漫画家・ヤマザキマリ、「フランダースの犬」は不条理てんこ盛りのデコレーションケーキ状態!?

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TOKYO FMで月曜から木曜の深夜1時に放送の“ラジオの中のBAR”「TOKYO SPEAKEASY」。今回のお客様は、エッセイストの内田也哉子さんと漫画家・随筆家のヤマザキマリさん。ここでは、ヤマザキさんが「フランダースの犬」を子どもの頃に読んだときに感じたことを赤裸々に語りました。

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(左から)内田也哉子さん、ヤマザキマリさん


◆私はアラビアンナイト派(ヤマザキ)
内田:まずマリさんとお会いしたきっかけっていうのが「ムスコ物語」(幻冬舎)っていう本なんです。私はそんなに本を読んでこなかったんですけど、この本は私のベスト3に入ってもおかしくない。

ヤマザキ:そんな(笑)! すみません。

内田:私も子どもが息子2人と娘がいますけど、“親子が読むべき”とか“親子だから感動した”とは別に、人と人との関わり方とか、人が人を想うときの強さとか弱さ、切なさ、優しさ、そういうものがギューッと凝縮されていて……表紙を見ただけでジワジワきちゃう。

ヤマザキ:なんとも恐縮です、うれしいです。

内田:周りの人にも勧めているんですよ。

ヤマザキ:ありがとうございます。口コミの効果に勝るものなし(笑)。

内田:当たり前だけど、マリさんには何ももらっていないけどね(笑)。

ヤマザキ:これから何か必要なことがあれば、何なりとお助けいたします(笑)。

*   *   *

内田:このあいだもお聞きしたけど、(ヤマザキさんを知る)まず最初のキーワードは“早くから孤独を知ってしまった”。しかも俯瞰して、妹さんも含めて孤独を本当にありありと感じてしまった。でも、そこからまた14歳でヨーロッパに突然ポンと……。

ヤマザキ:そうですね。

内田:そこで“自分”という存在が分離した。「“自分しか頼れる人はいないんだ”っていうことをはっきりと実感した」っておっしゃっていて。

ヤマザキ:そうですね。でも昔って、丁稚奉公じゃないけど庶民の子どもは11歳や12歳で(奉公に)行かされていたわけじゃないですか。家族よりも社会という組織に帰属するのが優先だったんでしょう。

内田:そんなに小さかったんだ。

ヤマザキ:そう。やっぱり“頼れるのはもう親じゃない”という意識はその当時の子どもたちにも芽生えていたと思います。自分が丁稚に行った先だって、ご主人が意地悪だったり、仲間にいじめられたり、いろんなことがあるじゃないですか。

そんなときに、“誰が自分を守るんだ”って話になるわけですよ。逃げたくはなるだろうけど、家族はきっとがっかりする。だったら腰を据えて現実と向き合うしかない。だけど本当にダメなときがきたら、そのときは自分で自分にふさわしい判断をして行動に出るしかないですけどね。

内田:そういえばマリさんが「フランダースの犬」を読んだときに、「なんで、もっと想像力を働かせて地獄のようなところから抜け出さなかったんだ」っておっしゃっていて(笑)。

ヤマザキ:「フランダースの犬」って、すごく美談に聞こえますけど“随分容量の悪い子どもだなぁ”って思ってました。私も絵が好きな子どもだったので、母がある日、あの本を買ってきて「絵描きを目指した子どもの話を読んでごらんなさい」と(笑)。私の場合は“絵を描くのが好き”というよりも、空白があると絵を描いちゃうんです。病気みたいな感じでしょうね。

内田:止められないの?

ヤマザキ:止められないの。それで、もう“絵描きになるしかないな、こりゃ”みたいな自覚が多分、幼いときからあったんだと思うんですけど、それを音楽家の母が、“私が(芸で生きる道を選んだ結果)大変な思いをしているのに、娘までこんなことを言い出した。これはヤバいな”と。それで取った作戦が、「フランダースの犬」を読ませることだったわけですよ。

あの本が書かれた頃の欧州って、不条理な社会の犠牲になる子どもが主人公のお話が流行ってたんですよ。孤児でおじいさんと犬と暮らしている、というパターンが多い(笑)。主人公のネロは放火犯に間違われたり、ことごとくひどい目に遭うわけですよ。

日本でいうところの村社会でよく起きがちな、何か都合が悪いことがあると、立場の弱い人が責任を負わされるみたいなものの典型。とにかく、不条理てんこ盛りのデコレーションケーキ状態のなかで生きているわけですよ。

内田:(笑)。

ヤマザキ:途中でおじいさんも死んじゃって、自分ひとりでは牛乳屋もうまくたちいかなくなってひもじい思いをする。最後は教会で自分がずっと見たかったルーベンスの絵の前で死んでしまう。最後のページをめくったところで母が「ほらね? “絵で生きていく”って大変なのよ。つまり死んじゃうのよ」とドヤ顔のリアクションを取るわけです。ただ、そう言われてもどうにも納得がいかない。そもそも飢え死にするしかない状況になって誰かの慈悲を待ってでもいるかのような、行動を起こせない姿勢が嫌だった。犬も巻き添えになって可哀想で。

内田:マリさんだったら、絶対に別の道を考え出しますよね。

ヤマザキ:まず、おじいさんが死んだ時点で頼れる人がいないわけよ。そうしたら、子どもでもできる仕事を探しに行くか、何か食べていけるだけのものを栽培するとか、街中の孤児ギャング集団の一員になるとか、わかりませんけど行き抜く方法はあったと思うんですけど。

内田:もうアイデアが溢れんばかりに……(笑)。

ヤマザキ:当時、この「フランダースの犬」と同時進行で読んでいた本が「アラビアン・ナイト」だったんですよね。同じ子どもでも、ずる賢いと馬鹿正直ではこうも人生の顛末が違うのかと思うわけです。

あらゆる冒険に巻き込まれながらも、機転のきいた姑息さを発揮して、何はともあれ与えられた生命力を駆使して生きているわけですよ。それに比べて「フランダースの犬」のネロは生命力が足りない。フィクションとして情動的過ぎる。まあキリスト教的倫理がベースになっていますから、そう思うとわかりやすいのですが。

内田:そっかぁ。だからマリさんは、どちらかといったらアラビアン・ナイト派っていうことですよね?

ヤマザキ:当然ですね。空飛ぶ絨毯があったらすぐにでも欲しい(笑)。

内田:本当だ、マリさんにピッタリで、イメージがすぐ湧きますね。

ヤマザキ:子どものときから、「行くな」と言われた場所があったら行ってしまう。危険かどうかは自分が決める、みたいなのがあって、母親や先生からはしょっちゅう怒られていました。

今は人様のいうことはそれなりに聞いて生きてますし(笑)、無茶振りはしませんが。でも自分で責任が持てる判断であればそれに従う、というのはあるかもです。

内田:だからマリさんって、生まれたときから反骨精神がある人っていうことなんですかね?

ヤマザキ:そうですね、疑り深いというのもあるかもしれない。子どもの頃から予定調和がなさすぎて、信じる怖さがある。扱いづらい人間なんで、あまり誰も近寄ってこない(笑)。

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<番組概要>
番組名:TOKYO SPEAKEASY
放送日時:毎週月-木曜 25:00~26:00
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/speakeasy/

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  • 11/21 6:00
  • TOKYO FM+

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