「冬の大地震で死者20万人」の試算が…あの昭和三陸地震と「函館の海岸に大量イワシ」奇妙な符号
年末、NHKが力を入れているのは「紅白歌合戦」だけではない。NHKの各放送局とラジオではここ数年、雪が降り始める頃に「冬の地震対策」特集を組んでいる。その理由がなかなか深い。
冬に死者数が多いと聞いて、車中での凍死や一酸化炭素中毒、石油ストーブから出火しての焼死は真っ先に思いつく。意外なのは「津波からの逃げ遅れ」だ。冬の地震は降雪や路面凍結で高台に逃げるのが困難になり、津波の犠牲者が増えるのだという。なるほど路面凍結で坂道を登れない車を先頭に、避難民の渋滞が起きているところに津波が襲ってくる地獄絵図が想像できる。さらに避難所では、インフルエンザなどの感染症流行も懸念されるだろう。
そして「みなさまのNHK」で報じられないのが「冬の大地震では高齢者や障害がある人の生存率が大幅に下がる」という絶望的な現実だ。
津波が迫る中、凍結した山道や雪が積もった階段を大人や子供が1人でのぼることはできても、足の悪い高齢者や車椅子を担いで逃げるとなると、そうはいかない。津波から逃れられたとして、その先に待っているのはライフラインが絶たれ、暖房器具のない過酷な避難生活だ。
地震に加え、悪天候が重なれば、自衛隊の到着や救援物資の到着も遅れる。心労に加え最低気温が氷点下にまで下がる環境で、寝袋などの防寒具がなければ「災害弱者」から次々と命を落としていくだろう。
内閣府の発表によると、北海道から東北地方が甚大な被害を受けるとされる「日本海溝地震」は、夏の昼間に起きた場合の想定死者数が14万5000人なのに対し、冬の夜間に起きた場合は約20万人(実際の想定人数は19万9000人)に跳ね上がるという試算がある。
降雪地帯ではない「南海トラフ地震」でも、夏の昼間は東海から九州までの想定死者数34万人に対し、冬の夜間は42万人にまで増える試算だ。
なぜそんなことを書いたかというと、東海や四国、九州の南海トラフ被害想定区域では、いまだに町内会や小中学校で「車椅子に乗ったお年寄りを高台まで子供たちに担がせる」という、とんでもない避難訓練が行われているからだ。津波到来までの数十分間にこんなことを子供に強要したら、集落が全滅する。
東日本大震災や阪神淡路大震災の経験者は知っている。自分の身を守ることが最優先。岩手県の伝承「津波てんでんこ」こそが正しいと。
岩手県では昭和8年3月3日の午前2時30分に「昭和三陸地震」が起きた。真夜中であったため、津波から逃げ遅れた人が多くいたという。存命中の宮沢賢治も、海岸に打ち寄せられた津波犠牲者を嘆く手紙を残している。
この昭和三陸地震には様々な「地震フラグ」が立っていて、作家・吉村昭の「三陸海岸大津波」には、前日から井戸水が出なくなった、大砲を打つような音がした、海が光った、前年夏からイワシとマグロなどが豊漁だったと記されている。地震の前日には、神奈川沖にまるまると太ったイワシの群れが押し寄せた、との別の記録もある。
今月に入り、インドネシアやフィリピンで大地震が続き、12月7日には北海道函館市の海岸に大量のイワシが打ち上げられた。これが「令和の大地震フラグ」でないことを祈るしかない。
(那須優子)