ謎を残す感じがダルいのはいつものことですが、結論から言って、今回ダルかったのはここだけでした。
オープニングが明けると、床屋のイスに座らされてパパに髪を切られる翔也。「おまえの髪を切らせろ」とでも言ったんでしょうね。翔也もしおらしく座っています。
床屋の父親が娘の彼氏の髪を切る。別に珍しいシーンじゃないし定番ではあるんだけど(パッと思い出せるのは三谷幸喜の舞台『君となら』の角野卓造くらいですが)、パパの職業人としての誇り、生き様の告白、家族として迎え入れる心づもりがあるというメッセージ、そういうものが表現されています。願わくばパパがカミソリを首元にあてて、翔也がビビリつつも「いやいや、信じよう」みたいな心理描写があるとさらに良かったと思いますが、ここは『おむすび』で初めていいシーンを見たと感じました。43回目にして初めてだということに、改めて驚きますが。
その後、専門学校では生徒同士が病院に勤める栄養士と入院患者の役に分かれて、カウンセリングのシミュレーションを行うシーンもありました。ここで、患者役のモリモリ(小手伸也)がいきなり役者魂を発揮して横暴なモンスターペイシェントを熱演するところも楽しかったです。あれ、今日は2つもいいシーンがあるぞ。
あと、意味不明なまでに米田家に当たり散らすマキちゃんパパ(緒形直人)が、結パパが靴屋に置いてきた野菜をわざわざ返しに来たシーンもよかったと思うんだよな。捨てりゃいいのに、わざわざ持ってくるということは、この人、こんな感じでも「関わりたい」とは思ってるんだ、ホントは寂しいんだ、ということが伝わってきました。これはもしかしたら穿ちすぎで、そんな深みを描く意図はなかったかもしれないけど。
そのほか、翔也は結ちゃんの作った献立を律義に守って空腹に苛まれ、サッチンは過去に入院していたという情報を披露し、カスミンは家出してきました。このへんは次回以降のネタ振りですね。ちょっと保留しておきましょう。
ともあれ、悪くなかった、今日の『おむすび』。
■なぜ悪くなかったかという絶望的な問い
なぜ悪くなかったか考えてみると、絶望しちゃうんだよな。
要するに今回、主人公の結が何もしてないし、何も言ってない。周囲の状況に対するリアクターに徹している回だったんですよね。自発的な行動がゼロ。マジで、結ちゃんが自分で決めて起こした行動は「最初にウニ食う」くらいしかない。
主人公が何もしなければいい感じ、何かするとイヤな感じになるという、今朝の回に対する「悪くない」という感触が『おむすび』という作品の絶望的な状況を逆説的に露呈させているという、そんな感じになりました。
明日は何かするのかな、何もしないと平和なんだけどな。
(文=どらまっ子AKIちゃん)