週末の楽しいお出かけが学びと成長の機会に! インクルーシブなスポーツイベント

週末、家族で何をしよう? 親子で楽しめる場を探して、イベントや催しにお出かけになる方も多いのではないでしょうか。最近、そういった場のひとつであるスポーツイベントでは、パラスポーツの体験を実施するなど、障がいのあるなしに関わらず楽しめるものも増えています。インクルーシブなイベントの良さはどんなところにあるのか、あるイベントに潜入し覗いてきました!

親子で夢中! パラスポーツ体験

10月9日のスポーツの日を含む7日~9日の3連休に開催された、パラスポーツ体験やスポーツ教室、アスリートのトークショーを通じてスポーツを楽しむイベント『スポパラ!in BOAT RACE 浜名湖~カラダとココロを動かすスポーツフェスタ』(以下、『スポパラ!』)。体験やアスリートによる教室、トークショーなど、多彩なコンテンツが実施されました。

今回のイベントのメインコンテンツの1つは、パラスポーツ体験。根木慎志さん(車いすバスケットボール/シドニー2000パラリンピック男子日本代表キャプテン)、花岡伸和さん(パラ陸上/アテネ2004、ロンドン2012パラリンピック日本代表)、田口亜希さん(パラ射撃/アテネ2004、北京2008、ロンドン2012パラリンピック日本代表)のパラリンピアン3名、日本ボッチャ協会普及振興部長の新井大基さんがナビゲーターとして参加。多くの来場者が、初めての体験に笑顔を見せます。

車いすバスケットボールでは、根木さんがスーパープレーでゴールを決めると、車いすの操作が見る見る上達した子どもたちも素早いパス回しで根木さんを翻弄するなど大盛り上がり。パラ射撃(ビームライフル)でも、大人顔負けの腕前と集中力を発揮した子の真剣な表情が印象的でした。

また、パラ陸上(レーサー)体験では、陸上競技用の車いすに乗ってどこまでスピードが出るかにチャレンジし、子どもよりも顔を真っ赤にしてハンドリムをこぐ本気のお父さんたちが続出。ボッチャでも、新井さんの解説でルールをすぐに理解すると、親子の間で白熱したゲームが展開されていました。

遊び感覚の運動だからこそ自然と「ボーダー」を超えられる

一方、パラスポーツ体験と同じく3日間にわたって実施されたのが「インクルーシブトレーニング」。車いすの方や障がいのある方も誰でも楽しめる運動というコンセプトのもと、ヨガ講師の桑野東萌さんが開発したものです。

今回は、参加者全員が輪になっての準備体操、じゃんけんとスクワットなどを組み合わせたゲームを行ったほか、特徴的だったのは全員が車いすに乗っての運動です。車いすの操作を学びながらカラーコーンを往復するチーム対抗リレーや、車いすに乗っている人、乗っていない人が一緒になって姿勢・目線の高さを合わせながらボール運び競走をするなど、参加者全員が楽しんでいました。

「子どもにとっては、車いすにただ乗っているだけでも楽しいと思うんです。普段、車いすに乗るという経験はなかなかないと思いますが、スポーツをしなくても遊びの中で体験できるというのがこのインクルーシブトレーニングの醍醐味かなと思います」(桑野さん)

こうした本格的なスポーツではない遊び感覚の運動であるからこそ、車いすに対するハードルが下がり、親子で楽しく触れる機会が増える。それにより車いすへの“特別視”がなくなり、特に子ども世代にとって車いすや障がいのある人たちがいるのが当たり前、ごく普通のものと自然に捉えられるようにもなる――桑野さんはインクルーシブトレーニングを通じてそのような世界観を目指したいと語ります。

「大人になると、車いすや障がいのある方に対して“聞いちゃいけないんじゃないか”“失礼なのではないか”など、見えないバリアを作ってしまう。でも、子どもたちはそういったことが全然ないので、こうした場で体験したこと、障がいのある子たちと触れ合ったことが後々の社会貢献につながると思いますし、それが当たり前という子どもたちの関係からは大人が学ぶことが多いですよね。すごく自然にボーダーを超えてしまう子どもたちの感性と対応力にはすごく感銘を受けています。そうした場が今後も増えていけばと思います」

桑野さんが語るように、子どもだけでなく親にとっても今回のインクルーシブトレーニングが大きな気づきのきっかけになったようです。ママ友同士で参加したという5歳のお子さんを持つお母さんに感想を尋ねると、このように話してくれました。

「車いすの運動が特に良かったです。私も子どもも触れる機会がなかったですし、子どもにとっても実際に乗ったことで車いすの方たちを身近に感じられるようになると思います。

また、桑野さんが最後に『今回を機会にして、これから車いすの方たちにぜひ声をかけてください』と話されていて、あ、私も声を気軽にかけていいんだと思いました。私一人では多分できなかったことですし、子どもを通して多くのことを学べたと思います」

取材を実施した7日以外のインクルーシブトレーニングでは、障がい当事者の子どもも参加したそう。障がいのあるなしや年齢の違いに関わらず、リラックスして身体を動かす経験から学び感じるものは、とても大きいように思えました。

一緒に理解を深めて、親子のコミュニケーションの場に

スポーツを通した親子の気づき・学びの場となったのは7日に実施された親子かけっこ教室もその一つ。「今回はできる・できないにかかわらず、親子一緒にチャレンジしてみようという形で実施しました。親御さんも一緒に参加して、今お子さんが何につまずいているのかということを知り、共通の理解を深めることで子どもとのコミュニケーションにもつながればいいですよね」と語ったのは、講師として参加した塚原直貴さん(陸上/北京2008オリンピック男子4×100mリレー銀メダリスト)です。

今回のかけっこ教室は『姿勢』を大きなテーマとして行われましたが、そこには以下のような思いがあることを塚原さんは話してくれました。

「スポーツや運動でパフォーマンスを出せる正しい姿勢があるということを、基本動作である“走る”ことを通して学んでもらえればと思います。それは何も陸上やスポーツだけでなく、勉強や読書、普段の生活などでも姿勢を良くすることで体に負担がかからず、集中力が続きますよね。今回のイベントが、そうしたことを親御さんから子どもたちに話していただけるような機会になればと思います」

一方で、パラスポーツのイベントで陸上教室を開催したのは今回が初めてだったという塚原さん。この日は障がいのある子の参加はなかったものの、参加があった際には車いすバスケットボール体験のナビゲーターを務めた根木さんに入ってもらいながら、障がいのある子も一緒に教室を行う予定でした。

「車いすの方や障がいのある方も差がなく同じように“走る”という感覚を味わえるようなことができれば面白くなると根木さんともお話していたので、(これからも)もっとあらゆる人を巻き込んだイベントができればと思っています。

フラッとやって来て、苦手意識も抵抗感もなく楽しめるのが今回のようなイベントの魅力の一つ。特にパラスポーツはゲーム性があってすごく楽しいですし、逆に健常者も車いすを使って遊んでもいいと思うんですよ。また、自分自身を超えていくことが身近に捉えられるので、ボーダーレスに楽しめる生涯スポーツになり得ると思います。僕も魅力を感じた一人として今後も発信していきたいですね」

インクルーシブなイベントをもっと身近に

3日間、楽しみながら多くの親子が気づきを得る場になった『スポパラ!』。これまで紹介した以外にも、田中佑典さん(体操/ロンドン2012オリンピック団体総合銀メダリスト、リオ2016オリンピック団体総合金メダリスト)による子ども体操教室(8日)や、障がいのあるなしに関係なく自分がどんなスポーツに適性があるかを知ることができるDOSAスポーツ能力測定会(8、9日)、親子で一緒に「ふつう」と「ちがい」の世界を学ぶ「あすチャレ!ファミリーアカデミー」など、障がいのあるなしに関わらず参加できる・障がいについて楽しく知ることができるプログラムが行われました。

また、「HEROsトークショー」では、村田諒太さん(ボクシング/ロンドン2012オリンピックミドル級金メダリスト)、河合純一日本パラリンピック委員会委員長、塚原さん、田中さん、地元・静岡出身のボートレーサーである森下愛梨選手、「あすチャレ!ファミリーアカデミー」にも参加した山本恵理選手(パラ・パワーリフティング)と、日替わりで多くのアスリートが登壇。アスリートからこそ聞ける貴重なお話に、多くの人が耳を傾けていました。

盛況だった3日間を振り返り、イベントを開催した浜名湖競艇企業団宣伝課課長補佐の白井幸倫さんは、「静岡県~愛知県東部地域住む多くの方にインクルーシブスポーツの更なる普及と将来のパラアスリートの輩出の一端を担えれば」と、今後もパラスポーツ関係団体と協力しながらさらに盛り上がるイベントとして発展・定着していくことを将来の展望として見据えます。インクルーシブトレーニングに参加していたお母さんも「住んでいる近くで子どもと一緒にこういう体験ができるのは嬉しいですね」と、今回の『スポパラ!』のようなイベントが定期的に開催されることを歓迎していました。

子どものころに経験したことを、大人になってもずっと覚えている人も多いでしょう。パラスポーツを体験し、アスリートと出会った経験は、子どもたちにとって週末の楽しい思い出に留まらない、豊かな価値観を自然と身につけるような貴重な機会になる可能性を秘めています。障がいのあるなしに関わらず楽しめるイベントがもっと増え、より多くの人にとってもっと身近になると、数字以上のインパクトが社会に生まれてくるのかもしれません。

text by Atsuhiro Morinaga(Adventurous)

edited by parasapo

photo by Haruo Wanibe

2023/12/6 7:30

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