『毒恋』『離婚後夜』ほか民放ドラマ“深夜30分枠”の重用…元日テレPが語る“局員中心製作”の限界

 連続ドラマといえば、地上波テレビのゴールデン・プライムタイムの目玉コンテンツ。民放各局ではほぼ毎日、どこかで有名俳優が主演を務める1時間ドラマが放送されている。一方で、近年は夜11時以降の“深夜帯”に30分のドラマ枠が増加傾向にある。

 たとえば今年10月期の新ドラマを見てみると、宮世琉弥主演『スノードロップの初恋』(フジテレビ系、火曜夜11時)、濱正悟&兵頭功海のダブル主演『毒恋~毒もすぎれば恋となる~』(TBS系、火曜夜11時56分~)、Aぇ!group・佐野晶哉主演『離婚後夜』(ABCテレビ・日曜深夜0時10分、テレビ朝日・土曜深夜2時30分)、莉子主演『3年C組は不倫してます。』(日本テレビ系、火曜深夜0時24分)、井桁弘恵主演『私の町の千葉くんは。』(テレビ東京系、水曜深夜0時30分)等々、若手俳優やアイドルを主演とした恋愛モノや学園モノを中心に、数多くの30分ドラマが放送されている。

 30分枠のドラマが急増した背景には何があるのか。日本テレビで42年間プロデューサーを務め、ドラマ制作スタッフも数多く指導した尼崎昇氏は、スマホ時代の視聴習慣に合致していることに加え、制作陣にとっての“コスパの良さ”を挙げる。

「Tverの普及と同時に、日テレが先導する形でTverや自社アプリでのリアルタイム配信が始まりました。さらにスマホの高性能化やWi-Fiといった環境の整備とともに、コロナ禍を経て、“ドラマはスマホで見る”のも当たり前に。そうすると、今度は短尺が好まれるようになりました。

 ドラマの場合、1時間ドラマ1本(1クール)の制作費が2000万円ぐらいかかるとして、正直回収できません。そのうえ60分は、スマホでの視聴者にとって“長い”ため、配信でも最後まで見てもらえない。その点30分の深夜ドラマなら制作費が安く済みますし、展開が早く尺が短いこともあって、配信でもよく見てもらえます。

 さらに今は地上波のバラエティ番組は流行らず、収益化するのが難しい。ならばDVD化や配信での収益化が見込めるストックコンテンツ、つまりドラマを制作したほうが“マシ”ということもあって、30分ドラマが増え続けているんです」

 尼崎氏によれば、深夜の30分ドラマ枠は、元℃-ute・鈴木愛理主演『推しが上司になりまして』(テレビ東京系)や、吉谷彩子とともに元SUPER☆GiRLS・浅川梨奈がダブル主演を務めた『どうか私より不幸でいて下さい』(日本テレビ系)など、アイドル出身者による俳優への足がかりとなる側面もある。そしてこれも収益に貢献する。一定数の固定ファンがいるため、配信やソフト化である程度の売上が見込めるのだ。

局員が越えられない「1時間ドラマ」の壁

 若手俳優だけでなく、中堅やベテランの俳優も深夜の30分枠に参入し始めている。2023年4月期にテレビ東京系で放送された『週末旅の極意』で主人公の夫婦を演じたのは、観月ありさと吉沢悠だ。このドラマは毎回、実在するORIX HOTELS & RESORTSのホテルに夫婦が宿泊するのが大きな特徴だったが、ドラマそのものがホテルのPRとなっており、尼崎氏は「“新手のタイアップ”としてのマネタイズに挑戦している」と見る。

「ベテラン俳優の主演ドラマとしては、2023年4月期、日本テレビ系で新設された30分ドラマ枠『ドラマDEEP』の第1弾として放送された稲森いずみ主演『夫婦が壊れるとき』が大きなインパクトを残しました。TVerの全話累計再生回数が2500万回突破という空前の再生数を記録し、日テレ内では“深夜ドラマでの収益化を目指せ”と大号令がかかったものです」

 制作費が安上がりで、収益化できる可能性が高い――つまりコスパがいい深夜の30分枠ドラマに民放各局が力を注ぐ傍ら、制作費ばかりがかかるゴールデン・プライムタイムの1時間ドラマは“微妙”な存在になりつつある。「オリジナルのヒットを出すしかない」と尼崎氏は話すが、同時に「局員が越えられない壁」も示唆する。

「局内に、自分で考えてヒットさせたという実績を持つ人がいなくなりました。外部制作のほうがヒットするケースは多いですし、プロデューサーが局を移籍してヒットを飛ばす例も増えています。テレビ局は社員で作りたがりますが、ずっと自社にいる人間で作ろうとすると、やっぱりどこか“ぬるい”部分があるのかなとは思います。仮にコケたとしても、社員なら食ってはいけますからね。外部の人間は、そうはいかない危機感がある」

 川口春奈主演『silent』や目黒蓮主演『海のはじまり』など、最近のフジテレビ系ヒットドラマを手がけたのは、日本テレビからフジに転職した村瀬健氏だ。また、TBSで『カルテット』などのヒットドラマに携わった佐野亜裕美氏は、関西テレビに転職し、『大豆田とわ子と三人の元夫』や『エルピス-希望、あるいは災い-』のプロデュースを担当した。

 もはや“ぬるいテレビ局員”が中心となったゴールデン・プライムタイムの1時間ドラマ制作は、限界を迎えているともいえそうな事態。危機を救うのは、人材の流動性なのか。

2024/10/17 12:00

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