歌舞伎町のホテルから飛び降りた16歳の“トー横キッズ”。亡くなる直前に語った「壮絶な過去」と「大人への絶望」
新宿歌舞伎町にあるTOHOシネマズ(新宿東宝ビル)の周辺地区を指す「トー横」。2019年頃からその界隈に家出した少年少女たちが集まり、好奇の目を向けられるようになった。
「トー横キッズ」と呼ばれ、ケンカや売買春、違法薬物使用などが大きな社会問題となってきたまだ10代の彼、彼女たちはなぜそこに集まるのだろうか? 元風俗嬢、元看護士の肩書を持つエッセイストでライターのyuzuka(@yuzuka_tecpizza)がそんなトー横キッズたちの素顔を取材する(以下、yuzuka寄稿)。
◆「トー横キッズ」の高校1年生との出会い
また、守りたかった誰かが自らの命を断ってしまった。Sちゃん、ピンクとマイメロディが好き。夢は普通に幸せになること。彼女は「トー横キッズ」と呼ばれる、16歳の高校1年生だった。TikTokで「バズってしまった」と話していたっけ。トー横キッズに取材しようと決めて最初にアポをとった少女。私の取材は、2023年8月上旬のSちゃんとの出会いから始まった。
ピンク色の髪の毛にフリフリの洋服を身につけ、マイメロディのバックを大事そうに抱えている。最初の取材の待ち合わせ場所に現れたSちゃんは、可愛らしい顔立ちに似合うとても優しい声をしていた。待ち合わせ時間ぴったりに現れたその少女は、「地雷系ファッション」と呼ばれる見た目とは裏腹に、ゆっくりと丁寧に、言葉を選びながら話す女の子だった。
◆「お兄ちゃんに性暴力を受けて」
彼女もまた、トー横キッズだ。何年も前から、あの場所に通っている。オーバドーズ(OD)をして救急搬送されたところを盗撮され、ネットのおもちゃにされたこともあった。「めっちゃ叩かれて、学校とか児相にもバレちゃったんですよね」と笑う彼女の目は、やけに優しい。そしてその目は、彼女がのちに「お兄ちゃんに性暴力を受けて」と話す時の目と同じだった。16歳の、高校生。
「勉強もできないし、友達ができないから」
高校へは、行ったり行かなかったり。通っていた定時制高校は髪型もメイクも自由だったけれど、Sちゃんはどうしても馴染めなかった。
「なんか違うって思っちゃうんですよね」
そんな時、ネットでホストと知り合った。彼に会いに歌舞伎町へ来て、そのまま体の関係になり、彼の名前を手に掘った。
◆みんな、家や学校に居場所がなかった
「だからと言って向こうは本気で好きとかじゃなかったと思う。未成年だから客にもできないし」
「当時、Sちゃんは何歳?」
「小学生か、中学あがりたて。14歳くらい」
14歳、関係を持ったホストは、20代後半で「彼氏」ではなかった。自分には本当の居場所がない、そんな風に感じながらたまたま歌舞伎町を歩いていると、トー横キッズに声をかけられた。
「もともとそういう界隈があるのは知ってて。プラプラしてたら元気な子たちに『何歳ー?』って声をかけられて」
話を聞けば、そこにいる子どもたちはみんな、家や学校に居場所のない子供たちだった。
◆中2で歌舞伎町に本格的に家出
「私も同じだって思ったんです。それで、通うようになりました。みんな同じだから、抱えていたものを素直に話せたっていうか」
家庭にも学校にも居場所がなかったSちゃんにとってトー横は、自分を曝け出せる初めての居場所になった。
「お母さんはシングルマザーで。だから働くじゃないですか。家にいないか、家に彼氏を連れてくるか。それで、小学生の頃くらいから、お母さんのいないときに2個上のお兄ちゃんから暴力とか、性暴力とかがあって……そういうのもあって、中2くらいのときに歌舞伎町に本格的に家出しました」
Sちゃんは話の中で、「初体験はお兄ちゃんだった」と力なく笑った。兄の性暴力から逃れようとして、トー横で過ごす時間が増えた。そこに行けば、同じように居場所を求める仲間がいて、安心したのだ。トー横が居場所としての比重が重くなれば、当然持っているお金が底をつきる。
◆身分証がなく、未成年で売春を…
Sちゃんは、流れるように援助交際に手を出した。その頃、Sちゃんは中学生。お金が尽きても未成年で身分証がなく、雇ってくれる店はない。稼げる手段が、それ以外に思いつかなかったのだ。自然と仲の良い者同士で集まり、一緒に大久保公園で春を売るようになった。
「ツイッターで相手を探したり、あとは歌舞伎町に立ってると、たちんぼをしているつもりじゃなくても、おじさんたちが声をかけてくるんです。やってる子は多い。みんな未成年です」
トイレは近くのゲームセンターですませ、身分証が必要ない漫画喫茶でたまにシャワーを浴びる。コンビニでご飯を買って、みんなで分け合って食べた。野宿をすることもあったが、宿泊客が野放しにされていると有名なビジネスホテルに割り勘で部屋を取り、肩を寄せ合って眠ることもあった。
驚くのは、歌舞伎町のある意味での立地の良さだ。トー横と呼ばれる広場から体を売るための大久保公園、潜り込みができるビジネスホテル、身分証がなくても入れる漫画喫茶……と、全てが徒歩圏内の小さな世界に凝縮されている。実際に彼女たちが過ごす道を歩くと、欲望が渦巻くその場所に妙な利便性を感じ、ますます異様に思えた。
◆市販薬を使ってフワフワとした気分に
Sちゃんはそんな場所で過ごすうちに、市販薬のODを繰り返すようになる。
「私が飲む薬はけっこう記憶とかとんじゃうんですけど、やなこととか思い出すと鬱になっっちゃうから、その気持ちをとばすためにやるんです。薬を飲むと全部忘れて楽しくなれたりする。お酒よりも手っ取り早くてすぐに手に入るし、お金もかからないODのほうが好き」
市販薬を使ってフワフワとした気分になることを「パキる」と表現し、仲間同士で薬を分け合っては過剰摂取し、嫌なことを忘れようとした。
――鬱とか、そういう子は多い?
「多いと思う。虐待を受けたりしている子も多いから」
――病院に行ったりはしないのかな。
「精神科にいってる子は、あんまりいない。“そっち”の薬にたよりたくない、抵抗がある」
――違法薬物をしてる子はいないの?
「噂で聞くことはある。男の子は大麻とかやってる子が多くて、女の子によっては男の子と一緒に泊ったりするときに誘われてやったりしてると聞いたことがある。私はやらない。市販薬が好き」
◆児童相談所は「地獄。嫌になる」
彼女にODをする理由を尋ねると、「シラフでいるときっかけがなくても落ちこむ。昔のフラッシュバックとかで……」と力なく笑った。実際、ネットでは「パキッた」状態のトー横キッズたちの姿が多く拡散されている。呂律がまわらなかったり、暴言を吐いたり、床にへたりこんだり。彼女たちを面白おかしく「ネタ」として消費する人たちは、ただ「クソガキ」と笑って、蔑んだ。
Sちゃん自身、このままでは駄目だと、なんとなく理解していたという。だから彼女は、「お酒や薬が良くないことは知っている」と話す。だけど辞められないのだ。それ以外に心を鈍らせる方法が見つからなかった。
学校にも、いつのまにか通えなくなる。兄の暴力は収まらず、助けてくれるはずの母親はそれを打ち明けたSちゃんに暴言を吐き、ある日“彼氏”と一緒に家を出ていった。Sちゃんはその直後にトー横で補導され、児童相談所に保護されることになる。周りの大人に兄のことを訴えたが、「証拠がないから」と取り合ってもらえなかった。結局2年間、児童相談所で過ごしたのち、「親のもとには帰せない」と判断され、最終的には親戚の家で暮らすことになった。
「家の人には遠慮してるし、家に居場所があるわけじゃない。家族ってわけじゃないから。だけど変なことをするとまた児相に送られるから、門限は守ってる」
――児相は居心地が悪い?
「地獄。テレビとかもないし、毎日ラジオ体操とかもやらされる。嫌になる」
◆ボランティア団体って…
Sちゃんは「もう児相には戻りたくない」と話す。だから今は補導を避けるため、前のようにホテルに泊まったりしない。夜中には出歩かず、門限の前に電車で家へ帰る。だけどやっぱり、トー横に通うことはやめていない。
「来ないで1人になると落ち込む。私はリアルにいる自分より、トー横にいる自分が好き。トー横の自分でありたい」
Sちゃんと話すうちに、私たち大人が彼女にできることはなんだろうと、答えが見えなくなる。彼女たちの居場所をただ取り上げて親元にかえすことだけが、「正義」だとは思えない。
――ボランティア団体の人たちとかって、助けになってる?
「うーん。子ども食堂とかは行くけど、ネットに無断で顔をあげたりされるのがいやだ」
――許可なく載せられるってこと?
「そう。TikTokとかに。親が子供を見つけられるように発信してるんだって言われるけど、正直怖い。私みたいに虐待されてる子も多いし、親に居場所を知られたくない子もたくさんいるから本当は辞めてほしい」
――そうか。嫌だって直接言ってみた?
「ううん、言えない。だけど私たちの動画を勝手に撮って載せてバズって、自分たちがいちばんお金儲けのネタにしてるじゃんって思ってしまう」
◆トー横は居場所「なくなってほしくない」
Sちゃんはそうやって大人は信用できないと話す一方、「もっと話を聞いてほしい」とも話した。
「補導とかも大切なことだけど、どちらかというと無理やり帰らせるとかじゃなくて寄り添ってほしい。大人は理解がないと感じてしまう。トー横には、ただ遊びに来てるわけじゃない子も多いから」
私たちは彼女たちのことをどれだけ本気で考えているだろう。トー横をなくせば、彼女たちを深夜の街から追い出せば、その先に彼女たちは、本当に救われるのだろうか。
――トー横って、Sちゃんにとってどんな場所なの?
「正直最近はネットとかメディアの影響で、軽い気持ちで遊びにやってくる子たちも増えた。だけど昔からいる子たちにとってあの場所は、何か事情があるこたちがそれをお互いに話して肩を寄せ合って現実逃避できる場所。なくなってほしくない」
インタビューの最後、Sちゃんは「16歳になったから、ドンキホーテに面接に行ったんです」と笑った。「履歴書も書いた。これで普通の仕事ができる」という彼女は、本当に嬉しそうだった。
「今、彼氏がいて。早くその人と一緒に、普通に幸せになりたい」
◆「大丈夫」と笑っていた彼女
彼女はその時、確かに、未来を見ていた。見送ってすぐ、LINEを交換しながら、彼女のためにできることを、考えていた。
「もっと話を聞きたいから、今度かわいいカフェに行こうよ」
私の誘いに彼女が了解し、ふたりでカフェを探している数週間。時々薬で荒ぶった言動をとる彼女が心配で電話をするたび、彼女は「大丈夫」と笑い、そして私はその「大丈夫」を信じていた。彼女のツイッターアカウントから彼氏の文字が消えた時も、彼女は「大丈夫」と話した。ドンキホーテの面接に落ちたという連絡が来たけど、その時も「大丈夫」だと話した。「児相の人たちと話して、やっぱりあいつら最悪だった」と憤慨したLINEが来た時も、最後には「だけど大丈夫」と話した。
◆歌舞伎町のホテルから飛び降りた彼女
何度目かの「大丈夫」のあと、彼女が何も言わずに歌舞伎町のホテルから飛び降りてしまったことを知るまで、そう時間はかからなかった。彼女が亡くなったその日の午前中、彼女が「パキって」ふらふらになりながら、笑って転げ回る動画を見た。「最高」と笑う彼女がどうしてその数時間後に飛び降りたのか、いつも一緒にいる仲間たちは、誰も知らなかった。
話を聞いたSちゃんの友達は、彼女が自殺したと聞いた時、「本当に良かった」と泣いたのだと話した。「やっと楽になれてよかった」と思ったのだそうだ。
結局、彼女が亡くなったことは、1日も経たない間に話題にものぼらなくなる。お互いを親友だとTwitter(X)プロフィールに載せあっていた女の子のプロフィールからは、あっけなくSちゃんの名前が消えた。取材の中で、話を聞いた男の子がいった。「珍しいことじゃないから大丈夫」と。Sちゃんが生前、「唯一心を許せた」と話したトー横。その場所の日常がこれなのだとしたら、やっぱり私は、猛烈に虚しい。
トー横キッズ。人々は、彼女達が危険に晒される現状を「自業自得」だと笑う。自業自得、果たしてそうだろうか。頼れるはずの大人たちに何度も絶望し、「大丈夫」と笑うしかなかったSちゃん。私たちにできることは何なのか、この取材を通して向き合いたい。いつか彼女たちの言う「大丈夫」が、本物になるように。
<TEXT/yuzuka>
【yuzuka】
エッセイスト。精神科・美容外科の元看護師でもある。著書に『埋まらないよ、そんな男じゃ。モノクロな世界は「誰かのための人生」を終わらせることで動きだす。』『君なら、越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も』など。動画チャンネル「恋ドク」のプロデュース&脚本を手がけた。Twitter:@yuzuka_tecpizza
トリトン(♂)
9/23 12:26
そんな集まりを政府か自治区は放置してたのか?もう家庭関係今の字だめちゃくちゃやな近親相姦どこかの国血統だよなその混ざった血の家庭かな?実の妹犯す?犬でもやらんわ鬼畜以下やな。
とも(さっさと憲法改正しなきゃね~遅すぎ!!)
9/23 12:09
人権警察官に門前払いされ、性的虐待や児童相談所にボランティア団体から逃れてきた場所が、トー横…!