結婚するはずだったのに。恋も仕事もうまくいかない女性に贈る「失恋小説」

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こんにちは。SNSを中心に「私らしく生きていくための読書案内」を発信している、読書研究家のきりんです。

通りには落ち葉が舞い、街路樹の紅葉も少しずつ色づいてきました。秋は人恋しい季節ですね。みなさんは、どんな秋をお過ごしでしょうか。

連載「本が教える恋のお話」では、おうちで過ごす時間も多い今、読書の魅力を知っていただくために、恋愛にまつわる本を紹介しています。

今回は、「失恋」にまつわる小説を3冊ご紹介します。みなさんの恋の処方箋となるような作品が見つかりますように。

■第2回のテーマは「失恋」

あなたは今まで、どんな「失恋」を経験してきましたか?

片思いのまま終わってしまった恋や、付き合っていた人に振られて、立ち直れないほど苦しんだ恋。そして、次の恋に踏み出すのに臆病になってしまった人もいることでしょう。

「失恋」はひとつの恋の終着点ですが、過去に大好きだった人の記憶は、時間が経っても心から消えないものです。

小説の中の登場人物たちは、「失恋」の苦しみをどんな風に乗り越えていったのでしょうか。

◇『1ミリの後悔もない、はずがない』一木けい(新潮社)

みなさんは、中学生の頃の恋愛を覚えていますか。

心も体も大人へと成長していく多感な頃の、くすぐったくて甘酸っぱい恋の記憶は、大人になっても大切な思い出として心に残っているものではないでしょうか。

本作は、中学時代の恋愛における「思い出」が核となっており、登場人物たちが、それぞれどんな風にその頃の思い出や後悔を抱えて、大人になった今を生きているのかを描いています。

主人公の由井(ゆい)は、複雑で貧しい家庭環境で育ちます。大人に頼ることも甘えることもできなかった少女は、自ら強くなるしかありませんでした。

中学2年生の時、由井は編入生の桐原のことを好きになります。他の同級生よりスラリとしていて体格も良く、大人びた色気を持っていた彼に、由井はどんどん惹かれていきます。

2人はやがて両思いになり、付き合い始めます。そして、思春期の性への関心と目覚めに、心も体も翻弄されていきます。

由井が意識した桐原の大人びた男らしさ。そんな桐原との会話を、大人になって振り返るシーンがあります。

あの日しゃべった内容はほとんど記憶から消えてしまったが、ひとつだけ明確に憶えていることがある。それは「うしなった人間に対して一ミリの後悔もないということが、ありうるだろうか」というものだ。桐原が発した問いだった。なんの話からそういう流れになったのかわからない。わたしがどう答えたかも憶えていない。答えてすらいないかもしれない。あのときは、まだ誰もうしなったことがなかったから。けれど桐原は確かにそう訊いた。その一文を、あたしはその後の人生において、何度も、折りにふれて思い出すことになる。(P.17)

失ってしまった恋愛に後悔はつきものですが、初めての恋で相手と語り合った「別れ」に関する言葉だったからこそ鮮烈に、特別な記憶として心に痕跡を残すものなのかもしれません。

そして、この「うしなった人間に対して一ミリの後悔もないということが、ありうるだろうか」という言葉は、他の登場人物のその後の人生にも横たわる、作品を通しての重要なメッセージとなっています。

由井と桐原の恋の終着点はどこだったのか。ラスト1ページがあまりにも切なく、涙がこぼれます。

過去と現在がつながった時、大人になった由井が噛みしめた本当の「失恋」を、ぜひ味わってみてください。

◇『落下する夕方』江國香織(KADOKAWA/角川文庫)

江國香織さんの書く小説の世界観は、不思議な魅力を持っています。今回紹介する本作も、共感と疑問の間を行ったり来たりする、そんな失恋小説です。

もしも長く付き合ってきた恋人と別れなければいけなくなった時、あなたはどうしますか。

8年間付き合って同棲をしていた健吾から、過去にプロポーズを受けていたこともあった主人公の梨果。しかし、突然「好きな人ができた」と別れを切り出されてしまいます。

梨果は以前プロポーズされた時、「結婚は愛情の墓場だ」という理由から断っていました。それでもうまくいっていたかのように見えた2人でしたが、最終的に健吾は去っていきます。

現実を受け止められない梨果は、突然起こった出来事に対して、あらんかぎりのことをして抵抗します。泣いてすがったり、体を使ってつなぎ止めたりもしてみせました。

しかし、何をしても健吾の気持ちが戻ることはなく、健吾は部屋を出て、2人は別々に暮らすことになります。

梨果は健吾の痕跡の残る部屋で淡々と暮らしながら、別れてもなお健吾と定期的に連絡を取り続けます。そして健吾も、好きな人が振り向いてくれないという苦悩を、梨果に伝えます。

さらに、健吾が思いを寄せる女性、華子が突然、梨果の部屋にやって来て「一緒に住む」と言い出します。

最初こそ面食らってしまった梨果でしたが、徐々に華子の持つ雰囲気や、つかみどころのない性格を受け入れるようになり、奇妙な同棲生活が始まります。

そして、梨果と華子と健吾という不思議な三角関係は、華子に翻弄されながら揺れていきます。

失恋の気持ちを引きずりながら、健吾と華子の行く末を見ている梨果。華子に一方的に思いを寄せているのに、振り向いてももらえず傷ついている健吾。そして、恋に奔放で複数の男性の存在が見え隠れしている華子。

健吾が華子へどうしようもなく恋をして深く傷ついていく中で、梨果と健吾の関係性は、もはやそこになんの熱もない、ただの惰性へとすり替わってしまったようにも感じられます。

ずるずると断ち切れない思いは、もはや恋心ではなく、未練や執着へとカタチを変えていたのかもしれません。

恋の思い出が過去になって色を失う過程が描かれた本作に、まるで心に木枯らしが吹くような哀しみを覚えずにはいられません。

◇『燃えつきるまで』唯川恵(幻冬舎/幻冬舎文庫)

3作目に紹介する作品は、働く独身女性にリアルに刺さる「失恋」小説です。

失恋は、ひとりの女性の人生を破滅させるぐらいの威力を持っているんじゃないかと思うくらい、どんどん先が気になり一気読みしてしまった作品です。

主人公の怜子は31歳。ハウジングメーカーの仕事はやりがいがあって面白く、順調にキャリアを築き、怜子はチーフの肩書でチームを任されていました。

プライベートでは恋人の耕一郎がいた怜子は、付き合って3年目の29歳の時に耕一郎にプロポーズされますが、当時は毎日が充実していて結婚する気にはなれず、断ってしまいます。

そして、付き合いも5年が経ち、怜子がやっと結婚を考えられるようになってきた頃、耕一郎から一方的に別れを切り出されます。

良好な関係を築いていたはずなのに、なぜ……。怜子は青天の霹靂とばかりに、状況が受け入れられず打ちひしがれます。

結婚を約束している男がいる。いつかは必ずするけれど、今はまだしなくていい。

耕一郎がいてくれるからこそ、怜子は自由でいられるのだ。

その耕一郎が、別れよう、と言った。

そんなことがあるはずがない。あってはならない。あれから二年がたち、仕事も落ち着いて、来年あたりそろそろと考え始めたところだった。結婚してしばらくはふたりの時間を楽しみ、それから子供を作る。育児休暇を一年取って仕事に復帰する。そんな青写真も頭の中に浮かんでいた。すでに社内でそれだけの立場も確保したと自負している。

なのに今、耕一郎を失ったら、その予定の何もかもが狂ってしまう。(P.13-14)

仕事と恋愛のどちらも充実している時に女性の頭をよぎるのは、「キャリアを築きながら結婚や出産もかなえるには、どのタイミングで何をすれば良いのだろう?」という悩みではないでしょうか。

怜子は、まさに等身大の女性像を浮かび上がらせているのです。だからこそ、怜子にどんどん感情移入してしまうのです。

怜子にとっての耕一郎の存在はとてつもなく大きく、愛していた分だけ、耕一郎への執着が大きくなっていきます。心身も疲弊して、会社での仕事もミスをしがちになり、やがて体調を崩して欠勤が続くようになります。これまで培ってきた会社の信頼が失われていき、自分への自信もどんどん消えていきます。

失恋の痛手はあまりにも大きく、怜子の思い描いていた人生設計はガラガラと音を立てて崩れていき、やがて精神的に追い詰められていきます。

失恋して燃えつきるまで自分を見失い、ボロボロになっていく展開に、思わずごくんと息を呑みました。

恋を失った時、あなたならどうしますか? 怜子は、哀しみのどん底からはい上がることができたのか、ぜひ見届けてください。

■失恋によって女性はどのような状況に陥るのか

第2回では、思春期の失恋の思い出を胸に生きる物語、別れてからもある女性を通じて結び合う元恋人同士の物語、失恋の痛手から人生が狂っていく女性の物語をご紹介しました。みなさんが少しでも読んでみたいと思った作品があれば幸いです。

次回のテーマは「不倫」。そろそろ冬支度を始める季節となり、心も少し寂しくなる季節だからこそ読んでほしい作品をご紹介したいと思います。お楽しみに!

(きりん)

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  • マイナビウーマン

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