欧州5年目で初の欧州CL参戦 久保建英はもう一段階上のステージに飛躍できるか
9月の日本代表シリーズでは、ドイツ戦の終盤16分間とトルコ戦の90分間に出場し、3つのアシストを記録した久保建英。
FIFAワールドカップカタール2022以来のドイツとの再戦前には「コンディションは僕史上最高。カタールの時はワールドカップだったのでああいう形になりましたけど、さすがに親善試合では厳しい。ビビッて引いてしまうとかは避けて、自分たちのプラン通りに進められればいい」と語気を強めていたが、まさかのベンチスタートとなった。カタールでのドイツ戦も左サイドハーフの位置でスタメンの座を勝ち取っていただけに、本人は不完全燃焼感でいっぱいだったに違いない。
悔しさを糧に挑んだトルコ戦ではトップ下でフル稼働。ボールを数多く触ってリズムを作り、中村敬斗の2点目の場面では強引な左足シュートをお見舞い。GKが弾いたところに中村が詰めて得点につながった。それ以外でも、久保は多彩なアイデアと創造性、高度なテクニックを駆使して数々の攻撃チャンスを演出。同じトップ下の鎌田大地とは異なる働きを印象付けた。守備の強度という部分では多少見劣りする部分もあったが、第2次森保ジャパンの重要なピースであることを強烈にアピールしたと見ていいだろう。
とはいえ、本人はレアル・ソシエダで主戦場としている右サイドで積極起用してもらえない現状に、多少なりともフラストレーションを抱えている様子だ。
トルコ戦前には「『ちゃんと自分が一番やりたいポジションで使ってもらえたら、あのくらいできるよ』というのは前から思っていました。でも結局ワールドカップでもいろいろあって左で出たりした。だけどやっと本来の力を出させてもらえる環境ができつつあるのかなと。やっぱり右ウイングが僕のファーストチョイス。そこが一番力を発揮できるところ」と右サイドでのスタメン出場を切望していたが、ふたを開けてみれば、右は堂安律で久保はトップ下だった。
もちろん堂安とはポジションを入れ替えながら臨機応変にはプレーできるものの、どこかしっくりいかない部分も拭いきれないはず。伊東純也という存在が日本代表における久保の起用法を流動的にしているのは確かだが、タイプの異なる伊東とサバイバルを強いられるのは、彼にとってあまり芳しい状況とは言えないようだ。
混とんとした状態の代表とは異なり、レアル・ソシエダの久保は水を得た魚のように躍動している。代表ウイーク直後の17日のレアル・マドリード戦でも開始5分のアンデル・バレネチェアの先制点を巧みにお膳立てし、11分には右サイドのカットインからトニ・クロースをかわして強烈な左足ミドルシュートを叩き込んだ。代表2連戦でゴールを奪えなかったこともあるのか、本人はド派手なガッツポーズを披露。だが、シュートコース上にいたミケル・オヤルサバルがオフサイドを取られ、スーパーゴールは幻となってしまった。
惜しい得点シーン以外でも、特に前半の久保はほとんどのチャンスシーンに絡むキレと鋭さを見せていた。結果的にレアル・ソシエダはレアル・マドリードに後半2点を奪われ、逆転負けしてしまったものの、フル稼働した久保は高評価を受けてしかるべき。「今のコンディションは僕史上最高」という言葉が真実であることを、スペインでの彼はしっかりと示し続けているのである。
そういう時期だからこそ、より重要になるのが20日からスタートするチャンピオンズリーグ。レアル・ソシエダはまずホームでインテルと初戦を戦い、10月にはザルツブルク、ベンフィカとのアウェー戦が待っている。ビジャレアル時代の2020-21シーズン前半戦、あるいは昨シーズンのレアル・ソシエダでヨーロッパリーグは経験しているものの、欧州最高峰リーグへの参戦は今回が初だ。
「日本人の22(歳)で、自分の力でチャンピオンズリーグに出られる選手は、今のところ一握り。それは日本代表という観点から見てもすごくいいこと」と本人も前向きにコメントしていたが、このビッグトーナメントを経験して変貌を遂げる選手は少なくない。彼も落ち着きと冷静さ、周りを見る視野の広さ、プレー選択の多彩さなどを身につけ、よりプレーヤーとしての幅を広げることができるはず。そうなれば、代表での序列も上がり、ピッチに立つ時間ももっと増えていくと見られる。
そして最終的には「快足ウイングの伊東も素晴らしいが、久保の方がよりスタメンに相応しい」という評価を受けられるように仕向けるべきだ。2021年時点でいったん代表落ちした鎌田大地がフランクフルトでのヨーロッパリーグ制覇によって位置づけがガラリと変わったように、久保もチャンピオンズリーグの結果次第で代表での存在価値もさらに変化するだろう。それも視野に入れつつ、ここからより堂々と戦ってほしい。
いずれにしても、チャンピオンズリーグは彼自身の価値を一段階、二段階、引き上げてくれる大舞台なのは間違いない。ここでインテル、ザルツブルク、ベンフィカ相手に何ができるのか。今こそ、久保建英という22歳のアタッカーの真価を世界中に見せつけてほしいものである。
取材・文=元川悦子