ホス狂いは自業自得?売掛金100万円以上…20歳女性客のホンネ「彼との関係は宗教のようだった」
欲望が渦巻く新宿歌舞伎町。トー横キッズにホス狂い、大久保公園のたちんぼ。危険と隣あわせの夜の世界で刹那的に生きている彼女たちは、当然事件に巻き込まれることも多く、そのたびに世間からは「自業自得だ」と批判を浴びせられる。
彼女たちは一体どうしてそこにいて、どう生きているのか。エッセイストでライターのyuzuka(@yuzuka_tecpizza)が取材する(以下、yuzuka寄稿)。
◆代表逮捕で問われる「ホストのあり方」
ホストクラブのあり方が、問われ始めている。
日本維新の会所属の新宿区議は先月、区議会へ「売掛金禁止条例」の検討申し入れを行った。同会派の区議団は売掛制度を問題視し、「多額の売掛金を支払うために、風俗を行う女性が多くおり、社会問題となっている大久保公園一帯の立ちんぼや、トー横問題と繋がる」と、検討申し入れの経緯を説明した。
11月17日には「ナンバーワンになるためにお前の力が必要だ」と、女子高生を毎日、自店に誘導した挙げ句、173万円を使わせたとして、風営法違反の疑いで歌舞伎町ホストクラブの代表が逮捕された。この女子高生は支払いのため、大久保公園で立ちんぼ行為をし、約200万円を稼いでいた。
◆「自業自得だ」と嘲笑う世間の声
このホストクラブの高額な料金と、それを支払うための売掛制度について、疑問を感じるタイミングは私自身、幾度となくあった。
私のフォロワーにも、風俗業に従事したきっかけがホストクラブに通うためだった、という女性も多く、なんとなく足を踏み入れた先で売掛額が膨らんで首が回らなくなり、大学を中退したり、正社員として働いていた職場を退職したりして、昼夜を問わずに稼げる“夜のお店”で働いているケースも複数あった。17日の事件と同様、未成年で現役ホストに貢いでいる女の子も少なくはない。
そんな彼女たちに向けて、私が「どうしてそんな状況に?」と問うたび、回答はいつも決まって「いつのまにかこうなっていた」だった。
世間はそんな彼女たちに対する理解に苦しみ、事件が起きるたびに「自業自得だ」と嘲笑う。しかし、どうして「普通の女の子」がホストにハマり、多額の売掛を抱えるようになるのだろう。今回は2部構成として、前半では実際に売掛をしながらホストクラブに通うRさん、後半では現役ホストのはっしーさんに取材を行った。
◆未成年者なのにホストに連れていかれた
Rさんが最初にホストクラブに足を踏み入れたのは、大学1年生の時だった。たまたま歌舞伎町を歩いていると、やたらとしつこいキャッチにあった。イヤホンの音量を上げて立ち去ろうとするRさんの耳から無理やりイヤホンを取り外す彼は、新人のホストだった。
「ノルマがあるんだ。無料で良いから来てほしい」。彼は渋るRさんの手を引き、半ば無理矢理、自分の店に連れて行った。初めて入ったキラキラとした店内で、Rさんは未成年(当時)だからとジュースやお菓子を振る舞われたという。
――どんな接客を受けたの?
Rさん:いきなり、「一緒に住まないか?」って言われた。
――初対面だったのに?
Rさん:たぶん若いから稼げると思われたのかもしれない。その人は店の寮に住んでいて、そこから出たいと何度も話された。住む場所を探してるんだって。
◆「夜の世界」で働くようになって一転
唐突でしつこい営業に軽い恐怖を覚えたRさん。店を出てからしばらくは、再びホストクラブを訪れることはなかった。しかしそれから2年たち、生活費が足りなくなって夜の世界に足を踏み入れてキャバクラでバイトを始めた20歳の頃、状況が変わった。
夜の仕事に慣れないストレスで、過度にお酒を飲むようになったのだ。キャバクラ嬢として働き始めたRさんがいつもと同じように歌舞伎町を歩いていると、2年前と同じようなキャッチに捕まった。
「僕の紹介でホストクラブの初回に行くと、半額で飲めるよ」。ホストクラブでは、顧客を獲得するための手段として、「初回料金」を設定しており、初めて来店する女性は、破格の料金でホストクラブを体験することができる。場所によっては60分500円程度で出向くことができる。Rさんは、そんなに安いなら……と、再びホストに足を踏み入れることになる。
――久しぶりに行ったホストはどうだった?
Rさん:楽しいと思ってしまった。お酒が飲めるようになったのが大きいと思う。合コンみたいな感じで、すごく盛り上がった。その時もホテルに誘われたりしたけど、それは断った。
――そこから通うようになったの?
Rさん:その時は帰ったんだけど、そこからホストの世界に興味を持ち始めて、有名なホストのSNSを見るようになった。その中の1人に惹かれて実際にお店に会いに行って、そのままその人を指名することになった。
――その時はどうして指名しようと思ったの?
Rさん:ちょうど彼氏と別れて、寂しかったのもある。
◆「ヘンなことは一度もされなかった」
最初に指名した彼との関係についてRさんは「宗教のようだった」と語る。ホストの営業方法には種類があり、恋人や婚約者であるかのように錯覚させ、お金を使わせる「色恋営業」、友達のように親しく接することで繋ぎ止める「友営」、恋人同士のような甘い時間を演出する「イチャ営」、女の子を束縛し、あえて支配的に接する「オラ営」などがある。
Rさんが当時指名していた彼は、そうした接客スタイルではなく、サラッとした、あっけらかんとしたものだった。「私に興味がないんだってすぐにわかる。好きになってくれるという勘違いさえしなかったから、余計に安心した」と、Rさんは語る。
――じゃあ、彼への気持ちは恋愛感情じゃなかったの?
Rさん:どちらかと言うと、尊敬していた。他のホストたちはすぐにホテルに誘って、色恋営業ばかりだけど、その人は優しくてトークも上手かった。同伴やアフターもしてもらったけど、ヘンなことをされたことは一度もない。
――彼の他のお客さんはどんな感じだった?
Rさん:有名ホストだったから、指名客は多かった。10年くらい通い詰めてるお客さんもいたし、片思いしてる女の子もたくさんいたと思う。被り(同じホストを指名する他の女の子)の中には「結婚して!」と騒いでる女の子もいた。
◆初めて「売掛」で飲んだ日の出来事
そうして本格的にホストクラブに通い始めたRさん。指名しているホストに恋愛感情こそないものの、ただ“飲む”だけで1回の会計は平均8万円で、時に30万円を超えることもあった。キャバクラやガールズバーでお金を貯め、予算を決めて来店していたRさんだったが、ある日、会計金額が数万円分、手持ちを超えていることに気付いた。「どうしよう」と狼狽えるRさんに、当たり前のような口調で、担当のホストが言った。
「大丈夫。来月の5日に払えばいいよ」。俗に言う、売掛制度だった。あれよあれよと言う間に、簡易的な借用書に住所や名前を書き込み、ハンコがないからと、拇印を押した。売掛は驚くほどスムーズで、そして簡単だった。店によっては書類さえなく、口約束だけの場合もある。
最初こそ抵抗感があったものの、“たかが数万円”。ガールズバーに1日出勤すれば1万円が手に入る彼女にしてみれば「数日働けば良いだけ」だった。来月に返すなら、たいした額ではない。しかし、一度売掛制度を利用すると、途端にそのハードルは下がっていく。
――どんどん慣れちゃうんだ?
Rさん:うん。周りもみんな同じ。ホストに通い始めると、売掛が当たり前になる。むしろ「売掛があるから生きていける」という女の子までいて、彼女たちはわざと大きな額の売掛をして、それを原動力に生きている。
◆いつしか“夜のお店”で働くように
「マヒしていった」という言葉の通り、1回につき2万~3万円だったRさんの売掛は5万、10万円と増えていき、並行して、夜の世界にもどっぷりと浸かっていく。Rさんはもっと稼ぎを増やすため、空いた昼間にも稼げる“夜のお店”で働くことになる。
――抵抗はなかったの?
Rさん:あったけど、正直キャバクラでも枕をしてる子はいた。最初は働くつもりなんてなくて、たまたまコンカフェの面接に行ったら、ダミー店で無理矢理働かされたのがきっかけだった。それで、正直どうでもよくなった。キャバクラで働いていても、セクハラみたいなことはあるし、もう同じかなって。給料も高いし、送りもある。
――どうしてそこまでして、ホストにお金を使うんだと思う?
Rさん:承認欲求だと思う。ホストに通う女の子は「お金を使える自分はカッコいい」という価値観に染まっている子が多い。「お金を使わない女は悪だ」と言い切る子もいる。ホストも、お金があることを匂わせれば匂わせるだけ優しくなる。初回でも「前の担当にこれだけ使ってたよ」と話すと相手にされるし、もっとかまってもらえて、寂しさを埋められる。あとは、「彼には私しかいない」と思うことで心を満たしているところもある。
――他の女の子たちも、夜のお店で働いてる子が多いの?
Rさん:お金を使う子はほとんど働いてるし、最近はちょっと、お金の集め方がヤバくなってる気がする。「客に病気で手術が必要だって嘘ついたら、〇万円引けた」とか詐欺に近いことを平気でしてる。しかもそれをインスタで自慢する子もたくさんいる。お金を稼げることが唯一相手にしてもらえる方法で、ステータスになってると思う。売掛に追われて切羽詰まって、友達のお金を盗んじゃう子もよくいる。
◆明細すら見せてもらえず借金は増えた
自身もダマし、ダマされるうちに「誰も信じられない、信じられるのはお金だけ」という価値観に染まっていったRさん。他店でも売掛を抱え、トラブルも起こった。
――Rさんが、払えなくなったことはないの?
Rさん:ある。通っていた店で「入れないで」と言ったのに勝手にシャンパンを入れられたり、シャンパンコール中、「シャンパン入れていいですか?」と大声で煽られて高額なお酒を注文させられたり、半ば無理矢理お金を使わされることが増えていった。そこでは30万円くらい売掛をさせられたけど、払っても払ってもなぜか減らなくて、何度も「総額を教えて」「明細を見せて」と言ったけど、はぐらかされて……。
――借用書は?
Rさん:その店では書かなかった。だから、いくら使ったのかも、いくら返したのかもわからなくて。「話がしたい」と言うと「ご飯に行こう」と誘われる。それも同伴として店に連れて行く口実でキリがなかった。
――どうしてはっきりと断らなかったの?
Rさん:恋愛感情があったと思う。「ホストを辞める」「一緒に住もう」と言われて、いつのまにか本気になってた。
――そこから、売掛を踏み倒すことになったんだ。どうして?
Rさん:他のホストに「アイツ、お前と別に“本カノ”がいるよ。みんなに結婚するっていってるけど嘘だよ」と教えられた。疑ったけど、実際に彼の写真が載っている本カノのインスタも見せられて、いろんな人に結婚の話をして、全員に婚約指輪まで渡していたことが分かった。大学生の女の子に「子どもができたら大学やめていい」と無責任に言っていて、ドン引きしちゃって。そこで気持ちが切れたと思う。
◆売掛を放置してトンだ、その後は
ここで言う「本カノ」とは業界用語で、本命の彼女のことを指す。思わぬ事実に直面し、心が折れたRさんは残った売掛けを放置し、“トンだ”。
――彼から連絡は来た?
Rさん:来なかった。借用書も無かったし、どうしようもなかったと思う。それに、他の女の子にも同じような方法で接客していたから、キリがないんじゃないかな。
――そういうふうにトンでしまう女の子はよくいるの?
Rさん:よくいる。最近ではSNSにホストのことを晒す子が増えてて、それを見て、私と同じように「全部嘘だとわかったからもう払いたくない」って、気持ちが途切れちゃう子が多い。
――ホストに恋愛感情を持つ女の子は多い?
Rさん:多い。周りの子たちも「付き合ってるんだ」「結婚するんだ」とか話してる。でも、よく聞くと普通に店に通ってるし、売掛が100万円以上あって、ダマされていると思う。「結婚の約束はしているけど体の関係がない」とか、他人が聞けば変な話もある。
――みんな、逃げた先で追いかけられたりはしないの?
Rさん:追いかけられる子もいるし、そもそも逃げられないように殴ったり、監禁まがいのことをしたりするホストもいる。私の友達にも、自分の家の鍵やキャッシュカード、スマホを奪われて、自分の家なのに外に出られない状況になっていた子がいる。警察に連絡したけど、「自分の家だと監禁には当たらない」となかなか動いてもらえず、やっと会えた時にはあざだらけだった。
◆上司のプレッシャーでおかしくなるホストも
もし女の子が売掛けを払わずに踏み倒した場合、その売掛はホスト本人が立て替えることになる。売れていないホストであるほど、多額の売掛を踏み倒されれば、途端に首が回らなくなる。ホストたちが回収に躍起になるこの構造は、彼らが闇金まがいの取り立てをする動機になっている。
――ホストたちも売掛のせいで不安定になったりするの?
Rさん:不安定になる子は多いし、生活ができなくて、従業員同士で財布を盗み合うこともある。売れていないホストは、切羽詰まると、とんでもないことに飛びついたりもする。
――例えば?
Rさん:あるホストに車をぶつけられた時、「店で話そう」と言われて、勝手にシャンパンをおろされたことがある。事故でさえ、売上に繋げようとするんだとビックリした。修理費も払ってもらえなかったし。ホストたちも、上司から「本数、本数」と言われて相当プレッシャーになって、おかしくなっている。「同僚に財布を取られて食べるものがない」と泣きつかれて、ご飯をおごったこともある。惨めだし、不憫に感じた。
◆現役ホストの見解「あれは闇金と一緒」
果たしてこれは、健全な状況だと言えるのだろうか。歌舞伎町のホストクラブでFILIAで働く現役ホストのはっしーさん(@yyooos)はこう苦笑いする。
「売掛制度は店側だけが儲かるシステム。トンだ女の子を追いかけて、風俗店で働いてたよって実家の周りにビラを撒いたり、ドアノブを壊したり。そんな取り立ての結果、女の子が自殺してしまったケースも何度を見てきた。あれは闇金の取り立てと一緒です」
また、売掛制度を踏み倒す可能性があるのは、女の子側だけではない。トンだ売掛を肩代わりしたホストもまた、その金額に途方に暮れ、逃げ出してしまうことがあるのだ。
「トンでもなぜか見つけられるんですよね。どうやって見つけてるのか分からないですけど数日後に店にいて、ガン詰めされて殴られているのも何度か見たことがあります」
はっしーさんが「売掛制度は店側だけが儲かるシステム」だと断言するように、地獄を見るリスクを抱えるのは、ホスト側も同じようだ。近日公開の記事では現役ホストでありながら売掛制度に異議を唱えるはっしーさんに引き続き話を聞ていく。
<TEXT/yuzuka>
【yuzuka】
エッセイスト。精神科・美容外科の元看護師でもある。著書に『埋まらないよ、そんな男じゃ。モノクロな世界は「誰かのための人生」を終わらせることで動きだす。』『君なら、越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も』など。Twitter:@yuzuka_tecpizza