爆笑問題・太田光の“選挙特番”は本当に暴走だったか?

 2021年11月1日、衆議院選挙の開票が行われ、各テレビ局では結果と共に議員たちの一喜一憂が放送された。政治や選挙はある意味、エンターテイメントとは真逆の存在で、芸人には無縁の世界だと思われる。たまに政治家として出馬する芸人もいるが……。

 そんな中、TBSが『選挙の日2021 太田光と問う!私たちのミライ』と題し、爆笑問題の太田光さんをスペシャルMCに据え、選挙特番を放送した。放送中からネットではまさに賛否両論。いや、どちらかといえば”否”の方が多く、一晩経った今でも炎上し続けている。そして視聴率6.2%と追い打ちをかけるように、民放の中では最下位という結果になってしまった。

 ネット上にあがった記事を読んではみたが、ほとんどが「非難殺到」「不遜な態度」「不慣れな選挙特番」という記事であり、あまり太田さんにとってプラスな番組にはならなかったという報道をされている。

 僕も問題とされている映像を見たが、世間の声とは若干違った印象を受けた。なので今回はその『選挙の日2021 太田光と問う!私たちのミライ』を元芸人として分析していく。

 そもそも大きく問題とされているのは3つ。

 1点目は、自民党の幹事長であり、UR(都市再生機構)をめぐる口利き金銭授受疑惑が追及されている甘利氏に対しての発言だ。

 番組冒頭、中継がつながった甘利氏に「甘利さん、戦犯ですよね? もし負けたら」といい、さらに自身の選挙区での苦戦は金銭授受疑惑ではないかと問いただした。すると甘利氏は「私は関与していない。週刊誌で初めて全容を知った」という回答。すると太田さんは「それ、今まで通り”秘書がやりました”っていう同じ言い訳なんだけど」と。

 これだけでも甘利氏にとって十分ダメージがある発言だと思うが、それだけではおさまらず、「自分の事務所のカネの出し入れも出来なかった人に経済再生は任せられない」「甘利さんの資質にがっかりした」など歯に衣着せぬ発言の応酬。これでもまだ止まらない太田さんは、自民党の議席を大幅に減らした場合の幹事長としての進退を尋ね、甘利氏の「総裁に身柄を預けなくちゃいけないと思っています」というなんとも歯切れの悪い回答に対し、「総裁がOKしたら身を引かないって事ですか?」と追い込んでいく。残念ながら中継時間が終了してし、途中で映像が途切れる。すると最後に一言「ご愁傷様でした」と締めくくった。

 確かに言葉だけ聞けばきつい、しかし間違った事を言っているのだろうか?「戦犯ですよね?」や「甘利さんの資質にがっかりした」なんて思っている国民は多々いるだろうし、太田さんはエンタメというフィルターを通して相手にぶつけただけだと思う。

 そして「ご愁傷さまです」という言葉は、それだけ聞くと強烈な一言だが、元々ネタやバラエティ番組でも太田さんがよく口にする言葉である。最後に笑いで締めくくるという、芸人の仕事をしただけだ。いつもだったら隣に田中さんがいて暴走する太田さんに突っ込んで止めに入り、ブラックな笑いとして昇華されるが、今回太田さんの両隣にはアナウンサー2人。爆笑問題の掛け合いが出来るわけがない。太田さんのみキャスティングされている時点である程度想像出来る結果ではないだろうか。だからこれが太田さんの通常運転であり、甘利さんだからやっているわけではないのだ。

 2点目は、れいわ新選組・山本太郎代表とのやり取り。

開口一番「メロリンキュー」という挨拶。これは山本太郎さんがテレビに出始めた頃に使っていたギャグのようなもの。この挨拶は政治家としての山本太郎ではなく、少しはタレントよりのノリを持っているかどうかを試したのかもしれない。そこから山本氏の「自国通貨を発行する国はデフォルト(債務不履行)しない」という主張をめぐり、太田さんとの論争が勃発した。

 あくまでも憶測だが、太田さんはこの番組をバラエティ番組と捉えていたのではないだろうか? 故に政治に興味が無い若者に対してもわかるように回答して欲しいという太田さんと、まるで政治家に対して話しているように難しい言葉を使い話している山本氏ではギャップが生じたのだ。

 それを表すように太田さんが「まどろっこしい」と発言した。だが山本氏は「まどろっこしいことを説明しないと……」と回答、すると「時間が無いからさぁ、あんたもテレビやってたからわかるでしょ」と。これは山本氏をただの政治家としてではなく、元タレントであり、テレビの裏側を知っている政治家として一緒に政治の面白さを政治に興味のない人へ伝えたいという思いだったのでは無いかと推測する。結果的にその思いは通じず中継は終了。

 最後に「あぁ時間なくなっちゃった……あいつ態度悪いね」と。これは元先輩のタレント山本太郎に言った言葉で、過去に東国原英夫(そのまんま東)氏に対して冗談として悪態をついたビートたけしさんと同じ事をしただけだ。あんた呼ばわりについて不愉快だという人もいるが、本来なら山本と呼び捨てにしても良いところをわざわざあんたと言っている。山本氏は終始敬語だったにもかかわらず太田さんの言葉遣いは悪かったというもの、血の通った言葉を届けるとしたら、敬語が崩れて普段通りの言葉使いになるのは当たり前であろう。なぜ叩かれてしまうのだろうか。

 最後は自民党前幹事長、二階氏とのやり取りだ。中継がつながってすぐ

太田「人相が悪いんですけど怒ってますか?」

二階「君よりましだよ」

太田「自民党の象徴みたいな存在だと思うんですけど。いい意味でも悪い意味でも」

二階「いい意味だよ。悪い意味なんてどこにあるんだよ」

(終盤)

太田「二階さんはいつまで政治家続けるつもりですか?」

二階「それは選挙民の皆さんが決めることであって、君が決めることではない!大体ね今日当選したばっかりでね、いつまで政治やるんですかってお前失礼だよ!」

太田「失礼じゃないよ。そりゃだって国民の権利じゃん、聞くのは」

二階「そりゃ権利ではあるけど……」

(中継終了)

 ……もはや漫才である。こんな素晴らしい言葉のキャッチボールを即席で出来るなんて、やはり一流の漫才師だ。二階さんを馬鹿にしているという声もあるが、僕はそう思わない。こんなやり取りをしながらも、終始目線はカメラ越しの二階さんに向けられ、電波の関係で回答が遅れてもしっかり話を聞こうという意思を感じた。二階氏は御年82歳、いつまで政治家を続けるのか、これは国民が抱く疑問である。

 まとめると、選挙番組に出演してNG発言を連発して炎上している……というのは僕からしたら間違いだ。

 そもそもこの番組のチーフプロデューサーは番組が始まる前に「政治家と言葉を介して向き合える、唯一の芸人さんである太田光さんをスペシャルMCに迎え”私たちのミライ”を忖度なく問います」と言っている。『忖度なく』その通りになったでは無いか。一人の芸人 × 国民として意見を延べ、納得いかない点は正直に反論し、政治家という存在に怖気ず、素のままに質問をぶつけている。答えていないのは政治家の方だ。

 政治に興味がない若者が多いのは事実だ。駅前で朝から演説する政治家、一日に何度も何度も近所を回る選挙カーから流れる所信表明、明るい未来への約束が笑顔と共に飾られているポスター、世の中を変えていくのは国民自身という主張と、自分の一票では世の中は変わらないという人間の間には簡単に埋まらない距離があるのは事実だ。しかし、こういったエンタメ的要素を通じ、

 少しでも政治に興味を持つ人間が増えるのはとてもプラスだと思う。甘利氏に述べた“戦犯”なんてワードを聞いたら、この人は何故こんな風に言われているんだろうと興味が沸き、甘利氏を調べる若者もいるかもしれない。そんな事の積み重ねが、結果的に若者の政治離れを防いだり、投票率の向上に繋がる。「政治に興味が無い人でも見れる選挙特番」を引き続き作って欲しい。もっとブラッシュアップし、若者から大人まで政治に無頓着な人間を視聴者に出来れば最高視聴率間違いなしだ。

 炎上した段階ですでに良い成果が出ているということなのかもしれない……。

2021/11/6 8:00

この記事のみんなのコメント

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  • 政界では悪名は無名に勝るという言葉があるみたいだから炎上した時点で太田さんの勝ちですね。

  • 光代社長や田中裕二さんが心配したようだが、国民の疑問点を即座に聞いたのは流石。サイゾーは光代社長と田中さんと太田さんが喧嘩になりそうだったのを取材したのかなあ?

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