「結婚する」は目標としてNG。人生は自分の頑張りではどうにもできないバグが多い
もう若くはないとはいえ、人生を語れるほど年齢を重ねたわけでもない。そんな中途半端なアラフォー世代の私であるが、37年間生きた中でわりと確信しているのは「人生とはアンコントローラブルである」ということ。目標を定めたり努力したりすることが無駄だとはまったく思っていないし、私はむしろ年始に今年の目標をしっかり定めるほう(そしてそれを概ね達成するほう)だが、究極のところ、人生には自分の頑張りではどうにもできないバグが多すぎるのだ。なので、目標も定めるし努力もするけれど、最後の最後は「運と成り行き任せ」で行くしかない。その結果がどんなものであれ受け入れるしかないし、逆に言うとどんな結果であれ受け入れられるようなメンタルを自分で作っていくことくらいしか、私たちにできることはない。と、まあ大それたことを言ってみたけれど、大谷翔平的に言えば「自分以外のことは言うと叶わない気がするので言わない」みたいな、なんかそんな感じである。
最近、漫画家のよしながふみさんの『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』を読んだ。すでに大谷翔平という虎の威を借りているけれど、さらに虎の威を借りまくると、本書を読んで、もしかしたらよしながさんの人生観も私とけっこう近いのでは? と嬉しくなった。
人を愛したことのない人はかわいそう?
本書は、よしながさんが自身の学生時代や漫画家という仕事について、聞き手の山本文子さんにインタビューされる形で語っている本である。ご存知の方もいると思うが、よしながさんはもともと『ベルサイユのばら』や『SLAM DUNK』で二次創作をしていた同人作家。オンリーイベントに行き「ここにいる人はみんな三井と木暮の組み合わせが好きなの……?」と驚き、「なんだ、この極楽浄土みたいなところは」と多幸感に包まれる様子は、現在絶賛同人活動中の私にとって共感しまくりのエピソードだ。出した同人誌に感想のお手紙なんかいただいちゃった日には脳内麻薬が出すぎて大変なことになり、漫画を描くのがやめられなくなった、というジャンキーみたいな話も、東京ビッグサイトに定期的に足を運ぶ人間なら「あるある」だろう。
特に印象的だったのは、よしながさんが自作(『愛すべき娘たち』)について語っているところ。「人を愛したことのない人はかわいそう」「いい恋愛をしないと、いい恋愛漫画は描けない」みたいなことは女性クリエイターに対してよく言われ、私も苦しめられてきたが、よしながさんは「でも、私は人を愛するということを最上の善とすることに懐疑的(p.202)」と言い切る。私もまったく同感だ。あと、私は婚姻歴のない独身だが、推しカプの同人誌を出したら何十通にもわたる感想のお手紙をいただいたので、「独身でも『愛の物語』は描けるぞ!」と謎の自信をつけた。法を犯さなくても犯罪小説は書けるように、実際の経験とクリエイティビティにそこまで強い相関関係はないと思う。
楽しいこと以外はなるべくしない
よしながさんは本書の最終章で、「私にとって漫画家は夢の職業だった」「ずっと夢みたいだなと思っている」「ラッキーだった」「いつこの夢が終わっても悔いはない」などと語る。睡眠と健康に気を配り、並じゃないストイックさで鍛錬を重ねてきたはずなのに、それを「ラッキーだった」と言えるよしながさんが私は好きだ。
冒頭で、私は「人生はアンコントローラブルなので、どんな結果であれ受け入れられるようなメンタルを作っていくくらいしかできることはない」と言った。そのメンタルの作り方の1つは、「自分が楽しいと感じること以外はなるべくしない」こと。楽しくないことは結果が伴わないと納得いかないので、上手くいかなければ後悔が残る。でも、やっていることそれ自体が楽しければ、たとえ最終的に結果が伴わなくても「まあいっか、楽しかったし」と思える。「職業漫画家ではなくなったとしても漫画を描いていたい」と語るほど漫画が好きなよしながさんは、自身の境遇を謙遜ではく本当に「ラッキーだった(人生を自分でハンドリングしたわけではない)」と思っているのだろう。
最後に蛇足だけど、目標を立てるときに私が心がけていることは、「自分さえ頑張れば達成できるものにする」ことです。「婚活アプリで30人に会う」は自分さえ頑張ればイケそうのでOKだけど、「結婚する」は自分が頑張ってもどうにもならない領域なので目標としてはNGである。
桜咲く新年度、楽しくやっていきたいですよね。
Text/チェコ好き(和田真里奈)