コロナ第6波はすでに始まっていた!統計から導かれる事実

―[コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」]―

◆すでに感染者数増加は全国で一斉に始まっている!?

 10月上旬に、第5波エピデミックSurge(波、うねり)が収束に向かっていると言う記事を書きました。その後、9月シルバーウィークの影響で全国的に短期的な増加や下げ止まりを見せましたが、10月中は新規感染者数の減衰が継続しました。

 国内では、岩手県、香川県、大分県を始めとして東北と四国、九州などで多くの県が統計上の終息と考えられる状態まで減衰しました。但し、抽出検査の限界から、統計上の終息が、市中感染者がゼロになったことは意味しません。県内全在留者のPCR検査を一ヶ月に4回行い市中感染者をゼロにするか、何もせずに3〜6か月の間新規感染者が発生しないかのどちらかで県内終息となります。

 ところが、10月末から11月前半にかけて、全国の複数の都道府県で一斉に新規感染者数が増加に転じています。

 筆者は、今年9月からNHK集計のCOVID-19日毎新規感染者、死亡者統計を使い、統計分析を手もとで行うようになっていますが、現在、15〜20の都道府県で第6波の発生が疑われる状況となっています。

 首都圏では既に全都道府県で新規感染者数が増加に転じていますが、神奈川県の場合、7日変化率、14日変化率共に正の値となっており、短期・中期増加傾向を示しています。また日毎新規感染者数の7日移動平均が同21日移動平均をしたから上に突き抜ける、市況のテクニカル分析での「ゴールデンクロス」を示しており、日毎新規感染者数が長期増加に転じたことも示しています。

 これが単県でなく関東7都県でほぼ同時に生じていることから首都圏では第6波エピデミックSurgeが10月下旬から11月上旬にかけて発生したと筆者は判定しています。現在、北海道、秋田県、東海・中京、関西、中国の20都道府県で第6波の発生またはその疑いが一斉に生じています。

 その一方で統計上の終息・終息過程にある県が20県前後存在しており、明暗が大きく別れています。

 なお現在中期・長期増加に転じた都道府県も、台湾や中国のように直ちに介入すれば2ヶ月でウイルスがいなくなります。また今回の記事は、早期警戒速報に該当しますので、第6波エピデミックSurgeの発生が確定するにはあと11月いっぱいの統計観測を要します。

◆日本全体はどうであるか

 現在筆者は、NHKが集計し、公開している全都道府県および日本全体の日毎新規感染者数、死亡者数の統計を用いて統計分析をしています。NHK集計の統計を用いる理由は厚労省のオープンデータは、非常に使いにくいためです。

 厚労省のオープンデータとNHK集計のデータでは、日毎の数字で若干の違いがありますが、本質的には同じものです。

 筆者は、日毎新規感染者・死亡者のRaw DATA(生データ)、7日・14日・21日移動平均、7・21日間変化率*を使っています。

<*新規感染者数7日変化率は、新規感染者数の7日移動平均と前週同日7日移動平均の間での変化率を見ている。0で変化無し、+で増加、-で減衰となる>

 また致命率の評価としては、一般的な致命率(Case Fatality Rate: CFR)を用いると共に、移動区間CFRとして7,14,21,28,35,42日移動区間CFR*を定義し、用いています。

<*CFRは、累計死亡者数を累計感染者数で割ったものである。移動区間CFRは、14日移動区間CFRの場合、死亡者数14日移動累計を、前々週同日の新規感染者数14日移動累計で割ったものである。これは、Our World In DATAにおける7日移動CFRの発展で、本邦における死亡報告の20〜60日以上という著しい遅れを評価するためである>

 2021/11/18時点での日本全体での新規感染者、死亡者統計を見てみましょう。

 2021/11/18現在、日本全体では1〜2ppm(130〜260人)の日毎新規感染者数で、半減期は約25日です。ワシントン大学IHME(保険指標評価研究所)の推測では、本邦の日毎新規感染者数は、中央値で統計の5倍程度と考えられています。また感染期間は感染後20日程度ですので、国内に存在する実際のSARS-CoV-2感染者数は統計の100倍程度、実際に人に感染させる能力を持つ人はその半分と推定出来ます。

 例えば現在、21日移動平均で約200人の日毎新規感染者がいますので、2万人程度の感染者が国内に存在し、そのうち1万人程度が人に感染させる能力を持つと考えられます。これはあくまで概算ですので、大きな誤差が考えられますが、桁での評価は出来ていると考えています。

 約2万人の感染者が現状の介入水準で自然消滅するには15半減期を要します。半減期25日ですので、375日、約1年を要しますが、これは現状の介入水準での消滅は不可能であることを意味しています。

 これは、筆者が日常的にさまざまなことに対して行っているフェルミ推定の一種で、あくまで概算です。有名な事例では、ドレイクの宇宙文明方程式が挙げられます。

 現在の1〜2ppm(ピーピーエム:100万分の1)という水準は2020年5月末の200〜300ppb(ピーピービー:10億分の1)の10倍であり、2020年9月の4〜5ppmの半分弱と言えます。これはたいへんに良好な水準で、台湾方式の介入を行えば、3ヶ月程度で、中国式の介入では2ヶ月程度で国内からウイルスを完全に排除し、後は水際防衛に専念すれば、国内では社会的距離の確保もマスク着用も不要となります。

 なお、中国、台湾ではワクチン接種も順調であり、1回でも接種した人の割合は、中国83%、韓国82%、日本79%、台湾75%となっています。参考までに合衆国は68%となっています。

 本邦は、東京オリンピックによる交通規制(オリンピック戒厳令)を契機として、夏休み、四連台風、お盆休み、早い秋雨という偶然による移動傾向(モビリティ)の急減により2週間早く第5波エピデミックSurgeが減衰に転じましたが、謎々効果(Factor X)、その後理想的なワクチン接種完了率の急伸(15%/月)による限定的集団免疫などによって10月上旬まで1.5ヶ月間、指数関数的に急減、その後も減衰速度が衰えながらも減衰を続けてきました。

 9月から10月上旬にかけての急速な減衰は、移動傾向、ワクチン接種、謎々効果だけでは説明が困難であり、追加の要因としてエラー・カタストロフ仮説*などが議論されています。

<*特集ワイド:コロナ対策、科学で先手を 東京大先端科学技術研究センター、児玉龍彦名誉教授 2021/09/16毎日新聞/児玉龍彦博士が提唱する説であり、日本、インド、インドネシアなどのδ株によるエピデミックSurgeへの対応に大失敗した国に見られる説明困難な感染者数の急減の説明を試みる仮説である。主として分子生物学者などの科学者と医学者、最前線の臨床医によって議論が進められている。一方で、メディアによる仮説の限度を超えた濫用や、あいも変わらずの根本的無理解による見当違いな批判や誹謗中傷を行う感染症・免疫学者、医師・医学者が見られる>

◆代表的な都道府県の統計を見る

 ここまで、神奈川県と日本全体の統計を見てきました。ここで北から北海道、東京都、京都府、岡山県、福岡県における2021/11/18現在の2021/4/1からの統計を見てみましょう。

 神奈川県を含む6都道府県について統計を見ると、8月末以降、美しい指数関数的減衰を続け日毎新規感染者数が2ppm程度まで減衰しましたが、9月シルバーウィークの影響で10月はじめから減衰速度が衰えはじめ、10月中旬から11月初頭にかけて下げ止まっています。その後10月下旬から11月上旬にかけて増加へと転じています。

 東京都は、10月下旬以降、増加圧力と減衰圧力が押し合っている状態で、漸増を見せていますが、これは全国統計での昨年9月から10月にかけての第3波の始まりと酷似しています。

 北海道では、11 月に入り旭川などで大型のクラスタが発見され、日毎新規感染者数の統計が跳ね上がっていますが、短期・中期・長期増加傾向への変化は、クラスタ発見の前に生じています。

◆ワクチンによる限定的集団免疫

 さて本邦では、6月から10月の間、接種完了率平均15%/月という巨視的には理想に近い急速なワクチン接種が行われ、接種完了率は、76%とたいへんに高い値です。接種を二回行ったひとは高い抗体価を示し、δ株に対して30〜60%程度の感染回避能力があるとされています。

 6〜10月に集中して75%近い人々のワクチン接種の結果、この期間における人々の持つ抗体免疫は最強となっており、限定的集団免疫が発揮されたと筆者は考えています。

 事実、移動傾向が昨年同様に9月のシルバーウィークに激増し、その後も増加し続けた結果、新規感染者数の一週間・二週間変化率には昨年同様の跳ね上がり(急上昇)が見られましたが、複数回にわたってShoulder(肩)からSpike(棘)へ、SpikeからSurge(波)へと成長して第六の波が発生するという事が10月中旬までは制圧されてきました。

 2020年同時期は、感染する力がデルタ株に比して遙かに弱い在来株であってもシルバーウィークを契機に発生した移動傾向の増加によって第3波エピデミックSurgeに成長してゆきました。

 しかしワクチンによる抗体免疫は接種完了後4か月後から感染回避に不足しはじめ、6ヶ月後には失われるとされており、海外では既にそれによるエピデミックの再燃が見られています。

 本邦では、6月に接種した人たちの抗体価が10月には感染回避に不十分なほどに減衰しはじめていると考えられ、筆者は注視してきましたが、10月下旬から11月上旬にかけて首都圏を中心に全国的に15〜20の都道府県で第6波の発生が強く疑われます。

 合衆国では、6月末までに約50%の接種完了率で、その後は飽和してしまい、ゆっくりと増加していますが、この約50%の人たちのワクチンによる抗体免疫は既に切れ始めており、春までの感染による抗体免疫保有者も11月にはその多くの抗体免疫が切れています。その結果なのか、合衆国では11月に入り急速に感染拡大しています。合衆国における夏の感染拡大は、その大部分がワクチン接種をしていない人であったとされています。その為、接種率が極端に低い共和党系の南部(赤州)に偏在していました。今回は、合衆国北部にも広がっており、合衆国と同様にイスラエルでは接種完了者の重症化、入院も増えていることからアンソニー・ファウチ博士は、Booster接種を急ぐように呼びかけています*。

<*Fauci: Hospitalizations Rising Among Vaccinated Without Boosters, Transcript, CNN New DAY, 2011/11/18>

◆地域により二極化が著しい第6波エピデミックSurge初期過程

 現在、半数近くの都道府県で第6波の発生または発生疑いが生じていますが、その一方で東北、甲信、北陸、四国、九州の20前後の県では終息段階(新規感染者数21日移動平均500ppb前後)や、統計上の終息を示しています。ここで状態の良い岩手県、山梨県、広島県、大分県を見てみましょう。

 岩手県、山梨県、広島県、大分県は、広島県を除き統計上の県内終息県です。厳密には、岩手県では11/14に新規感染者1名が確認されており、県内終息に近い状態に逆戻りしています。

 但し、標本抽出の限界から、統計上の終息であっても市中感染者ゼロを意味しません。少なくとも数名の市中感染者が見込まれますので台湾方式(自己隔離、接触追跡重視、検査充実率1000〜5000)か、中国方式(短期ロックダウンと全員一斉複数回PCR検査)を行えば1カ月程度で県内完全終息を達成出来ますのでその後は持ち込みを交通結節点などでの無償PCRによって抑止することとなります。これをしなければそのうち発症者の発生と増加が始まります。

 広島県には、たいへんに注視すべきで広島方式とされる街頭無償PCR検査ほか、世界標準の防疫政策をサブセットであっても行っています。結果として周辺各県での感染拡大という「炎の壁」に囲まれながらもいまだに第5波の減衰を継続しています。広島県は模範例として実績を数字で残しています。

 検査抑制政策の都道府県は、統計の乱れが激しく、中には分析不能の県もあります。このような都道府県は、市中感染者を大量に見逃しており、Surgeが始まると急激に新規感染者数が増加します。

 筆者は、ワクチン抗体免疫の減衰、都道府県ごとの防疫政策の違い、地域性などが第6波エピデミックSurgeでは明確に現れると考えており、興味深く毎日の統計を追っています。

◆誰にでも出来るエピデミック統計テクニカル分析

 筆者は、昨年1月から一貫して数値によるパンデミック、エピデミックの評価を継続しています。評価を行えばある程度の予測が出来ますが、筆者はロスアラモス国立研究所(LANL)が公表してきた独自の成長率モデルによる評価と短期・中期予測 を高く評価し、それを徹底的に簡易化して独自に運用しています。将来的には感染症数理モデルの導入も考えていますが、現時点でその必要性はありません。

 残念なことにLANLは今年9月末に評価と予測の更新を取りやめてしまいましたが、国内統計の独自分析を本格化したために入れ違いで成長率評価による国内の評価と予測を開始出来ました。

 これは、NHKが公開している全国統計と都道府県別統計をExcelワークシートに入力することによって行っていますが、そろそろ限界なので科学・工学系数値処理ソフトウェアのOriginに切り替える予定です。博士課程在学時に育英奨学金を1カ月分注ぎ込んで購入し、維持してきたソフトウェアが、思わぬ場面で活用出来そうです。

 筆者は市況分析におけるファンダメンタル分析とテクニカル分析に相当する手法を併用していますが、テクニカル分析だけでも速報に該当することは可能です。筆者は、ほぼ毎日統計分析についてTweet していますが、投資に造詣のある人達は、「デッドクロスだ」「ゴールデンクロスだ」「これはテクニカル分析だ」とリプライを送ってくれますが、そういった視点での分析はとても面白いと思います。

 市況のテクニカル分析ならば、20近い都道府県では全面全力買いの局面を示しています。しかしこれはエピデミック統計です。全面全力買いでなく、全力介入によるウイルスの抑制、早期制圧をする必要性を現実には示しています。

 第5波の減衰が進んだためにBaselineが低く、10月末から第6波が始まった都道府県であっても11月中から12月中旬にかけては比較的安全と考えられます。必要不可欠な用事は早めに済ませることをおすすめします。高性能マスク着用と換気の励行で、相当程度安全が維持出来ます。一方で、第6波エピデミックSurgeの規模(波の高さ)は、まだドミナント(主たる地位)の株が不明など、情報不足で分かりません。

 筆者は、第6波は日本の半分で10/15頃に実際の感染拡大が始まっており、第6波の極大期は1月中旬以降、社会への影響は12月中旬以降に始まると考えています。ただし、情報不足でSurgeの規模(波の高さ)は分かりません。悪いことに年末までには接種完了者の半分で感染を回避する抗体免疫は事実上無効になっていると考えられます。

 いまから十分な備えをしてください。特に医療従事者は、今のうちに体と心を休めることを優先してください。

<文/牧田寛>

―[コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」]―

【牧田寛】

まきた ひろし●Twitter ID:@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

2021/11/24 8:52

この記事のみんなのコメント

4
  • エッコ

    11/24 17:03

    コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」〜の引用ってなんなん??文中の「謎々効果」なる謎ワードとか。誤植かね?繊細な分野で適当な記事はあかんでしょ。

  • いち(

    11/24 15:09

    来るぞ来るぞだけでなく、オリンピック前には『8月中には3万人超えもありうる』などと言われてたのがそうならなかった。何故なのか?そんな話しもして貰いたね。

  • トリトン

    11/24 13:37

    赤系か長いな。ではまたできたら新しいワクチン射ちましょね。

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