妖狐が宿り毒を放った魔石「殺生石」の伝説!全国に広がる怪異の痕跡

 殺生石と呼ばれるものは日本各地に存在している。その中で最も有名なのが栃木県野ヶ原にある殺生石だろう。中国・インドより渡って来た悪狐「九尾の狐」が日本に渡り、玉藻の前として天皇に災いをなしたことを陰陽師である安倍泰成に見破られ、ついに敗北し石に姿を変えたという伝説が伝わる。

 殺生石という名称は、この石に近付いた動物や昆虫が石の上やその周辺で死んでしまうという様から、悪霊(妖狐)が毒を振りまいているとして呼ばれるようになったものである。殺生石の”毒”については、松尾芭蕉も『奥の細道』で記しており、「石の毒気いまだ滅びず、蜂蝶のたぐひ真砂の色の見えぬほど重なり死す」と書き、「石の香や 夏草赤く 露あつし」と詠んでいる。この石の毒性については、活火山の那須山から噴出する亜硫酸の火山ガスの影響によるものだと言われており、実際この周辺は独特の硫黄の香りが漂っている。

 2022年3月、この殺生石が真っ二つに割れているのが確認されたことで各メディアにて話題となった。近年よりヒビが入っていたことは確認されてはいたために、自然に割れたものであるとも考えられたが、一部では何らかの封印が説かれたのではないかというオカルトめいた噂も飛び交った。地元では、慰霊祭や平和祈願祭が観光協会によって行なわれるなど、一大事として受け止められたようだ。

 ところで、伝承によるとこの殺生石は少なくとも一度すでに割れたことがある。那須の地にて石となった妖狐が毒を振りまいているとの話を耳にした源翁(げんのう)という禅僧が「草木国土悉皆成仏」ということから、殺生石に花を手向けて焼香をするといった仏事を施した。そして、引導を渡し一喝した途端に石が二つに割れて、中から狐の形の石魂が現れ消え去ったのだという。余談であるが、大工道具の玄翁の名前の由来は、この伝説に基づいた源翁からきているとも言われている。

 また、この源翁の伝説では、一括して割れた際に石が方々へ飛び散っていったというものがある。それは近い所では福島の会津、遠い所では大分県の別府に及ぶとされ、飛び散らずに残ったのがこの那須の殺生石というわけだ。福島県猪苗代町では、その石がまだ悪さをしたためにわざわざ源翁が訪れて、さらに細かく石を砕いたという伝承も残っているという。

 因みに、大分県玖珠郡には、石の下から有毒ガスが出ていて虫や鳥獣が死んでいるのが見かけられたという「殺生石」が存在する。この土地には、かつて広大な土地を有し贅沢を尽くしていた朝日長者の伝説が残っており、七不思議と称されるラインナップも存在している。だが、案内板にて『朝日長者七不思議』の一つとして数えられている殺生石は、朝日長者の伝説そのものに見出されていないという。

 さらに、岡山県の真庭や福島県などに残る殺生石はいずれも妖狐の伝説が残っているにもかかわらず、玖珠郡の殺生石は毒を放つ点こそ共通するものの妖狐伝説は特に見られないという。朝日長者伝説、妖狐伝説、いずれにも接点が見られないこの殺生石の由来は、現在でもよくわかっていない。

【参考記事・文献】

村上健司『日本妖怪大事典』

五来重『石の宗教』

国指定名勝「殺生石(せっしょうせき)」と那須伝説「九尾の狐」

https://www.town.nasu.lg.jp/0224/info-0000000398-1.html

2つに割れた那須の「殺生石」 憶測呼ぶ「九尾の狐」伝説

https://www.sankei.com/article/20220410-UQDIIYV6JRKBVOUVKVT4SRO26A/

栃木県那須町のパワースポット「殺生石」とは? 数々の伝説が残るスポット

https://skyticket.jp/guide/400052/#articleHead_3

ほか

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2024/10/15 16:15

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