アーセナル期待の若手がフランスで覚醒中! 伊東純也の同僚FWバログンとは何者か?
アーセナルからフランスのスタッド・ランスに期限付き移籍中のU-21イングランド代表FWフォラリン・バログンが覚醒している。今季リーグアンで19試合に出場して11ゴールをマーク。今月29日には、首位パリ・サンジェルマンを相手に終了間際に同点ゴールを決めて注目を集めている。
では、バログンとは一体どんな選手なのか? 少し深掘りしてみよう。
■生い立ち
2001年7月3日、バログンはナイジェリア人両親の元、アメリカのニューヨークで産声を上げた。その後、彼が2歳の時に家族で渡英。そのためバログンはロンドン育ちだ。子供の頃は地元のクラブでプレーしていたが、すぐにビッグクラブの目に留まり、2012年に8歳にしてアーセナルの下部組織に入団した。
生粋のアーセナルファンだというが、危うく宿敵トッテナムに入団する可能性もあった。バログンは過去にアーセナルの公式HPで、こんなことを語っている。「僕は10歳くらいからアーセナルに所属しており、常にアーセナルをサポートしてきたけど、スパーズに入りかけたことがあるんだ」
子供の頃、バログンはロンドン東部にあるオルダーズブルックという地元クラブに所属しており、ある大会に出場して優勝したという。そして、その大会を見に来ていたアーセナルのスカウトの目に留まってトライアルに招待されたのだが、その前にスパーズからも声をかけられており、既に白いチームのトライアルに参加していたそうだ。
当時についてバログン本人はこう振り返っている。「アーセナルで6週間のトライアルに参加したけど、その間もスパーズと連絡を取っていた。万が一、アーセナルに入団できなかったことを考えてね。幸い、アーセナルが入団を認めてくれたから、それ以来、ずっとアーセナルにいるんだ」
イングランド育ちのバログンはU-21イングランド代表でも活躍しているが、過去にはU-18アメリカ代表の試合に出たことも。さらにナイジェリア代表を選ぶ資格も持っている。ちなみに彼のファーストネームは「Folarin(フォラリン)」だがチームメイトからは「Flo(フロー)」の愛称で呼ばれている。
■ユースチームでの活躍
アーセナルの下部組織でストライカーの才能を発揮し始めたバログンは、現在トップチームで活躍するFWブカヨ・サカやMFエミール・スミス・ロウと共にU-18チームでゴールを量産する。2017-18シーズンに14試合9ゴール。そして18-19シーズンには19試合25ゴールという驚異的な数字を残してチームを同世代のリーグ戦で優勝に導くのだった。
着実に成長を遂げたバログンは、18歳となった19-20シーズンにU-23チームで15試合に出場して10ゴールをマーク。そして2019年の夏にチャンスを物にする。毎年恒例となっているバーネットとの練習試合で、若手主体のチームの一員として出場したバログンは、わずか6分間でハットトリックを達成したのだ。これには地元メディア『フットボール・ロンドン』も「素晴らしいパフォーマンスで、わずか6分間でハットトリック完了。アーセナルには若い才能が大量発生している」と絶賛して「9」という高い採点を付けた。
トップチームで初めてベンチ入りしたのもこのシーズンだ。出場機会はなかったが、2019年のリーグカップ3回戦で初めてトップチームを経験した。
■憧れとプレースタイル
バログンは切れ味の鋭い点取り屋だ。DFラインとの駆け引きを楽しみ、一瞬の加速で裏に抜け出すと、トップスピードに乗ったままゴールネットを揺らす。“アーセナル流”で育てられた選手なので巧さもあるが、最大の長所はやはり裏のスペースへ抜け出す動きだ。
どこかで聞き覚えのある特徴だ。そう、彼はアーセナルで売り出し中のFWエディ・エンケティアと同系統のストライカーなのだ。アーセナルの下部組織出身で現在ファーストチームに所属するFWリース・ネルソンも、過去にバログンを「若いエンケティア」と評している。
バログン本人も「自分の強みは動き出しとフィニッシュ」と語っている。裏のスペースへの抜け出しはウルグアイ代表FWエディンソン・カバーニ(バレンシア)を、シュート技術に関してはポーランド代表FWロベルト・レヴァンドフスキ(バルセロナ)を参考にしたそうだ。
もちろん、身近なところにも参考になるプレーヤーがいた。2018年から2022年にかけてアーセナルに所属していたFWピエール・エメリク・オーバメヤンである。「僕は敵の背後を取るので、オーバメヤンに似ているかもね。ファーストチームの練習に参加させて貰い、とてもためになった」とバログン本人は明かしたことがある。
そんなバログンについてオーバメヤンも「とても才能があり、ファーストチームと一緒にプレーしても常に実力を発揮している」と認めていた。さらにバログンの普段の格好も気に入ったようで「彼はアメリカのラッパーのようなスタイルで、クールなんだ」と絶賛していたのだ。
■トップチームでも即座に結果を残すが…
トップチームデビューは2020年10月29日。19歳のバログンはヨーロッパリーグ(EL)のダンドーク戦で途中出場を果たしてデビューを飾った。するとキャリア2戦目の出場となった1カ月後の試合でいきなり結果を残す。ELのモルデ戦で82分に投入されると、ピッチに立ってわずか37秒でネットを揺らしたのだ。プロキャリアの初シュートでゴールを決めたのである。
「何年もの努力が実り始めた」と喜んだバログンだが、当時は移籍の噂が尽きなかった。アーセナルのユースチームで結果を残していたものの、トップチームで出番が限られていたのである。モルデ戦に続き、ELグループステージの最終戦でもネットを揺らしたが、彼の出番はEL数試合とリーグカップの1試合だけに留まった。さらに契約が2021年夏に満了を迎えるため、一時は退団濃厚とも報じられた。現にブレントフォードやシェフィールド・Uからオファーが届いていたというが、バログンは2021年4月に4年契約を結び直してミケル・アルテタ監督を安心させた。
そして、2021-22シーズンの開幕戦でプレミアリーグデビューを果たすことに。新型コロナウイルスの影響でFWオーバメヤンやFWアレクサンドル・ラカゼットが不在のため先発起用されたバログンだったが、結果を出すことができずにチームも昇格組のブレントフォードに完敗。第2節にも途中出場したが、その後は出番がなく、シーズン後半はイングランド2部のミドルズブラに貸し出された。
■フランスで覚醒
今シーズンもアーセナルで出番が限られることが分かっていたバログンは、日本代表FW伊東純也が所属するフランスのスタッド・ランスに期限付き移籍することになった。アルテタ監督に「大人の男になれ」と送り出されたバログンは「海外で生活してみて、監督の言葉が分かった気がする」と語るように成長を遂げていく。
フランス語のレッスンを受けて新天地に慣れる努力をしたバログンは、リーグ・アンの開幕戦で後半途中から出場すると、クロスに合わせてヘディングでデビュー戦ゴール。21歳の若武者は、そこから3試合連続ゴールを決めてエースの座に定着し、伊東純也と2トップを任されることも。その後もゴールを量産し続けると、10月のオセール戦ではDFラインの背後を突く得意の形から右足で冷静に流し込んで勝利に貢献した。
今年に入っても勢いが止まらない。今月21日のカップ戦でネットを揺らすと、29日のパリ・サンジェルマン戦で値千金の同点ゴールを決めたのだ。ブラジル代表FWネイマールに先制ゴールを許したスタッド・ランスだったが、終了間際にチャンスが舞い込む。後半追加タイム6分、味方がルーズボールを拾うと察知したバログンが走り出してDFラインの背後を取ったのだ。そしてトップスピードのままパスに追いつくと、飛び出してきたイタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマをかわして冷静にゴールに突き刺した。相手が退場者を出していたとはいえ、首位PSGから貴重な勝ち点1をもぎ取ったのである
これが今季リーグ戦の11ゴール目。4ゴールの伊東純也を抑えてチーム最多ゴールをマークし、リーグ・アンの得点ランクで6位につけている。『Transfermarkt』によると、バログンの市場価値は開幕前の400万ユーロから1400万ユーロまで高騰。アーセナルのブラジル代表FWガブリエウ・ジェズスがFIFAワールドカップカタール2022中に負傷して長期離脱が決まった際には、「バログンを呼び戻せ」とファンの間で“バログン待望論”が浮上したほどだ。
フランスに残るにしろ、アーセナルに戻るにしろ、さらなる活躍が期待されるバログンに今後も注目したい。
(記事/Footmedia)