だらしない体の夫を、男として見れない…。嫌気が差した妻が、ベッドの中でこっそりしていたコトは
「2人は、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
…本当に、そうでしょうか?
今宵、その先を語りましょう。
これは「めでたし、めでたし」から始まる、ほろ苦いラブ・ストーリー。
▶前回:同棲中にもかかわらず、深夜3時まで男と遊び呆ける26歳女。帰宅すると、暗いリビングで彼が…
Episode8:禁断のLINEグループに招待された人妻
「未久、結婚してください!」
そう言って啓太は、つぶらな瞳で私を見つめながら優しく微笑んでいる。
30歳のときに、友人主催の婚活パーティで出会った私たち。1年の交際を経て、今日ようやくプロポーズしてもらえたのだ。
「嬉しい…!これから、よろしくお願いします」
私は5歳の頃に、両親の離婚を経験している。原因は父親の借金だった。
その日から貧しい母子家庭で育つことになった私は「将来、絶対にお金持ちと結婚する」と決めていたのだ。
一方の啓太は、裕福な家庭のお坊ちゃまとして育ったらしい。今は、彼のお父さんが経営する大手建築会社の子会社を立ち上げ、大成功を収めている。
― そんな彼と結婚できるなんて、幸せすぎる…!
啓太の顔は決してタイプではなかったけれど、私は大きな夢が叶ったことで幸福感に満ち溢れていた。
そして私たちは、結婚を機に彼が購入した西麻布のタワーマンションへ引っ越したのである。
「ここなら、ボクたちの子どもも遊べるな」
マンションに隣接する笄公園で遊ぶ子どもたちを眺めながら、啓太は優しく微笑んでいた。
◆
それから、5年後。
「シンデレラはその後、幸せに暮らしました。めでたしめでたし」
愛娘であるサナの寝息を確認した私は、ソファでビールを飲んでいる啓太の元へと向かう。
「サナ、寝たわ」
「おつかれ~い」
彼は私の方を一切見ることなく、色気のないTシャツ姿で返事をする。ソファには、脱ぎっぱなしの靴下が転がっていた。
「もう、靴下は洗濯機に入れてって何度言ったらわかるの!?」
「あぁ、疲れてて。ごめ~ん。明日はボクが洗濯するから…」
そのだらしない姿を見ながら、時折思うのだ。このまま女として終わるのはイヤだ、と。
…そんなときだった。ある禁断のLINEグループから招待通知が届いたのは。
禁断のLINEグループへの招待
「ごめんね、未久さん。急にLINEグループなんか招待しちゃって。びっくりしたでしょ?」
翌日の午後。
笄公園でサナを遊ばせていると、お料理教室で知り会った洋子さんがコーヒー片手に近づいてきた。実は彼女、啓太と私を引き合わせてくれた婚活パーティの主催者なのだ。
「久しぶりで驚いたわ。あのグループはなんなの?」
「実はね…。私が選りすぐりの美人ママばかりを集めたLINEグループなの」
そう言って洋子さんは、LINEグループの画面を見せてくる。アイコンには「美魔女」と呼ばれるような美しいママたちの顔写真が、ズラリと並んでいた。
「さすが、洋子さんだわ。お知り合いも綺麗な方ばかりね。皆さんにもお会いしてみたいわ」
彼女は今日も胸元の開いたワンピースをサラリと着こなしていて、同性の私から見ても時々ドキドキしてしまうほどだ。
「ぜひ、お会いしましょう。ねえ末久さん。最近、啓太さんとはどう?」
「あぁ…。うちはもう、男女としては終わってるわ」
「…やっぱりね。結婚して6年。ちょうどそういう時期だと思って招待したのよ。未久さんにこのLINEグループの趣旨をまだ話していなかったわね」
そう言うと洋子さんは声を潜め、耳元で囁いた。
「未久さん、既婚者お食事会って知ってる?」
「えっ?」
「お互いの家庭を大事にしながらも、出会いを求めている人のためのパーティって感じなの。ある程度子どもが大きくなったら、セカンドパートナーを持つのもアリだと思うわ。もし良ければ参加してみて」
◆
その日の夜。
「なあ未久。そろそろ2人目、どうだい?」
啓太が久しぶりに、甘い声で私を誘ってきた。しかし私の身体は拒絶反応を起こす。
「ちょっと触らないでよ!それよりも、その出っ張ったお腹をどうにかしてくれない!?」
私の言葉にショックを受けた様子の啓太は、お腹を隠すようにカーディガンを羽織ると、リビングへと走って行った。
― あ~あ。夫には、もう抱かれたくないわ。
私はベッドに潜り込んで、スマホを見始める。…そのときだった。例のLINEグループに、1通のメッセージが投下されたのは。
yoko:【既婚者限定】来週火曜の13時~15時で、スイーツ会開催します。素敵な男性が20名。女性は募集中!参加希望者は個別LINEください。
私は衝動的に、この会へ参加することを決意したのだった。
そして迎えた火曜日。
「いってらっしゃい。今日は、ママ友とのランチ会に行ってくるから」
いつものように啓太を送り出した後、サナを幼稚園に預け、クローゼットに眠っていたヴァレンティノのワンピースに袖を通す。
その瞬間、忘れかけていた女としての自信を取り戻せたような気がした。プラダのパンプスに足を入れると、私は都内の高級ホテルへと駆け出す。
「あ!未久さんこっちこっち」
会場に着くと、私に気づいた洋子さんがこちらに向かって手を振ってくる。
そこには数人の華やかな女性と、スーツ姿の男性たちが談笑していた。皆、左手薬指に輝く結婚指輪を隠そうともしていない。
「では始めましょう。よろしくお願いします」
幹事である洋子さんがそう声を掛けると、さっそくお食事会がスタートした。
参加男性は、全員40代から50代くらいだ。平日のこの時間に集まれるだけあって、会社経営者や役員など、時間に融通の利くハイスペックな男性ばかりだった。
「…未久さんは、こういう会は初めてですか?」
緊張しながらコーヒーを飲んでいると、私の隣に座った男性が話しかけてきた。啓太と違い、スラリと背の高いイケメンだ。
「はい。友人に誘われて…」
「そうですか。僕も2回目なんです。あ、申し遅れました。私、高橋と申します」
「あ、どうも…。よろしくお願いします」
彼はIT系の会社を経営していて、奥さんと小学生になる2人の子どもがいるという。夫婦の関係は冷え切っているそうで、お互いに共通点があったせいか、私たちはすぐに打ち解けた。
「…未久さん。良かったら、今度2人で食事に行きませんか?」
◆
それから2年。
「ママ、じゃあね!またシンデレラの絵本読んでね」
サナとの月1回の面会を終えた私は、ため息をつくと笄公園のベンチに腰掛けた。
「『めでたし、めでたし』のその後、か…」
サナに読み聞かせた本を持ったまま、思わず言葉が漏れる。剥げたネイルで最後のページを開くと、自分に言い聞かせるように私はつぶやいた。
「『めでたし、めでたし』のその後。シンデレラは王子様に飽きて、新しい王子様とこっそり逢瀬を重ねました。でも、それが彼らにバレてしまいました。
そして何もかも失い、昔の貧しい生活に逆戻りしたのです」
絵本を閉じて天を見上げると、雲1つない青空が広がっていた。ベンチから立ち上がり中野区にある自宅アパートまで帰ろうとした、そのとき。
「未久さん…?」
声のする方を振り返ると、そこには洋子さんが立っていた。
「久しぶりね、未久さん。離婚されたって聞いたわ。もしよかったらバツイチ同士のお食事会があるんだけど、どう?」
彼女はあの日と同じように、ゾッとするほど明るい笑顔で私をLINEグループに招待した。
「…リベンジシンデレラ、か」
彼女から招待されたグループ名を見つめたあと、私はそっと参加ボタンを押したのだった。
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