『鬼滅の刃』遊郭編後半の見どころと宇髄天元の魅力

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 いよいよ『鬼滅の刃』アニメ2期・遊郭編も大詰め!鬼殺隊一ド派手で美しい男・宇髄天元(うずい・てんげん)のカッコ良さに釘付けになった視聴者も多いのでは?声優・小西克幸氏が演じる宇髄の兄貴肌な性格、色気、優しさ、苦悩の表現からも目が離せない!
 『鬼滅の刃』の分析本として話題を呼ぶ『鬼滅夜話』(きめつやわ)の著者であり、人気連載をもつ植朗子さんに特別に寄稿してもらい、宇髄の真実と遊郭編後半の見どころを語ってもらった!


【ご注意下さい!】この記事には、漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。

◆音柱・宇髄天元のキャラクター
 
 音柱・宇髄天元の遊郭編での初登場シーンでは、潜入捜査に蝶屋敷(=胡蝶しのぶの邸宅)の少女たちを連れて行こうとして、炭治郎たちと揉め事になった。しかし、宇髄は年下の隊士たちとワイワイ騒いでいるだけで、上官である「柱」として無理矢理命令を下したり、腕力で言うことを聞かせたりはしなかった。

 宇髄は後輩剣士たちを叱ることはあるが、その場を華やかにするような、明るくユーモアのある話し方が特徴的である。  

 しかし、その一方で、宇髄は時々無言になることがあった。宇髄は元・忍だったこともあり、ポーカーフェイスでいることも、嘘をつくのも、とても上手にやってのける。整った顔立ちに、冷めているような表情を浮かべ、苦悩や苦痛を表に出すことはかなり珍しい。

 あれほど気さくに仲間たちと話しているにもかかわらず、なんとなく「本心」がどこにあるのか分かりづらい人物なのだ。

◆周囲を助けることに尽くす宇髄
 
 自らを「祭りの神」と自称し、場を盛り上げる宇髄であるが、彼のセリフには、嘘も虚勢もハッタリも本音も混ぜこぜになり、語り口が目まぐるしく変化する。同じ柱である煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)とは対照的だが、これも宇髄ならではの魅力といえるだろう。

 遊郭の戦いで、鬼の上位実力者である「上弦の陸」の堕姫・妓夫太郎兄妹に、自分の妻と善逸がさらわれた時、本来であれば、鬼殺隊側の人員は多いほど有利であるにもかかわらず、宇髄は炭治郎と伊之助だけでも逃がそうとした。

〈消息を絶った者は死んだと見做す〉(宇髄天元/9巻・第75話「それぞれの思い」)

 そんなことを言いながら、宇髄は「後は俺一人で動く」と、危険な任務を自分だけで続けようとする。「死んだと見做す」という言葉とは裏腹に、宇髄は他者の救出のために、自分の命は平気で賭ける人物であることがわかる。

「お前はもう何もしなくていい」(9巻・第77話)、「まきを 須磨 遅れて悪かったな」(9巻・第79話)、と優しく妻たちをねぎらう宇髄の名セリフがいくつもあるが、遊郭編後半、妻の最大の危機の際に、宇髄がいつものポーカーフェイスを崩す場面は、見どころのひとつだ。宇髄の熱い心を読み取ることができる。

◆宇髄の弱音

  口にする言葉は力強い宇髄であるが、ときおり見せる本心からの言葉とモノローグの中では、彼の「弱い心」が見え隠れする。

〈俺が選ばれてる? ふざけんじゃねぇ 俺の手の平から 今までどれだけの命が零れたと思ってんだ〉(宇髄天元/10巻・第87話「集結」)

「そう俺は煉獄のようにはできねぇ」と、心の中で、自分のことを煉獄杏寿郎と比べるシーンがあった。無限列車の乗客200人を守り切った煉獄、遊郭の一般市民から何人も犠牲を出してしまった自分。

◆宇髄の父、煉獄の父
 
 宇髄は自分の出自が忍の家系なことを、誇る部分と、恥じている部分がある。時代とともに衰退していった「忍」の任務は、全盛期であったとしても、人の影、社会の暗部に潜らねばならない仕事だ。それに対して、煉獄家は代々鬼狩りの「柱」を輩出する、誉れ高い剣豪の家系だった。

 使命とのはざまで己を見失った時も、煉獄の父は、息子たちを「鬼狩り」という修羅の道から遠ざけようとしたのに対して、宇髄の父は、「忍」の血をより高めようと、兄弟同士殺し合いをさせる狂気に取り憑かれてしまった。―煉獄とはちがう。自嘲気味に呟く、宇髄の苦悩は深く、彼の心の傷が癒えることはない。

◆宇髄と「遊郭の鬼」との共通点・相違点

 『鬼滅の刃』遊郭編には、重要キーワードがいくつかある。そのひとつが「選ばれた人」だ。

〈そして竈門君 君はもっと凄い力がある 日の呼吸の選ばれた使い手は 君のように 生まれつき赤い痣が 額にあるそうだ〉(煉獄槇寿郎/10巻・第81話「重なる記憶」)

〈お前は生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ 選ばれた才能だなぁ〉(妓夫太郎/10巻・第87話「集結」)


 炭治郎も宇髄も他者から「選ばれた人」だと言われ、それを強く否定するシーンが見られる。彼らは自分の才能に無自覚で、それゆえに慢心することもない。

 そして、「何に選ばれているのか」というのも考えねばならないポイントのひとつだ。彼らは「運命」に選ばれている。「生まれつき」「生まれた時から」という表現が頻出することからわかる。

 遊郭の鬼たちも、突出した才に恵まれていた。妓夫太郎には他者を圧倒する「強さ」があり、堕姫には比類のない「美しさ」が備わっていた。それを、「美しさ」と「強さ」を兼ね備えた宇髄が敵として立ち向かう。象徴的な戦いといえるだろう。

 厳しい現実世界の暗部を生き残るためには、「美」と「戦闘力」はかなり有効に働く。親に恵まれなかった彼らが、遊郭という異様な場所、忍という特殊集団を生き抜くために、この2つの能力が必要だったのだ。

◆弱音をかくし、ハッタリをうまく使う宇髄
 
 遊郭の鬼との戦いは、より熾烈さを増していく。追いつめられると、宇髄は嘘とハッタリを会話に散りばめ、相手をうまく撹乱し、戦いを有利に運ぼうとした。

〈絶好調で天丼百杯食えるわ 派手にな!!〉(宇髄天元/10巻・87話「集結」)
〈勝つぜ 俺たち鬼殺隊は 余裕で勝つわ ボケ雑魚がァ!!〉(宇髄天元/10巻・88話「倒し方」)

 
 宇髄の言葉は不思議だ。彼が口にすると、ハッタリも虚勢も、まるで真実のように力を持つ。周りの人の弱い気持ちを立て直すことができる。

 危機的状況にあっても、薄い笑みを浮かべ、明るい声で勝利を宣言する宇髄のたたずまいは、炭治郎や伊之助たちを自然と勇気づけた。彼が派手に生きるのは、こんなふうに誰かの心を励ますためだ。だから宇髄天元は、弱音を見せずに、誰よりも豪奢に装い、放胆に振る舞い、華麗に戦う。

 宇髄の派手な語録は、彼の“鎧”のひとつなのかもしれない。しかし、その下にある優しさが、周囲を惹きつける真の魅力だともいえる。遊郭編では、彼が本心を真面目に叫ぶ場面がいくつかある。それを見つけるのも、遊郭編の楽しみになるだろう。(文/植 朗子)

―[鬼滅夜話]―

【植 朗子】
1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

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