「温暖化でサンゴが絶滅」は“ウソ”だと言える衝撃の理由

「ネオダーウィニズム」という学説がある。「ある生物の遺伝子に突然変異が起こり、環境により適応的な変異個体が自然選択によって集団内に広がり、その繰り返しで生物は環境に適応するように進化する」という理論だが、「完璧に正しい理論ではない」とはメディアでおなじみの生物学者・池田清彦氏。

 池田氏が上梓した新刊『驚きの「リアル進化論」』(扶桑社刊)では、最新の知見にもとづいた「もっと本質的な進化論=リアル進化論」をわかりやすく解説している。

 例えば「4本足の陸上動物だったクジラが海での生活に適応できた理由」とは?同書の中から、ネオダーウィニズムの矛盾がわかる箇所を一部抜粋してお届けする。

◆生物は「自ら積極的に移動していく」?!

 棲んでいる場所の気候が寒冷化した場合、寒冷化に適応的な変異を起こしたものはその場にとどまって生き延び、変異を起こさなかったり、逆に寒冷化に不適応な変異を起こしたりしたものは淘汰されて死に絶え、その場所の生物は徐々に寒冷化に適応的なものに変化する──。

 これが従来のネオダーウィニズムの理論です。

 けれどもそれが自分で動ける動物ならば、寒冷化に不適応的な変異を起こしたものが、暖かいところに自ら積極的に移動していく、というのは十分に起こり得ることです。

「移動した」という事実を知らないまま事後的にこの場所の生物を観察すれば、「温暖化に適応的な形質に徐々に進化した」かのように見えるでしょうが、本当はその生物自身が棲むのにふさわしい場所に自らやってきていた、というケースのほうがむしろ多いのだと私は思います。

◆クジラが海で生活するようになった意外な理由

 例えば、5000万年くらい前までは4本の脚をもつ陸上動物だったクジラが、なぜ海での生活に適応的な形質に変わっていったのか、という質問に対し、ネオダーウィニズムの理屈で答えようとすれば、「棲んでいた陸地が海になってしまったので、突然変異と自然淘汰によって徐々に海での生活に適応的な形質に変わっていった」という説明になりかねません。

 ある科学館のホームページに以下のような「クジラの足のお話」が掲載されていました。

 今から6000万年から5000万年も前の大むかし、クジラのご先祖様は、陸を歩いていました。それから水の中の暮らしになれるために、体の形や器官がいろいろと変わっていったのです。

 まず、水の抵抗を少なくするために、体の形がスマートになりました。前足はひれ状になり、尾は発達して先が尾びれに変化しました。尾びれが発達してくると、使わない後ろ足がじゃまになってきます。

 とてもわかりやすく書かれていたので、あえて引用させていただきましたが、もちろんこれは、この科学館独自の考えというわけではなく、世の中で広く知られている「常識」です。きっと教科書にも同じようなことが書かれているでしょう。

 でも、よく考えてみてください。「水の中の暮らしになれるために、体の形や器官がいろいろと変わっていった」なんて簡単に言いますが、突然変異というのは偶然起きるものであって、意図的に起こせるものではありません。

 つい最近になって、使われなくなった器官は世代を追うごとに徐々に退化するのではないか、すなわち「用不用説」の「不用説」に関しては正しいのではないかとする論文が出ているのですが、少なくとも体の形をスマートにしたいなあと願うだけでスマートになれたり、ここが邪魔だなあと思ったらいつの間にか消えていた、なんてことは普通に考えればあり得ないのです。

◆生物は形質に適した環境を探して生きていく

 ネオダーウィニズムの考えでは、一度の遺伝子の突然変異だけでいきなり水中の環境に適応できるわけではなく、繰り返し突然変異が起きて、徐々に徐々に進化するわけですから、環境にうまく適応する体になるまでには相当の年月を要するはずです。

 ちゃんとした脚があるうちは陸地で生きるほうが明らかにラクなのですから、水中にとどまって徐々に適応的な変異が起こるのを待つより、とにかく陸地を探して生きやすい場所に早く戻ろうとするのが、動物の本能ではないかと私は思います。

 植物の場合は基本的には自ら動くことができませんが、種子を広い範囲に飛ばすことができますし、珊瑚のように海中を漂っている生物(刺胞動物)なら、生息場所を変えることは可能でしょう。

 現在、珊瑚の生息場所は千葉県とか神奈川県より南だと言われていますが、珊瑚の化石は宮城県あたりまで見られます。つまり珊瑚は、かつてはそのあたりに生息していたものの地球がどんどん寒くなって棲みづらくなり、その後、南のほうに撤退していったということなのでしょう。

 このまま温暖化が進んでしまうと暑さに耐えられずに珊瑚が滅んでしまうなどと過剰に心配する人がいますが、暑いとなればまた、北のほうに移動していって、自分がいちばん生きやすいところに群落を構えるはずです。

 間違っても暑さに耐えながらその場に居座り、そのまま滅んでいく、なんてバカなことをするはずがありません。

 そもそもの話、「偶然起きた突然変異のうち、その環境に適応的なものが生き延びて、適応できなかったものが滅んでいく」というよりも、「さまざまな突然変異が起こり、その場に適応的なものはそこで生き残り、不適応なものはより生活しやすい場所に移動していった」と考えるほうが現実的ではありませんか?

 このシナリオのほうが生物の多様性を説明する理屈としても合理的です。

◆池田清彦氏が提唱する「能動的適応」とは

 クジラの進化に関しては、

1、突然変異によって、たまたま脚の短い個体が生まれた

2、陸にいると短い脚のせいで敵から逃げられず命の危険にさらされることが多くなった

3、仕方なく浅瀬に逃げ込むことを覚えた

4、代を重ねるうちに脚はより短くなって、ついにはなくなり、浅瀬でも生きづらくなって、大海原に泳ぎ出した

 きっとこういう経緯があったに違いありません。もちろん大海原に泳ぎ出す以降の話なら、大きいほうが有利なので、徐々に適応的になっていった(体が大きくなった)という話で十分説明はできますが、脚の生えてるクジラは海の中で生きていくのは困難なわけですから、適応とか不適応を論じる以前の問題なのです。

 私はこれを「能動的適応」と呼んでいますが、この例に限らず、生物というのは本来的に、「形質が先に変化して、その形質に適した環境を探して生きていく」ものなのだと思います。

〈池田清彦 構成/日刊SPA!編集部〉

2023/9/22 8:51

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