罪もないクルド人の子供を追い出すほど、日本は度量が狭い国なのか/入管法改正

今まさに、入管法(出入国管理及び難民認定法)改正案がどうなるのか緊張が高まっている。5月9日に衆院本会議で可決され、6月8日に参院法務委員会で採決、9日に参院本会議で採決される見通しだ。

改正案が通れば、難民申請が3回目になると送還の対象となり、送還を拒否すれば刑事罰を課されてしまう。仮放免(※)者の動向を逐一チェックし入管に報告しなければならない「監理人制度」も設けられる。報告を怠れば監理人にも罰則が及ぶ。

難民として日本へ逃れてきた人々にとって、人道的とは言い難い、あまりにも厳しい法律になる。この改正案が通ったらいったい自分たちはどうなってしまうのか――当事者たちは恐怖に怯え、心の休まらない日々が続く。

※仮放免:入国管理局の施設に収容された後、一時的に収容を解かれた外国人。働くことを禁じられる、健康保険に入れないなど、過酷な状況に置かれる。

◆日本で生まれた子でさえ、送還の対象になる

大人たちの都合で変えられようとしている入管法に、なによりも苦しめられているのが難民の子供たちだ。

日本では、幼いころ日本に来た子、または日本で生まれた子にすら在留資格がない場合が多く、送還や刑事罰の対象になってしまうかもしれない。そこで立ち上がる決意をしたのがクルド難民の子供たちだった。

彼らにとって記憶のないトルコはすでに母国ではなく、日本でずっと生きていきたいと強く願っている。トルコ語はしゃべれるが読み書きができず、今さらやり直すことなどできないと語る子が多い。今まで出会ってきた人たちや、学校の友達と離れなければならないのは耐えがたい。帰国すれば親が迫害による危険にさらされたり、トルコの大地震により帰る場所がない子もいる。

子供たちは自分の未来のため、家族を守るために思い切って行動を起こした。

◆思い切って行動を起こした子供たち

4月24日には、参議院議員会館で院内集会にクルドの子供たち9名(小5~高2)が参加して、立憲、れいわ、社民、共産の女性議員7名と、たくさんのメディアの前で自分たちの想いを緊張しつつも訴えた。

中1の男の子は、「2歳の時に日本に来て、ずっと家族みんな半年の特定活動ビザがあったのに、9年目に難民申請が駄目だったとビザを失った。入管職員に、なぜなんだ?と文句を言ったら『クソガキ』と馬鹿にされた」

他の中1の男の子は、

「保険証がないから病院に行かないように気を付けてとお父さんに言われていたけど、熱を出してしまって…」

と申し訳なさそうにしていた。

高2の女の子は、

「成績は上位で、良い大学を目指したいし、先生にも認められている。それなのに今、法律を変えられるのはとても受け入れられない。トルコに帰ればゼロからやり直すどころかマイナスになってしまう」

と心境を語ってくれた。

◆「日本が大好きで、日本の役に立ちたいです」

翌4月25日には。100人ほどのクルドの子供たちが国会前に集結し、入管法改正案に反対を訴えた。代わる代わるマイクでスピーチをし、みんな将来の夢を語った。

日本生まれでずっと仮放免だという中学生の女の子は、

「私は弁護士になりたい。日本に住んでいるクルド人と日本人を助けたいからです。クルド人でも弁護士になれると証明したいからです。日本で勉強を続けて日本の役に立ちたいです。私はトルコを知りません。なぜなら日本生まれだからです。私は日本が大好きで日本にいたいです。クルド人の頑張りを認めてください」

そして子供たちは、国会の前に小学校の黄色い帽子を次々と置き始めた。これは「私たちも学校に通っている」というアピールだったそうだ。

その後、入管法改正案は衆院を通過。子供たちはさらに何かやらないといけない、と考えた。集まって横断幕づくりをした。真ん中に大きな字で自分たちが考えた言葉「ここにいさせて」と力強く書いて、その周りに想い想いのメッセージを書き込んだ。

◆突然「国に帰ってください」と言われても…

5月22日、ついに7名(小6~高3)の子供たちは国会対策ヒアリングに参加することになった。平日の昼間なので学校を休んでくる子もいた。「悪い法律が通ったら、学校どころじゃなくなるから」と言っていた。

立憲、沖縄の風、社民、共産党の野党議員が14名参加し、これが最後のチャンスかもしれないと緊張しつつも子供たちは一生懸命、伝えたいことを喋った。

高3の子は、

「物心ついた時から日本にいて半年の(特定活動)ビザがあったのに、高校生になったら入管に呼び出され家族全員ビザを取られ、『国に帰ってください』と言われた。急に言われてもまったく理解ができなかった」

やはり昨年、入管により(特定活動)家族全員、ビザを失ったという中2の子は、

「2歳の妹も仮放免になってしまった。妹が39度の熱をだしても保険証がないから病院に連れていくことができなかった。それがとてもかわいそうで辛かった」

など心が痛くなる体験を語ってくれた。

◆罪のない子を追い詰めるほど、度量の狭い国なのか

本来なら遊び盛りの子供たちが、なぜここまで頑張らなければいけないのだろうか。ビザがないこと、健康保険証がないこと、未来がないことなどでストレスを感じずにのびのびと育ってほしい。

この日本は、罪のない子供たちを幸せにすることもできないほど、度量の狭い国なのだろうか。家族バラバラになることなく日本で暮らしていきたい、そんな当たり前の、ささやかな願いをどうか叶えてやってほしい。

多くの国会議員に話を聞いてもらえて、国対ヒアリングに参加したことは、みんなとても嬉しそうだった。「自分が誇らしく感じた」と言ってくれた子もいた。

もし入管法が廃案になったら、子供たちに「よく頑張ったね、君たちの力だよ」と言ってあげたい。

<取材・文・撮影/織田朝日>

【織田朝日】

おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)

2023/6/7 20:25

この記事のみんなのコメント

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  • はっきり言って自分のことすらままならないので肩は持てない。全体的に物価が上がり税金すら上がる昨今では通る法案ではないな😑一番の問題は社会の表で居れればいいのだが闇に消えたらどこでも同じ。どう保てるか考えなければならないだろな?

  • 立憲民主党が反対しているからなあ。対案を出すべきだろうよ。

  • 難しい問題だとは思いますよ。トリトンさんのおっしゃるような特別扱いがあるなら…日本人と同じように健康保険料や各種税金等の義務を課せば、在留を認めるのですか?どのくらいの数かはわかりませんが、受け入れすぎは日本自体が破綻するかもしれません。普段ワタシはグローバルな国であることを叫んでいますが、それも国があってこそかと思います。トリトンさんの考え方は逆にとても平等かと思いますがね。

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