元ガールズレーサーが見た、犬猫の「殺処分問題」。思わず涙した悲惨な現場とは

◆元競輪選手が見た、由々しき「殺処分問題」

 デビューから8年。5度目の挑戦で遂に念願のグランプリ制覇を成し遂げ、最強の状態で引退した元ガールズ競輪選手の高木真備さん。現在は、かねてより興味があった保護犬・保護猫活動に専念するべく勉強中で、保護施設や保護カフェを訪れては、そこで学んだことを日々、自身のブログで発信している。

 引退後に訪れた、坂上忍氏の動物保護施設「さかがみ家」で2日間研修をさせてもらうなど、精力的に活動を続けている彼女。日本社会における由々しき問題に直面し、以前よりも保護犬・保護猫に対する想いが強くなったそうだ。

◆1日に約63頭の犬・猫が殺処分されている現状

 ペットに関する深刻な社会問題のひとつである「殺処分」。環境省によると、2020年度の殺処分件数は犬・猫合わせて約2万3千頭とのこと。つまり、毎日約63頭の犬・猫が殺されているということだ。しかし件数的には過去最少で、年々減少しているようだが「これには理由があるんです」と高木さんは語った。

ーー保護犬・保護猫を少しでも減らす上で重要となるポイントはなんでしょうか。

高木:勉強の一環として様々な保護施設や保護カフェで見学させていただき、いろんなお話を聞いているのですが、今の現状を水道の蛇口に例えて教えてくれました。流れ出ている水をコップで受け止めているんだけど、全てを受け止めきれずに溢れている。溢れ出た水をいくらすくってもキリがない。蛇口をひねり続ける人がいる限り一生解決しないと。いかに蛇口をひねる人を減らすかが重要だと言われて。つまり、保護犬になってしまう犬を出す人間の方をなんとかしなくちゃいけないってことですね。

ーー年々、殺処分の数は減っているとのことですが……。

高木:今、東京ってペットの殺処分がゼロなんですよ。小池知事になって、「7つのゼロ」っていう公約があって、その中のひとつが「ペットの殺処分をゼロにしましょう」というもので。それが決まったから保健所が犬や猫を受け入れていないだけで、その分は全て愛護団体に回っているんです。だから、保護犬・保護猫がゼロになっているワケじゃないんですよね。

◆ペットを手放す瞬間に立ち会い思わず涙が……

 現在、保護施設を見学し、多くの話を聞いて知識を深めている彼女。様々な理由で飼っていたペットを手放さなくてはいけない現場に立ち会い、その瞬間を目撃してきたのだが、時にあまりにも惨たらしい状況や、身勝手過ぎる飼い主を見て、思わず涙することもあったようだ。

ーー実際に保護施設などの現場で見学していて、印象に残った出来事はありましたか?

高木:最近お世話になっている保護カフェの方から、「ぜひ一度ペットを手放しにくる人を見てほしい」と言われまして、見学させてもらったことがあるんです。その時は60代くらいの男性が柴犬を連れてきたんですが、足が悪くなっちゃって、お散歩も満足にさせてやれないし、これから孫の家に住むからそっちでは飼えないってことで。

でも、その柴犬は6歳で生まれた時から一緒だったそうで、6年も一緒にいたのに体をポンポンってしながら「じゃあな、幸せになれよ~」って。その言い方がとにかく軽いんですよ。もう、動物ではなく物としか思っていない感じで。それを見て、思わず泣いちゃいました。

あと、飼い始めてから3日で「もう飼えませんので引き取って下さい」と言って子猫を連れて来た人もいて。「なんか、思ってたのと違う」って。信じられないけど、本当にそんな人がいるんですよ。

◆元競輪選手ならではの新しい切り口も模索

 引退を決めた当初、彼女は競輪からは完全に身を引こうとしていた。だが、練習を指導してもらっていた高木隆弘選手に「元競輪選手としてやってきた立場を利用してできることってあるんじゃない?」と言われたことで気持ちが変わり、今後も競輪関係のメディアに出演することにしたそうだ。さらには、これまでに培ってきた人間関係も最大限に活用して、より保護活動の幅を広げようとしている。

ーー保護活動をしていくうえで、“元競輪選手”としてはどのような活動をしていきますか。

高木:競輪選手の中でもこのような活動に賛同してくれている方がたくさんいらっしゃるので、皆んなで広めていけたらいいなと思います。競輪と保護活動のコラボについても、いろいろと案が浮かんでいるので、今後提案していくつもりです!

あとは「保護活動」といっても、保護して里親を探して譲渡したり、殺処分現場から引き取ったりと、いろんな形があるんですよね。私がなんとなくイメージしているのは、それらとはまた少し違った切り口で、保護されたワンちゃんが新たに活躍できる場所を作れないかなと思っています。

◆ペットを飼うなら10年、20年後を見据えてほしい

 コロナ禍による巣ごもり需要で、新たにペットを飼い始めた人も多いようだ。ペットショップが盛んな日本では、気軽に飼える環境にあり、それが保護犬・保護猫を増やす一因とも言われている。ペットを飼いたいと思った時、「最期まできっちりとお世話できるか」ということを考えるために一瞬立ち止まり、自分の生活環境を省みてほしいと彼女は言う。

ーーいまからペット飼おうと思っている人に伝えたいことはなんでしょうか?

高木:ペットを飼うって10年、長ければ20年くらい一緒に生活するわけですよね。たとえば、今後結婚して子供を産む可能性がある新婚さんの場合、当然ですが子供とペットがいる時期がかぶるじゃないですか。それで、いざ子供が産まれてペットの世話ができなくなって手放す人とか、転勤が多い仕事の方が「引っ越し先でペットを飼えないからもう手放します」なんてことがあるんです。ペットを飼いたいと思った時、自分の生活環境を思い返して、「10年、20年後も変わらず世話ができるか?」という点を考えてほしいですね。

ーー先ほどの保護カフェに柴犬を連れてきた60代の男性のケースも同じことですね。

高木:そうです。高齢の方が元気な時に飼い始めても、年齢とともに体調を崩したり、生活環境が変わったりして飼えなくなることも多いので。ただ、そんな方がペットを飼いたいと思った時に、ペットショップで子犬・子猫を買うのではなく、保護犬・保護猫を引き取るってことも選択肢の1つとして考えてほしいなと。

保護犬だったら10歳の子もいます。そしたら寿命があと5年くらいとか、だいたいの予想がつくじゃないですか。5年だったらまだ自分も元気だろうから、最期まで世話できる。だから10歳の子を引き取ろう、とかですね。

ーー10歳くらいの子になると、産まれたばかりの子に比べて懐かないなんてことはありませんか?

高木:それは大丈夫です。保護犬の子たちは、何かしらの理由で手放されちゃって辛い経験をして愛情に飢えているから、心を開いてくれるケースが多いそうです。もちろん、産まれたばかりの一番可愛い時期に一緒に暮らしたいって気持ちも分かるので、「ペットショップで子犬を買うのが悪い」というわけではないんですが、自分のライフスタイルに合わせて、こういった選択肢もあるということを世の中に広めていきたいですね。

◆決して挫けない強い精神力で動物たちを救う!

 筆者は以前、彼女に密着取材している動画を観たことがあるのだが、そのなかで学生時代に行っていたハンドボールの恩師のインタビューがあった。そこで恩師は彼女のことを「とにかく芯が強く、相当負けず嫌いな子だった」と語っていた。競輪選手としてデビューし、勝てない日々が続いた時も、その恩師の言葉である「井戸を掘るなら水が出るまで」を常に思い出し、苦しい練習にも耐え抜き最終的には頂点を掴んだ。可愛らしい見た目とは裏腹に、強い克己心を持っている彼女なら新たな舞台でも必ずや目標を成し遂げるであろう。

取材・文/サ行桜井

【サ行桜井】

パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。ビールはサッポロ派。

2022/6/29 15:52

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