【24年秋ドラマ】『あのクズを殴ってやりたいんだ』第8話 甘い三角関係と、意図しない人物の「害悪」化
超絶イケメンのクズ男に雑に扱われたことをきっかけに、「あのクズを殴ってやりたいんだ」と一念発起し、ボクシングに夢中になるうちにプロテストを受けるところまで来てしまった市役所ガールのほこ美ちゃん(奈緒)。
そんなほこ美ちゃんが、超絶イイヤツ上司の大葉さん(小関裕太)と、すっかり光堕ちして夢に向かって邁進中の元クズ・海里くん(玉森裕太)の両方から言い寄られ、絵に描いたような三角関係となっているアラサー恋愛ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)も第8話。
今回は、そのほとんどの時間を「素直になれない海里くん」に費やしました。振り返りましょう。
■みんな前向きでいいですね
半年間にわたって仕事でアメリカに行くことになった海里くん。一度は付き合うことになったほこ美ちゃんとは、お互い前を向くためにお別れしています。そんな海里くんに、大葉さんは「半年後の佐藤(ほこ美)のプロテストに帰ってこなかったら、俺が告白する」と宣言。海里くんは帰ってこなかったので、その言葉通り大葉さんは「好きだ、超好きだ」などとほこ美に告白しました。
返事を保留したまま、翌日にはプロテストの結果が。無事合格して晴れてプロボクサーになったほこ美は大葉さんと楽しくディナーなどしています。
そこに通りがかった海里くん。実は、プロテストの日に帰るつもりでお土産のネックレスも購入済みでしたが、飛行機が欠航になって帰国が1日遅れてしまったのでした。
大葉さんとのディナーで見たことないくらい楽しそうにしているほこ美を見て、海里くんは身を引くことを決意。しかし、ジムの会長(渡部篤郎)、トレーナーのゆいさん(岡崎紗絵)、さらにはほこ美の姉(鳴海唯)やママ(斉藤由貴)にまで「このままでいいのか?」「好きなんでしょ?」「いいの?」と迫られ、ようやく素直な気持ちをほこ美に伝える決意をします。
今回はじっくり時間をかけて、素直になれない海里くんが素直になるまでのプロセスが描かれました。もとよりこのドラマはクズだった海里くんがほこ美と出会ってメソメソ泣いたり、過去を克服したりしていく様を描写することに重きを置いてきましたので、今回も海里くん(というか、玉森裕太)のファンにとっては「がんばれー! 素直になれー!」と言いたくなる展開。ファン以外にとっては、けっこう退屈な時間が流れることになりました。
ともあれ、ほこ美ちゃんはほかのジムのプロボクサーを出稽古に招いてスパーリングをすることに。その日、海里くんは「いつもの神社で待ってる」とほこ美にメッセージを送っていたのでした。
そのスパーリング相手はほこ美と同じレベルの選手だったはずですが、いざリングに上がってみたら、ちょっと大きくて強そう。しかもその相手選手には、「スパーリングで佐藤ほこ美をKOしたら100万円差し上げます」というメッセージが届いていました。
そのメッセージを送っていたのは、海里くんの同居人で弟のように接してきた悟(倉悠貴)でした。ちょいちょいほのめかされていましたが、どうやら悟は7年前に海里と試合をして、その試合中の事故が原因で亡くなってしまった平山大地(大東駿介)の弟のようです。
スパーリングでは、相手選手がほこ美のグローブタッチを無視して殴りかかってきます。同じレベルの選手を呼んだはずなのに、始まってみれば、どう見ても2人には実力差があるようです。コーナーに詰められて連打を浴び、足もグネってしまったほこ美。ノーガードになったところで渾身のフックを打ち込まれて失神。そのまま救急搬送されてしまうのでした。
■やっぱり純粋にスポーツと思ってないんだな
憎い相手をスパーリングでボコにする。ボクシングを扱うフィクションではしばしばこういったシーンが描かれますが、ああ、このドラマもやっぱりボクシングをスポーツではなく暴力として解釈しているんだなということが改めて明白になった場面でした。
『あのクズを殴ってやりたいんだ』では、海里くんの過去の試合で不幸にも亡くなってしまった平山大地の家族や関係者が一貫して「海里を恨んでいる」「許していない」という設定で話を進めてきました。それはもう完全に、一点の曇りもない「逆恨み」であって、ルールに則って試合をした海里くんには何の罪もないのですが、「恨んでいて当然」「復讐されてしかるべき」と、ほぼ犯罪者のように扱ってきました。
そして今回、その海里くんの大切なものであるほこ美を「壊す」道具として、ボクシングを利用している。
会長は、娘を心配するほこ美ママに対して「ボクシングは何があるかわからない」と言いました。確かに、海里くんと平山大地の試合が招いた不幸は、避けられるものではなかったかもしれません。
しかし、今回ほこ美が救急搬送されることになったKO劇は、明らかに会長とゆいさんの怠慢によって起こっています。スパーリングは練習ですから、相手がグローブタッチを無視した時点で一旦中断して「落ち着いてください」と言うべきだし、ほこ美が一方的に攻められて足をグネってフットワークが使えなくなった時点で割って入るべきなんです。このシーン、「相手選手が100万円もらえるから強く殴った」という意味で描かれていますが、その100万円がなくても彼女はほこ美を強く殴ります。そういうスポーツですし、手を抜けば自分が殴られることになるから。その力量差による危険を察知してスパーを止めるのはセコンドである会長とゆいさんの役割であって、ドラマの意図しない形で会長とゆいさんが「その役割を怠った者」になってしまっている。
第2話のレビューで「(海里が平山大地を)『殺してる』という直接的な表現を使ってしまうのであれば、このドラマはボクシングというモチーフに対するスタンスを徹底的に問われることになります」と書きました。
本来、そのスタンスにおいて「正」であるべき存在だったはずの会長とゆいさんへの信頼は、今回のスパーの一件で地に落ちました。あの状況でリングを傍観するヤツは、どうあれセコンド失格です。この競技に関わるべきではない。害悪だ。
そしてこのドラマが会長とゆいさんを「害悪」として描こうとしていないことは明らかですので、やはりボクシングというモチーフに対するスタンスが誤っていたのだと、ここは明言するしかなくなりました。
第1話のレビューでは、「ボクヲタはプヲタより陰湿ですからね、ナメたことすると大変ですので、そのへん気を付けてほしい」と書きました。
どうだ、陰湿だろう。
(文=どらまっ子AKIちゃん)