「すべては舞台を楽しんでいただくため!」林家笑丸さん(49)「後ろ紙切り落語を編みだした男の巻」珍談案内人・吉村智樹のこの人、どエライことになってます!
関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■多芸多才な注目の落語家が冷や汗を流した仕事とは!?
上方落語界において、林家笑え み丸ま るさん(49)ほど芸の幅が広い人はいないだろう。落語の賞を受賞しているのはもちろん、踊り、操り人形にふんする人形振り、三味線、ウクレレ、南京玉すだれ、後ろ向きで踊る「後ろ面」、果てはバック転やムーンウォークまで取り入れ、客席を沸きに沸かせる。NHKの朝ドラ『わろてんか』では諸芸の指導にあたるほど多才なのだ。
「すべては舞台を楽しんでいただくためです。酔っ払いばかりの宴会場や学級崩壊の現場など、落語をするべきではない状況でも、“落語の中で独自の難しい芸を披露することができれば、どんなお客様にも舞台を楽しんでいただける”と考えて『演芸落語』を考案しました。そして創意工夫を尽くすうちに、落語と芸のバリエーションが増えていったんです」
舞台に真摯に向き合うからこそ、エンタテイメント色が強まっていったという笑丸さん。中でも背中に手を回し、ハサミを見ず、さらに歌いながら行う「後ろ紙切り」は、笑丸さんの高座でしか見ることができない超絶の技術だ。
「バンクーバーでの舞台出演の際に、日本語が通じない外国人のお客様にも楽しんでもらいたいと思ったんです。紙切りならば言葉が通じなくても見た目に分かりやすい。ただ、本職の紙切り師と同じことをするのは一流の芸人ではない。だったら独自の『漫談後ろ紙切り』を創作して“背中で切ろう”と」
その後、海外でたびたび英語紙切り落語を披露し、特にサンフランシスコでは、「ここで永住したい」と考えるほど大いにウケたという。
■試行錯誤しながら目指す落語の未来
場所を選ばず爆笑を呼ぶ後ろ紙切りだが、面白くしゃべりながら、完成図を頭に描きつつ指を動かすのは至難の業。いくつもの動作を同時にこなすため、そう簡単にはうまくいかず、完成までに数年を要した。以前は失敗もあったという。
「バスツアーの仕事で、車内で紙切りを披露した際、バスが揺れるものですから、誤ってハサミで指を切ってしまいました。切り絵に血がついて、“おめでたい紅白のウサギです~”って(苦笑)。焦って冷や汗が出ましたし、傷が痛くて泣きました。正真正銘“血と汗の涙”の芸なんです」
ちなみにバスツアーではBGMを流すスタッフがおらず、しかたがなく自分で歌いながら切り絵をしたのだそう。紙切りの際に歌うスタイルになったのは、この経験からなのだとか。まさにケガの功名である。
紙切りに歌の要素を含むようになってから、こんな経験もあった。
■西川きよしが舞台に駆け寄ってきて
「紙を切りながら“♪収入は不安定~、それ以上に情緒不安定~”と歌っていたら、西川きよし師匠が本気にして“大丈夫か?”と舞台に駆け寄ってこられたときもありました」
エピソードに事欠かない後ろ紙切り。作業は後ろで行うが、笑丸さんの姿勢は常に前向き。落語の未来のために、新しい笑いの方法論を自ら切り開いている。
【画像】紙を切っている最中も漫談で笑わせる
よしむら・ともき「関西ネタ」を取材しまくるフリーライター&放送作家。路上観察歴30年。オモロイ物、ヘンな物や話には目がない。著書に『VOW やねん』(宝島社)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)など