佐藤治彦「儲かる“マネー”駆け込み寺」“物価の優等生”たまごの価格動向が怪しい
たまごが再び高騰するのではないかと心配されている。
この記事を読んでくださってる皆さんは、食卓に目玉焼きが出たり、すき焼きを食べる時に生たまごを割りながら「最近はたまごも高いんだろうなあ」という気持ちを添えるといい。子供がたまご料理を残そうとしていたら「たまごだって高いんだぞ。ちゃんと食べないとお母さんが大変」などと諭せば、奥さんや彼女も、ちょっとは見直すかもしれない。それほど、たまごの価格動向が怪しいのだ。
日本のたまごは、長らく〝物価の優等生〟として庶民の家計を支えてきた。フレッシュで衛生的だから、生で食べることもできる。世界で一番の品質にもかかわらず価格は驚くほど安い。高度経済成長の日本で庶民の食べ物として、日本人の長寿を支える栄養源となった。これを実現させてきた養鶏農家の方々の長年の努力には頭が上がらない。
スーパーのバーゲンでは、いつも目玉商品の一つだった。コロナ前までは10個入りパックが130円くらいで売られることも珍しくなく、これは1970年代初めに僕が親の手伝いで買い物に行った時の価格と大差はない。
JA全農たまご株式会社のホームページに記されている東京市場の価格の推移を見ていくと、19年、年間のたまごの価格は平均で1キロ173円。20年、日本中が新型コロナウイルスで困っている時にも171円だった。
ところが翌年の21年が217円、22年も215円と、20年に比べて45円前後上がった後、23年には306円まで急騰する。スーパーで売られるたまごも1パック300円を超え、それでも購入量に制限がつくことがあるほど品薄になった。これは多くの要因が重なって起きたのだ。
まず飼料が高騰した。特にロシアのウクライナ侵攻によって世界的な穀物不足に円安も重なった。そして04年に国内では79年ぶりに発生した高病原性の鳥インフルエンザの大流行が重なった。鳥インフルエンザは渡り鳥が日本に飛来する10月頃から発生する可能性が高まる。
22〜23年シーズン(10月28日〜4月7日)は26道県で確認され、1771万羽が殺処分された。これは採卵できるニワトリの1割以上に当たり、たまごの供給量が減ってしまい、価格が高騰したのだ。
このように、23年に年間平均で1キロ306円にまで急騰したたまごだが、3月から6月までの4カ月が一番高く、最高値は350円。それが12月には247円、24年の1月は180円まで下がってくれた。
これは、たまご農家の努力によるところが大きい。ニワトリがたまごを産むようになるまで、ヒナを150日ほどかけて養わなければならない。
数を増やし、供給量を増やして価格が落ち着いたにもかかわらず、消費量は増えなかった。小売も以前のような大幅値下げをヤメてしまったことも原因だろう。今度は供給過多となり、価格のゆがみが発生する。
私のよく行くドラッグストアでは1パック(10個入り)160円くらいだったが、8月から再び値段が上がり始め、9月には1キロの平均価格が256円の危険水域となってしまった。
今年値上がりしている要因は、酷暑のためニワトリが熱中症で倒れて死んでしまったり、暑さによって食事が進まなかったこと。エサを食べなければ小さなたまごしか産めず、供給量が減ってしまったわけだ。
これから秋となり、渡り鳥がやって来る。ここに鳥インフルエンザの流行が起きるようなことがあると、再び300円台の価格になってしまうかもしれない。
1パック(10個入り)200円台でたまごが買えるのは、ありがたいことだと肝に銘じ、感謝して食べることにしたいものだ。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。