内村航平のモラハラ報道「アスリート特有の上下思考」が加害に影響する可能性
◆社会的成功を収めた人が、なぜ…?
『週刊文春』が報じた体操男子・内村航平のモラハラ疑惑。妻の千穂さんが手料理を作っても「ウーバー頼んだから」とピザや牛丼のデリバリーを頼むなど、五輪4大会に出場した体操界のスーパースターの意外すぎる一面に「これだけの社会的成功を収めた人物がなぜ…」と驚く声は多い。
が、「社会的な成功者であっても加害をすることはよく見られます」と語るのは、DV・モラハラなどの加害者向けのオンライン当事者会やトレーニングを行う「GADHA(ガドハ)」を主宰するえいなか氏。
「加害者の多くは上下思考を強く持っており、下の人間は上の人間に忖度をするのが当然であり、それをしないことは怠慢であったり能力不足であるための対象だと考えます。
社会的成功者は多くの場合、努力を積み重ねて成功したという自負が強い人も多く、その分『なぜ十分に努力しないのか』『努力しない人間は劣った人間である』『だからおれが教えてやる』と考え、その『罰』や『躾』を正当なものだと認識することがあると思います。
記事にある『妻の手料理をよそにデリバリーを注文』についても、妻が作った食事をこき下ろしたり、出前を取って食べたり、インスタント食品を自分で食べたりする加害は枚挙にいとまがありません。
自分が何を食べたいのかわからないことはおかしい。お前の役割は、俺に忖度し、わざわざ依頼するまでもなく、説明するまでもなく、俺が望むものを望むように提供することである。それができないのは努力不足であり、役割を果たせない存在に価値はない、という思考です」
◆アスリート特有の上下思考
えいなか氏が主宰する「GADHA(ガドハ)」には、元プロ選手なども参加している。「アスリートの場合、部活などでの上下関係、成果主義(に傷つきながらもその中で上に上がっていったこと)なども加害に強く影響していることがあります」と続ける。
「上下思考を持っている人間が、下だと認識している人間に忖度を要求することは『正しいこと』だと認識しています。それは悪いことではなく、人間として当然なことです。裏を返すと、自分が下の立場であるときに、上の立場を忖度してその要求に素直に従うこともまた『当然のこと』だと考えています」(前出・えいなか氏)
文春の記事にもあるとおり、内村は引退会見で『体操だけうまくてもダメ、人間性が伴ってないと』と発言している。モラハラが事実ならばひどく矛盾して聞こえるが、そうした二面性はありがちな話なのだろうか。
「モラハラ当事者が二面性を持っていることは非常に多いです。この二面性の背景にあるのは『甘え』です。自分にとって『外』の環境においては『甘え』はありません。過度な期待もなく、期待がないので自分の思い通りに動かないことは当然だと思っています。
一方で自分にとって『内』の(あるいは下しかいない)環境においては、そこにいる他者は『自分に忖度し、ケアしてくれて当然の人たち』です。わかってくれて当然、わからないなんておかしい! という甘えが加害を生みます。本質は二面性ではなく親しい関係における『甘え』にあると考えます」(前出・えいなか氏)
◆加害的な親の愛は支配をベースに
今回のモラハラ報道に対して、内村の実母・周子さんが『女性自身(ウェブ版)』に「あちら(妻)の両親が、都合のいいことお話ししたんじゃないかと思うんですよ。あることないことね」とコメントし反撃。文春の記事では、嫁姑の関係の悪さを指摘している。
「嫁姑問題の原因によっては、加害との関係は十分にあります。そもそも、加害者の親はほとんどの場合で加害的です。加害的な親の愛は支配をベースにしています。この支配は『心配』という言葉で偽装されることもありますが、その本質は『自分の思うように感じ、考え、行動してほしい』という欲望です。
そのような環境で生まれ育つと、愛することの意味が支配(あるいは上述した『甘え』)になります。このような機序で、先ほど申し上げたような形で加害者が生まれます」(前出・えいなか氏)
今回の報道について、内村側からはまだコメントが出ていない。前人未到の偉業を成し遂げたスター選手だけに、その去就に注目が集まるところだ。
えいなか氏
DV・モラハラなどを行う「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。ツイッター: