金的、頭突き、指関節あり! 過激すぎる格闘技大会『ROMAN』に緊急潜入

「金的、頭突き、指関節あり。ベアナックル(素手)で時間無制限」という過激なバーリトゥードマッチが日本で行われた。10月14日に都内某所で旗揚げされた格闘技大会『でらゲー presents ROMAN ONE』(以下、ROMAN)のメインベントだ。

股間に一発食らったら悶絶必至、下手すれば種族保存の可能性を断たれる危険な戦いに挑んだのは、元ラウェイ王者の渡慶次幸平(とけしこうへい・36)と、元UFCファイターのウィル・チョープ(34)。会場には多くの格闘関係者も訪れ、試合の成り行きをハラハラしながら見守った。果たしてどっちが勝ったのか? そして、タマは無事だったのか……?

異色の格闘技大会を立ち上げたのはアノ男たち

『ROMAN』は、CEOの渡辺直由、名誉顧問の中井祐樹、実行委員会代表の弘中邦佳など、国内MMA(総合格闘技)の黎明期を支えた男たちが運営。渡辺CEOがかねてより温めていた「こんなルールがあったらいいんじゃないか」という構想を実現するべく、このたび第1回大会を開催する運びになったという。競技種目は以下の3つ。

①ROMAN JIUJITSU(新柔術ルール)

 ヒールフックやスラミング、外掛けなどの従来の禁止技が解禁された、より自由度の高いブラジリアン柔術ルール。多彩な技術が試される。

②ROMAN COMBAT(道着着用MMA)

 道着(ジャケット)を着用して行う実践的なMMAルール。伝統武道の精神と現代MMAの技術を融合させた新しい戦いの形。

③R.O.M.A. Rules(時間無制限バーリトゥード)

 医師の監修の元、安全管理を徹底したうえで行う、金的、頭突き、指関節ありなどの過激で自由度の高いルール。現代に初期UFCのスリルが蘇る徒手格闘技の原点の戦い(Roots Of Martial Arts Rules)となる。

 いずれも画期的な試みだが、中でも目を引くのは「③R.O.M.A. Rules(時間無制限バーリトゥード)」だ。目突きと噛みつきと髪の毛の引っ張り合いはNGだが、それ以外は何をやってもOK。頭突きや指関節はもちろんのこと、金的狙いもありという自由度の中で、完全決着するまで休憩なしで戦い続けるという。

 この過激なバトルの発案者である渡辺CEOに話を聞いた。

限界を取っ払った中で誰が強いのか?

●渡辺直由(ROMAN CEO)

――時間無制限バーリトゥードを行おうと思ったきっかけは?

渡辺 単純に「限界を取っ払った中で誰が強いのか?」を知りたい、見たいと思ったからです。といっても僕は決して、残酷ショーを見たいわけではありません。片方の勝つ見込みがなくなれば、そこで試合をストップします。そして、なるべく事故は起きてほしくないから、医療関係者の助言を聞きつつ安全面に配慮し、「ここまでは大丈夫」「これはやっちゃダメ」などの線引きを事前にしっかり行いました。

――とはいえ、「金的あり」というルールにはとても驚きました。

渡辺 ファールカップを着用するとはいえ、モロに入ったらKOでしょう。でも本日のメインで戦う渡慶次選手もウィル選手も、ミャンマーの伝統国技であるラウェイの経験者。ラウェイは金的ありの立ち技格闘技ですから、そこは同じですよね。ラウェイと違うのは、今回はグラウンドがありってことで、そこからの展開は未知数ではありますが。

――相手が倒れた状態での金的攻撃もありなんですか?

渡辺 ありです。たとえばヒザを落としたり、踏み付けたりもありです。

――ひえ~!!

渡辺 事故がないとは言い切れませんが、まあ両者ともにグラウンドを想定した練習もしているはずなので、普通の人よりは心配ないと思います。

 参加するのも見るのも恐ろしいこの戦いを、果たして格闘界はどう受け止めているのか? 大会が始まる前に、会場にいた格闘関係者たちに話を聞いてみた。

 まずは、忖度なしの格闘技解説で人気のジョビンから。この日は細川バレンタインと共に、YouTubeで全試合の実況解説を行うという(以下が生配信された動画)

●ジョビン(元MMAファイター、元DEEPフェザー級王者、現YouTuber)

――『ROMAN』という大会に、どんな印象を抱いていますか?

ジョビン 新しいことをやろうとしているんで面白いけど、見てみないとわかんないというのが正直なところかも。

――金的ありのバーリトゥードについて思うことは?

ジョビン 男らしくないな、と思うけど(笑)、ありなんだったら、ちゃんとやってほしい。躊躇なんかいらない。迷わず金的を狙ってほしい。それで勝っても勝ち名乗りを上げづらいかもしれないけど、上げてほしい。そう思います、マジで。

――金的って、狙って蹴れるものなんでしょうか?

ジョビン どうなんでしょうね。強い奴は狙わん気もするけど……。まあ、たまたまタマに当たって勝ったとしても、恥じることなく勝ち誇ってほしい。だって、そういう競技なんだから。

●細川バレンタイン(プロボクシング元日本スーパーライト級王者、現YouTuber)

――『ROMAN』に期待することは?

細川 手だけで戦うボクシング、そこに足も加えたキックボクシング、そこに寝技も加えたMMAと、格闘技の世界はどんどん制限が減ってきていますよね。なんでそうなったのかというと、より実際の喧嘩に近い、より凄惨な、より怖い、本来なら誰もがやりたくないことなんだけど、「本当に強いのというのは、こういうことなんだよ」ということを求めて、今の日本の格闘技の盛り上がりがあると思うんですよね。

 で、僕がこの『ROMAN』に求めるのは、その次のステップ。「医療がこんだけ進んで、ここまで過激な戦いを私たちは見られるようになったんだよ」ということを今日は見せてもらいたいね。

――とはいえ、「金的あり」というのは驚きました。

細川 実はそこが一番楽しみ! ジョビンを始めとするMMAの人間はよく、ボクシングのことを「手しか使えない」と言って下に見るんですよ。「俺たちは足も使うし、グラウンドもいける」というところで最強を自負しているじゃないですか。

 でもね、実際の喧嘩は何をやったっていいわけです。それこそ金的を蹴ったっていい。金的って、男の一番弱い部分じゃないですか。じゃあ、そこを蹴られたときに、どうなんの? ってことは実は誰も想像していない。蹴られてもなお、グラウンドの展開を続けられるのか? そこは誰もわかっていないからこそ、今日は楽しみ。

 マジで効くとわかったら、やる人も見る人もどう反応したらいいのかわからないという面白さもある。逆に、意外と大したことねえな、我慢できるじゃん、とわかったら、これまでローブローでのたうち回っていた選手たちは何だったの? ってことになる(笑)。

――細川さんはこれまで、金的攻撃を食らった経験は?

細川 身長が低いので経験は少ないけど、あるにはありますよ。スパー中にローブローを食らって、血尿が出たことも。でも別に、のたうち回ってはいないですね。なんとか我慢できました。

 だけどもし、そこを連続してゴンゴンゴンゴンって集中攻撃を食らったら、どうなるかな? それこそ、戦い方が変わるのかもしれないね。構え自体を考え直さないといけない。今日を境に、こういう構え(下の写真)がスタンダードになるかもしれないよ(笑)。

続いては、現役格闘家の声。

●長谷川賢(MMAファイター、元DEEPメガトン級王者)

――今日はなぜ会場に?

長谷川 普通のMMAとは一線を画す新しいイベントが行われるということで、ファン的な好奇心で見にきました。

――金的、頭突き、指関節ありというルールは、現役のMMAファイターから見てどうなのでしょう?

長谷川 怖いですよね。戦い方が変わる。変わらざるを得ないでしょう。股間だけは一番守らないといけない場所だから、逆に顔面とかにパンチが当たりやすくなるのかも。

――もし長谷川さんに、このルールでオファーがあったら受けますか?

長谷川 受けないかもしれない(笑)。だって、怖くないですか? 僕はサウスポーで、オーソドックスの相手と戦うことが多いから、ただでさえ、狙っていなくても蹴りが急所に入りやすいんです。そこをわざわざ狙われたらって考えると……。って、金的ばかりが話題になりがちですけど、頭突きも見ものだと思います。MMAなので、ガードポジションからでもガンガン打てるじゃないですか。

 バーリトゥードのみならず、道着着用MMAにも興味がありますね。道着を使うことによって、一体どういう展開が生まれるのか。新たなひらめきが見られるかもしれませんね。

 最後に、医療関係者の声。

●中田賢一郎(リングドクター兼、セミとメインのレフェリー担当)

――時間無制限バーリトゥードを始めとする今大会のルール制定にも携わったそうですが、どのようにルールを決めていったのでしょう?

中田 不可逆的なこと以外はOKにしよう、というのが基本的な方針でした。眼球が破裂したら、二度と戻らないので目潰しは禁止。キンタ……あ、失礼、睾丸は蹴られたら痛いですけど、ファールカップをしていれば破裂することはないので金的はOK。「何でもあり」と謳っている以上、金的もありにしないと面白くないですからね。

 さらには、頭突きで鼻を折られても治りますし、指が折れてもいつかは元に戻るので指関節もOKでいいんじゃないか、といった感じで渡辺さんらと相談しながら決めていきました。

――大ケガをする選手が出る可能性も?

中田 僕も格闘技をやるからわかるんですけど、「あり」とわかるとけっこう防御できちゃうんですよ。もちろんゲガ人が出た場合の医療体制は万全です。

 そうこうしているうちに大会が始まり、プログラムが順次進んでいく。

新柔術ルールでは、これまでの柔術では見られなかったヒールフック、外掛けなどが解禁。これらを積極的に実践しようとする選手の動きが多々見られた。

道着着用MMAでは、道着がないと作りにくいスパイダーガード(相手の肘のくぼみに自分の足裏を当てるガード)などの技が続々と繰り出された。「ああいう寝技が普通のMMAの中で展開されることはまずないので、見ていてとても面白かった」とは関係者の声。

 そしていよいよ本日のメインイベント、時間無制限バーリトゥードである。元ラウェイ王者の渡慶次幸平と、元UFCファイターのウィル・チョープが、グローブをつけず、「金的、頭突き、指関節あり」で激突するのだ。両選手が入場し向き合った瞬間、会場にいたすべての男性、そして生配信を見ていたすべての男性が、タマを縮み上がらせていたに違いない。

長い格闘家生活でダメージが蓄積されているという渡慶次。「打撃ありルールの試合はこれが最後。死ぬ気で戦って、まだ生きていたら次のことは後から考える」という決意でケージに上がった。

渡慶次が168㎝、チョープが194㎝。この身長差、どっちに有利に働くのか?

序盤はお互いジャブで距離を測りつつ、ローやミドルの応酬が続く。時間無制限の完全決着ルールゆえ長期戦を見据えているのか、お互い手数は少なめだ。

    

渡慶次のインローが綺麗に入る。

試合が大きく動いたのは、開始わずか1分50秒。ジャブを皮切りに前へ踏み込んできたチョープのアゴに、渡慶次の左フックがカウンターでヒット!

続けざまに、右、左、右フックを素手で振り回す渡慶次。最後の一発がバチーンと顔面に入ると、チョープはダウン!

失神状態のチョープに、パウンドを打ち込んだところで試合終了。1分55秒、レフェリーストップで渡慶次の勝利となった。時間無制限ゆえ徹夜も覚悟していた取材班だが、こんなにもあっけなく試合が終わってしまうとは! 死を覚悟していた渡慶次は無傷の生還。もちろんタマも無事だった。

一方のチョープも試合後すぐに意識を取り戻し、渡慶次と健闘を讃え合った。

 以下は、試合後の渡慶次のインタビュー。

●渡慶次幸平

――「打撃ありの試合はこれで最後」と決めていた渡慶次さん。みごと有終の美を飾りましたが、こんなスカ勝ちをしてしまうと、まだまだ続けたくなってしまうのでは?

渡慶次 たとえば500万、1000万くらいのファイトマネーをもらえる試合のオファーが舞い込んできたら考えるけど、基本はもうやらない。これでオシマイです。

――無傷の勝利となりましたが、一歩間違えればタマを失う危険性もある一戦でした。恐怖心はありましたか?

渡慶次 マジでなかったです。ローブローって、来るとわかっていたら効かないんですよ。ファールカップも着けていますしね。

――そうなんですか?

渡慶次 はい。ボディーなんかも、顔面をガードで固めているときに不意に食らうから効く。でも練習中とかに、ボディーを鍛えるためにわざと打たせるときは、思い切り連打されても効かない。それと一緒じゃないでしょうか。それに、ずっとラウェイで金的ありのルールでやってきたから、蹴られないポジション取りをわかっていたし、仮に蹴られても気にしない。あ、これは僕だから言えることなので、良い子は真似しないでくださいね(笑)。

――それにしてもあっけない幕切れでした。

渡慶次 結果的に早く終わったけど、僕もこんなに早く終わるとは思っていなかった。今日のために頭突きもいっぱい練習してきたし、左右どっちのパンチが当たって相手が失神したのかもわからないくらい必死で戦っていました。RIZINファイターの鈴木千裕が「親を目の前で殺されたと思って戦う」とよく言うんですけど、その意味がわかったのがおとといぐらい。僕もそのつもりでやってみるかと思って、やってみたら、相手が失神していましたね。一発目のパンチで相手の目が飛んでいるのがわかりました。

――今後の人生プランは?

渡慶次 今回の試合で「渡慶次って、素手でやらせるとヤベエぞ」というイメージがついたと思います。そのイメージを使って、セキュリティーや後進の指導など、僕自身の今後の商売をうまく展開していきたいですね。僕、子供に教えるジムもやっているんですよ。今月末には子供たちを招待してハロウィンイベントも開きます。素手でこんだけ強い奴が、実は子供には優しい。そういうギャップがあったほうが人々は反応してくれますから、それを意識しながら今後の人生を作っていこうと思います。

――最後に、今後『ROMAN』のバーリトゥードに挑むファイターたちにアドバイスを。

渡慶次 僕みたいに綺麗に勝つのは難しいので、出るからには覚悟してください。

――お疲れのところ、ありがとうございました。

渡慶次 いや、マジで疲れていないんですよ(笑)。2分弱で終わっちゃったから。休憩なしの時間無制限で、完全決着ルールと聞いていたから、1日2日戦ったらどうしようかと思って、試合前の飲み物もちょっと控えていたんですけどね。トイレに行けない可能性があったから(笑)。

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 男の沽券と男の股間をかけた戦いは無事に終幕。大会終了後に渡辺CEOは、「正直、怖かったですよ。渡慶次選手も大会前に『相手の耳をむしっちゃう』とか言っていたので、耳が取れたり指が折れたりしたら、世間からものすごい批判を浴びるんじゃないかって。不安で眠れない夜もありました」と明かし、胸を撫で下ろしていた。

 『ROMAN』の次回大会は来春に開催予定。「業界の温度などを探りつつ、今後も常識の中で拾えるギリギリのラインを攻めていきたい」と渡辺CEOは抱負を語った。

(取材・文=岡林敬太/撮影=長谷英史)

2024/10/24 22:00

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