日本代表のサッカーが守備偏重のワケ。勝たなければならない試合でも「リスクは負わない」

◆11月の予選2試合はともに1-0の辛勝

 サッカー日本代表は、2021年最後の試合となるFIFAワールドカップカップ カタール 2022 アジア最終予選を戦った。11日のベトナム代表戦も16日のオマーン代表戦もアウェイでの厳しい戦いを強いられたなか、どちらも1-0で勝利。最高の結果とは言い難いが、結果・内容ともに及第点と言える試合だった。

 また、オマーン代表戦と同日に行われた中国代表vsオーストラリア代表の試合が1-1だったため、日本代表はオーストラリア代表を抜きグループBで2位まで順位を上げることができた。ワールドカップ出場権獲得圏内に入ったとはいえ、年明け1月27日に中国代表戦、2月1日にはグループ首位のサウジアラビア代表と対戦することになっており、気の抜けない戦いは最後の最後まで続くことになりそうだ。

 次戦までの約2か月間、日本代表は何をすべきだろうか。

◆大量得点を求められていたが…

 最後までもつれることを考慮すると大量得点が求められたベトナム代表戦だが、移動に遅延が発生し全員が揃って練習できたのが試合前日のみという思わぬトラブルが発生した。そういった状況で新しいことを試すには時間がなかったため、森保一監督は前節オーストラリア戦とほぼ同様の戦術を選択。期待された大量得点は達成できず、伊東純也の得点のみで1-0の勝利を収めた。

 最低限のノルマだけは達成したという内容だったが、想定外のトラブルで調整不足だったことを加味すれば喜ぶべき結果と言える。

 続くオマーン戦では、警告の累積によって出場停止処分となった守田英正に代わり柴崎岳が先発し、4-3-3のシステムで試合に臨んだ。日本のホームで行われた第一戦と同様に、中央へ絞る形で守備を固めるオマーン代表に対して、日本代表はサイドを起点に相手ゴールに迫ろうと試みた。

◆封じ込まれた日本の展開力

 しかし、オマーン代表は柴崎岳、田中碧、遠藤航の中盤の選手にシステムを可変させマンマーク気味で守り、日本の展開力は封じ込められた。また、オーストラリア戦から採用した日本の3トップも研究したオマーン代表は、伊東にスペースを与えないようにしてチャンスメークをさせなかった。ストロングポイントの右サイドを封じられた日本は、必然的に左から展開することが多くなったが、中央寄りに位置する南野拓実が空けたスペースを長友佑都が有効に使おうと試みていたが、得意のオーバーラップで数的優位な状況をなかなかつくり出せなかった。

「2パターン用意していた」と試合後にキャプテンの吉田麻也が明かしたが、前半の状況を鑑みて森保監督はカードを切る決断をして後半から三苫薫を投入した。また、同17分には南野に代えて古橋亨梧、長友に代えて中山雄太を投入。それらの交代によってアグレッシブさを増した日本代表は同36分にゴールをこじ開けることに成功し、その1点を守り切って勝利した。

◆日本に対応したオマーンの研究

 予想されていたことだがオマーン代表は日本代表の新システムもよく研究しており、見事に対応してみせた。それを選手交代という采配で上回った勝利で、森保監督を褒めるべき試合だ。

 対応されていることがわかっていたのだから、はじめから三苫や中山を使えば良かったのではという意見はある。そういった意見に対して森保監督は以下のように語っている。

「中山に関しても三苫にしても、先発での起用を考えていました。それは他の選手も同じで、実際に先発で使っていない選手などの選択肢も考慮するなかで、先発に考えている選手は他にもいました。相手も元気で対応力があるなかで、やっぱり難しいと思うんですよね。そこで我々の良さだけをぶつけていって、相手を圧倒できればそれに越したことはないと思いますけど、相手がスタートからどういう出方をしてくるかもわからない。何人かの選手は直近の試合から代えてきていますし、ひょっとしたら形を変えてくるかもしれないっていうことなどを踏まえました。前回やられたなかで、我々をどうケアしてくるのかということも駆け引きしながら戦わなければいけない。それでも選手は慎重というか、アグレッシブに戦ってくれていたと思います。そのなかで自分たちがこの2戦でやってきた形をうまく生かしてやってくれていたと思っています」

 多様にシミュレーションした結果の先発で、その判断に誤りがなかったと示唆した。

◆勝ち点3という結果は上出来だが…

 オマーン代表を簡単に分析すると、パス連係のグループで崩そうとした前半とドリブルの個で崩そうとした後半と言えるだろう。どちらもこれまでの反省点が生きており、選手個々が持つ特徴を生かそうとした戦術だった。後半の戦術で最初から押したとしても早々に得点できていたかはわからないし、前半よりも高リスクで失点の危険性が増すだけになっていたかもしれない。そういった意味では上出来であり、勝ち点3という結果を踏まえると申し分ない試合だった。

 とはいえ、さらなる高みを目指す上であえて提言するなら、きっかけがなくとも試合中の判断で変化を見せられるようになってほしい。

 今回は三苫、中山、古橋の交代が起爆剤となったが、前半のうちに役割やポジショニングを変更する戦術的対応力を見せられたら、ワールドカップの切符獲得に太鼓判を押せた。相手の2トップに入るボールを押さえられれば、オマーン代表のチャンスは皆無に等しい状態だった。実際に試合を通してそこを封じた日本代表は、相手にチャンスというチャンスをつくらせなかった。

 また、南野が中央寄りに位置し柴崎が高めのポジショニングだったことから、右サイドが渋滞。伊東の突破力を生かすスペースをつくりだしづらい状況になっていたし、山根視来が上がるスペースもなかった。これに関しては、相手の守備を褒めるべきで、選手も早々に攻撃のシフトを左サイドへ変更した。そこから長友も高めのポジションを取りボールの回ってくる回数が増えたが、そこでも数的優位をつくるのに苦労していた印象だ。

 オマーン代表は中盤でマンマーク気味に守備をしてきたわけだが、そうなるとサイドチェンジのパスはディフェンスラインを経由することになり時間を要するため数的優位をつくり出しにくい状況となった。それでもポジショニングを変更すれば、左サイドからもっと多くのチャンスをつくり出せたはずだ。長友が高い位置を取ると同時に、田中碧が下がってきて冨安健洋と長友の間のスペースを埋めるようなポジショニングが目立つようになった。相手のカウンターを恐れたリスクマネージメントを優先させたポジショニングなのだろうが、前述のとおり相手攻撃の起点となるFWはセンターバックの2人でほぼほぼ押さえられていた。

◆リスクを負う選択はなかったのか?

 リスクマネージメントを考慮したとしても、プラス遠藤航で十分な状況だった。田中が位置したスペースはボールポゼッションを得意とするチームであれば、センターバックが埋めるべきスペースだ。あの状況であれば、冨安がもう少し開いたポジショニングでそのスペースを埋め、田中は相手の最終ラインと中盤ラインの間にポジショニングすべきだったと思われる。そうすれば左サイドの攻撃に厚みを出せるし、中央寄りに位置した南野の特徴を生かせるサッカーを展開できたことだろう。

 状況によってはしっかりリスクマネージメントをしたほうが良いときもあり、その判断は紙一重になる。どちらの選択が正しかったかは結果でしか示されず先に知ることはできないが、負けられない戦いというよりは勝たなければならない戦い方を強いられている今の日本代表であれば、リスクを負う選択をしてほしかったと残念に思う部分ではあった。

◆今の日本代表は「守備偏重」

 また、この意思決定にはチームリーダーの影響が色濃く反映されているように感じる。もちろん大きくは監督の意思が影響するが、試合中の判断はピッチ内の選手で行っていかなければならない。現状の日本代表でその意思決定に大きな影響を与えているのは、キャプテンの吉田麻也と言っても過言ではないだろう。森保監督も中盤出身とはいえ守備的な選手という過去を持ち、現キャプテンの吉田麻也ももちろん守備の選手。どちらかというと守備に重きを置いた決断になりがちになっていないかが懸念される。

 もちろん他の選手の意見も聞いた上で判断していることは間違いないが、本田圭佑がチームのリーダー的な存在だった頃の決断に比べると、やや守備偏重に感じる。日本代表の歴史のなかで守備陣と攻撃陣の意見が割れるという話は何度もあった。これまではそれを話し合いで調整してきているが、森保JAPANにおいてそういったうわさは全く聞いたことがない。うまく意思統一されている証拠ともいえるが、攻撃陣には若い選手が多く意見を閉じ込めているのではないかと不安になる。意見の対立が良いこととは思わないが、偏重になることは避けたほうが良い。

 話は逸れるが、ラグビーは共同キャプテンといって2人にその役割を負わせるチームがあり、前衛のポジションと後衛のポジションからそれぞれ1人ずつ選ばれることが多いという。また、ポジションごとにリーダーを立てているチームもあるくらいで、それぞれの役割が細分化され明確になっているということだろう。サッカーは明確化しづらい部分が多々あるが、試合中にチームの意思決定をする上での共同キャプテン制度は日本代表をさらなる高みへ引き上げるのではないだろうか。

<文/川原宏樹 写真提供/JFA>

【川原宏樹】

スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

2021/11/20 15:50

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