「子供はとっくに消えた。増えたのは害獣」それでも限界集落が消滅しない理由とは

 日本の人口減少、出生数低下が加速する一方で、影響はことさら地方の集落で深刻化。限界集落どころか無人集落すら存在する。今そこで何が起きているのか。これからどうなるのか。“超”限界集落に足を運んだ。

◆超高齢化集落は問題が山積

 総務省が’23年9月に発表した日本の人口推計は1億2445万人で、高齢化率は過去最高の29.1%。75歳以上の人口が初めて2000万人を超え、“10人に1人が80歳以上”となった。少子高齢化が進む中、人口の50%以上が65歳以上の集落=限界集落は今や全国各地に存在する。この先、限界集落はただ消滅する日を待つのみなのか。そこに暮らす人々に話を聞いた。

 訪ねたのは人口推計66万6793人で高齢化率36.3%の高知県。山地率89%の同県は都市部からすぐに急峻な地形があり、人が住んでいるとは思えない場所にまで集落が点在している。

 まず向かった限界自治体は、人口3146人で高齢化率59.69%の大豊町。高知市から車で高速道路を30分ほど走らせると、この超高齢化の町に辿り着く。

 その中心部からさらに1時間で、大豊町の立川地区で活性化推進委員会の会長を務める吉川定雄さん(73歳)の自宅に到着した。道中には病院もなければコンビニもない。あったのはスーパー1軒と広大な自然だけだ。

◆「集落に子供がいない=消滅せざるを得ないってことです」

「1955年の高度経済成長期以降、人が大都市圏に出ていき、林業の衰退で若者も出ていって過疎化が進んでしまった。大豊町の人口は右肩下がり」と吉川さんは肩を落とす。立川地区では1993年に小学校が廃校になると同時に、地域から子供が消えた。

「人間を含めあらゆる地球上の生物は、3つの条件がなけれれば生きていけない。それがエネルギー・食料・種。種は子供ですよね。集落に子供がいないということは消滅せざるを得ないってことです。まだすぐにはなくならないけどね」

◆人口が減り、害獣が増えた

 人口は減少する一方で、サルやイノシシ、シカなどの害獣が増えているという。

「作物が食われることで、作り手の意欲まで食われてしまう。害獣の数が増えたいちばんの要因は、ハンターが減ったこと。ハンターも年齢を重ねて、今では鉄砲ではなく杖を持ってますよ(笑)」

 時折冗談を交えて話す吉川さんだが、集落の現状は決して笑えない。住民の高齢化により、集落の環境整備ができなくなってきたのも問題だ。

 とはいえ「この町の出身で高知市内近郊に住んでいる若者たちが、週末になると道路掃除や畑仕事などを手伝いに戻ってくるんです。定住人口ではないけど、彼らのような“関係人口”がすごく支えになっている」と吉川さんは明るい笑みを浮かべる。

◆大豊町の魅力を伝える「おおとよ探検隊」

 関係人口とは、移住者でもなく観光客でもない、地域の人々と関わりを持つ人たち。大豊町と連携し地域の魅力を伝えることを目的に活動する高知県立大学「おおとよ探検隊」のメンバーたちもその一員だ。

「立川やすらぎ茶屋」という店を開き、クッキー販売を行う現地活動や立川地区の日々の様子をSNSで発信している。

「地域の方々が私たちの活動を温かく受け入れてくださり、一緒に地域を元気にしていこうという雰囲気が心地いいです」と、「おおとよ探検隊」副代表で大豊町出身の久保彩音さんは感謝を口にした。

 地域活性化を望む人たち同士の良好な関係こそが、限界集落が消えない一因だろう。

◆住民との価値観の相違が移住者トラブルの要因に

 翌日に訪れたのは大豊町よりさらに奥地にある大川村だ。人口推計362人。1972年に白滝鉱山が閉鎖、翌年に早明浦ダムが完成したことで人口が流出。全体の高齢化率は41.99%とはいえ複数の限界集落を抱える。同村で暮らす柳生明良さん(34歳)は、これが2度目の移住。最初の移住地である限界集落の別子山ではトラブルに悩まされた。

 愛媛県では新居浜市別子山の地域おこし協力隊に’21年12月から13か月在籍。自身のYouTube「小さな村で暮らす」で移住に失敗したことを伝える動画を’22年12月に公開し議論を呼んだ。10か月がたった今、再生回数は約500万回に及ぶ。妻とともに田舎暮らしを夢見て東京から移住するも、なぜ地域住民との間に溝ができてしまったのか。

 もともと東京で小学校の教員をしていた柳生さん。「いずれは起業したい」という思いから、地域貢献の活動を行いながら補助金などサポートが受けられる「地域おこし協力隊」という総務省の制度を利用することにした。

「別子山を選んだのは、与えられたことをこなすミッション型ではなく、8割は自分でテーマを決めて活動できるフリーミッション型だったから。空き家を改修しながらその様子を動画で発信してSNSで土台を固めつつ、残り2割は『地域のため』に時間を充てることが決められていました」

 柳生さんがそう語るが、住民との間で「地域のため」の認識にズレが生じ、人間関係が崩れ始める。「嫌がらせがあった」と主張する柳生さんに対し、新居浜市役所担当者は「地域の人たちは(嫌がらせを)していないと言っている」と意見は食い違う。

◆地域活性化を目指すために必要なこととは

 柳生さんの投稿した動画から別子山にネガティブなイメージを持った人も少なからずいるだろう。そのことについて市担当者は「非常に残念」としながらも、「個人的には別子山が自分たちだけではなかなか活性化できないと思っているので、協力隊のような人たちが村に入ってもらうことを望んでいます」というのが本心のようだ。

「一部の住民は私のことをただの“お手伝い”としか思っていなかった。地域おこし協力隊と役場と地域住民の三者が同じ意思で動かないと、共に地域活性化を目指すのは難しい。その場所に長く住んでいる人ほど、理念や価値観を変えたくない方も多いもの」と学んだ柳生さん。

 大川村では、妻が地域おこし協力隊として活動し、自身は引き続きYouTubeで同村の空き家改修の様子の発信や、地域から空き家調査の依頼を受けるなどして生計を立てている。年収は教員時代と同水準の400万円ほどだという。

◆「人はもう住んでいない」集落

 柳生さんに別れを告げ、住民が1人しかいないという同村の下切集落へ行ってみることにした。そこへ向かう道は草木が生い茂り、道路の体裁をとっていない。

 ようやく辿り着いた先には今にも山に呑み込まれそうな空き家があるだけ。集落の入り口へ案内してくれた男性曰く「人はもう住んでいない」らしい。住民票だけ残している状態で、実質は住民ゼロ。

 それでも「いつ潰れてもおかしくない村だからこそ、地域外の人を柔軟に受け入れる重要性を地域の人も理解してくれている」(柳生さん)というように希望はある。大川村は高齢者のためのサービスとして、ボランティアの運営で行う無料の医療通院支援や、公共交通利用が困難な人々に向けた福祉タクシーなども実施。

◆“移住者も地域の高齢者も共存する村”へ

 移住者も地域の高齢者も共存する村を目指す。「最も大事なのはそこに住む村民の暮らし」と大川村役場・担当者は語る。

「田舎を盛り上げたい」とIターンした柳生さんや、「妻の介護と家業を引き継ぐため」Uターンした吉川さん。彼らのような人がいる限り、集落は意外となくならない。

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

―[[限界集落が消えない]理由]―

2023/11/20 8:54

この記事のみんなのコメント

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  • トリトンさん、“里山”っていうのかな?なんだか心が洗われますね。ただ、正直言って住みたいとは思いません。やはり、ワタシも俗にまみれたひとりなんです。心が洗われるのも、普段街中にいるからだと思います。自分は住みたいと思わないくせに、そうした里山を守りたいって…矛盾してますよね。

  • 自分も子供の頃限界集落がさかわからないが山々に囲まれ川もありそして隣の家までかなり離れていて風呂も薪ご飯もかまどそして車で品物を売りに来てましたね。たまに今でも夢に見ますね。小さな山なら山頂に登れるほどの山(山と言っていいのな?)川にはサンショウウオとかいましたね。何しろシャンプーやリンス持っていったらとても喜んでたしその村であった人はそれぞれの家で5人しか居ないしねまあ今なら無くなってるかも

  • だいぶ前だけど、私の地元の過疎化集落で、最後の住人だったお婆さんの入院(終の棲家を病院にし、住所も移動した)を、役場の職員とともに見届けたことがありますが…なんだか淋しかった記憶がありますね。私には、過疎化を止める妙案なんかありません。かといって、見世物的に観光客を呼ぶだけでは人口は増えないと思います。ムリが押し通るのなら…企業誘致ですかね?それも、商業施設を中心にです。まあ、ムリがありますよね。

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