東大、三菱地所も注目。スケートボードによる街づくりと地域活性の可能性
日本では東京オリンピックを機に競技としての認知が広まり、急速にスケートパークが増えたスケートボード。しかしそれでストリートでの滑走がなくなるというわけではない。そこで参考になるのが、フランスのボルドーにて都市開発運動を行うプロスケーター、レオ・ヴァルスさんが広めている「SKATURBANISM(スケーターバニズム)」と呼ばれる概念だ。前回は彼の取り組みを通して、街中でのスケートボード滑走がフランスで合法なものへと変貌を遂げたストーリーを紹介した。この記事では日本におけるスケートボードの現状や課題、解決策とともに、事例を紹介していく。
※上記の写真は、2023年に幕張で開催された「X Games CHIBA」の裏でNike SBが行ったストリートスポット開放イベント。X Games参加選手を初め、多くの人が集まり熱気に包まれた。トリックを仕掛けているのは、パリオリンピック男子パークで銅メダリストとなったブラジル代表の日系3世、アウグスト・アキオ選手。
日本でも認知され始めたスケートボードによる新たな街づくり
レオ・ヴァルスさんは、生粋のストリートスケーターでありながら、都市計画家としても活躍する稀有な人物だ。彼が生み出した概念「SKATURBANISM」は、フェンスで囲われたスケートパークを増やすのではなく、スケートボードと街の共存を目指すもの。レオさんは、この概念をもとに世界で活動を行い、ホームタウンであるフランス・ボルドーでは街中でのスケートボード滑走の合法化に尽力した。
日本でもこの「SKATURBANISM」の概念が少しずつ広がりを見せ始めている。6月にレオさんが来日した際は、フランス大使館の支援を受けて街づくりシンポジウム、MVV(Mieux Vivre en Ville)が開催された。レオさんはこのシンポジウムでの登壇をはじめ、建築および都市に関連する空間デザインの大手、日建設計での講演イベント、さらには東京大学と三菱地所の産学協創連携「MEC-U Tokyo LAB」における総括寄付講座「ARISE City 研究拠点」のワークショップにもオンラインで出演するなど、日本でも積極的に啓蒙活動を行った。またこの広がりは、今回、東京大学までもが「ストリートカルチャーの導入による新たなまちづくり」を課題に挙げ、ストリートスケートと街の関係性に関する研究を行い、協力スケーターを募集するまでに発展しているのも特筆すべき点だろう。
街中でのスケートボードにおける日本の現状と課題
レオさんの活動により、ボルドーでのスケートボード事情は大きな変化を遂げたが、日本はどうだろうか?
日本ではスケートパークは増えつつある一方で、ストリートの滑走は禁止というところがほぼ99%を占める。その背景には「スケートパークを作ればストリートスケーターはいなくなる」という発想があると思われるが、前編で紹介したスケーターにとっての街中での滑走の意義や「SKATURBANISM」の成功を見ても的を射ているとは言い難い。ちなみに法的な面においては、交通の頻繁な道路においては禁止されているものの、その他の場所は完全に禁止されているわけではない。しかし、ボルドーの事例のようなスケートボードと街の共生には、乗り越えなければならないいくつもの課題がある。
例えば、スケートボードと接点のない人たちにとっては「うるさい」「危ない」といったイメージがあるのは理解できる。また日本は施設における公私の境が曖昧で、なんとなくパブリックになってしまっているプライベートな場所をスケーターに発掘され、所有者にとって意図しない使われ方をされている縮図もあるという。
こうした苦情から行政も規制せざるを得ないのだ。
街との共生を実現するために必要なこと
そこで6月10日に日建設計PYNTで行われた講演「スケートボーディングからまちを考える -ボルドーにおけるSkaturbanism-」では、「街の魅力を高める可能性のひとつとしてスケートボードを捉えられないか? 」という仮説のもと、レオ・ヴァルスさんの講演の後、ボルドーで実施されたマスタープラン(※)を中心に様々な議論が交わされた。
※ボルドーにおけるスケートボードと街との共生を実現するために作成された基本計画のひとつ。
ニーズの認知の必要性
まずこういった物事を動かすためには、ニーズ、つまりスケートボードが街を豊かにする可能性があることを行政に認知してもらうことが必要になる。
ではどうしたらニーズを表現できるのか。行政に赴くのか、地域をまとめて発信するのか、それとも協会を通して訴えるのか。レオさんが公益財団を作って多方面とコミュニケーションをとりながら進めたような動きを積極的に見せていく必要がある。ただ、行政側からすると、ニーズがあることが分かれば話し合いまで発展させていける可能性も十分にあるそうだ。マスタープランを作ることは確かに大切だが、まずは実施に向けた土台作りから始めることが先決といえそうだ。
スケーターに対する印象
次に壁となるのが、スケーターの社会的なイメージだ。日本はストリートスケーターに対して、”何か”危なそうという印象を持っている人も多いようだ。
たとえ国際大会で多くのメダルを獲得しても、日本と欧米ではスケボーをしない人の認知度や理解度、スケートボードやスケートパークに対する考え方や意識、スケートボーダーとの距離感に大きな開きがあるからだ。
そこをポジティブなコミュニケーションで埋めていく必要があり、マスタープランのメリットも具体的に示していかなければならないだろう。
四日市の事例:中央通りでのスケボーが街の活性化に
前述のように課題は多いものの街づくりの段階で思想のある人が計画をすれば、スケートプラザ(※)を造るのは不可能ではないという話もあり、実際そこに繋がるような実証実験も行われている。
※スケートボードができる街の広場のような場所の総称。海外ではよくそのような光景を見かける。
昨年度末にスポーツ庁が四日市の中央通りで行った取り組みがそれにあたり、スポーツ施設の減少を背景に誰もが気軽にスポーツに親しめる環境の確保・充実のために公園や歩行空間、広場などのオープンスペースを活用していこうというものだ。
歩行空間には街灯や花壇など様々なものがあるので、それらを活用していかに身体活動を促していけるかという狙いで、歩道空間での“けんけんぱ”、街路樹を活用したツリークライミングやスラックライン、歩行者空間に隣接した広場でのストリートバスケやストラックアウトなどとともに、2年前の社会実験「ニワミチよっかいち」で造られた仮設スケートボードパークでも面白い試みが実施された。その仮設スケートボードパークではスケートボード使用以外にベンチプレス大会が開かれたのだが、これはスケートボーダーにしか使われないスケートパークでは住民の足が遠のいてしまうので、より親しみやすくなるよう多義的に使ってみようというアイデアだ。他にもスケートパークを歩行者が自由に使える時間帯を設定したのだが、子どもたちがセクションを上り下りして楽しく遊ぶ光景が見られたとのこと。
この取り組みのキーワードは「SKATURBANISM」と同じ「シェアリング」だ。スケートボードだけではロジックが通りにくくても、多用途に使えることがわかれば可能性は広がるだろう。またこれは将来的にオープンスペースでのスケートボードとの共存へ向けた可能性という意味でも非常に興味深い。こうしたスモールスタートでもポジティブな解決策を提案していくことは、街との共生への大切な一歩となっていくだろう。
さて、2024年下半期はパリオリンピックでの選手の大活躍によって再びスケートボードが社会から注目を浴びるタイミングとなるだろう。
パリオリンピック後はどのように変わっていくのだろうか。カッコいい! と選手に憧れた子どもが気軽にチャレンジできるような環境が整っていくことを願うばかりだ。
text & photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)