綾野剛ら『アバランチ』メンバーへ増す愛着心、“緊張と緩和”の妙

いいドラマは、時代を映す。時に、人が見ないふりをしているものまで、ありありと映す。これまで立て続けに権力者の不正を暴いてきた『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)。第3話では、そんな権力に踏みつけられる女性たちの叫びと怒りを描き出した。

※以下第3話、一部ネタバレあり

大物政治家や財界の重鎮が足繁く通う高級会員制サロン「悠源館」。そこでは立て続けにホステスが不審な死を遂げていた。その中の一人が、花音(吉谷彩子)。人を笑顔にできるタレントになりたい。そう夢を抱いて飛び込んだ芸能事務所。しかし、そこは「悠源館」で働くホステスの供給源だった。夢を囮に、男たちに食い物にされた花音はやがてドラッグ漬けとなり、自ら死を選んだ。

花音の友人であるリナ(高橋メアリージュン)は、民栄党議員・田淵(矢柴俊博)こそが花音を餌食にした張本人であると突き止め、自らの手で報復を果たす。山守(木村佳乃)の制止も聞かず、何度も何度も、血で真っ赤になるまで、田淵の顔を殴り続けた。

これまで「アバランチ」はあくまで不正を暴くにとどめ、審判は民衆に委ねていた。今回、リナは初めてその信条から逸脱した。完全なる私的制裁。だけど、「アバランチ」のメンバーは誰一人としてリナを責めない。なぜなら、わかるからだ。法やモラルに背いてでも、この手で裁きたい悪があることを。「アバランチ」は決して完璧なダークヒーローじゃない。それぞれが大切な人を失った悲しみを抱えながら、常に自問自答している。その姿が人間らしくて、ぐっと「アバランチ」のメンバーを近くに感じた。

『私の家政夫ナギサさん』、『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(共にTBS系)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)と、話題のドラマへの出演が相次ぐ高橋メアリージュン。今回はそのクールな佇まいが一層際立っている。6年前から習っているというキックボクシングを活かしたアクションシーンも切れ味抜群だったが、何より心を掴まれたのが、その表情力だ。

芸能事務所の社長・安住(内田慈)との面接で、「今の子って本当にメンタル弱いわよね」「大丈夫? 自殺とかしないでよ?」と侮蔑混じりの言葉を浴びせかけられる。それでもリナの口角はキュッと上がっている。しかし、瞳の奥がかすかに揺れたのが見て取れた。その怒りの根源にあるのは、もちろん友人・花音の存在。この貼りついた笑顔だけで、高橋メアリージュンは蹂躙(じゅうりん)される女性の怒りと絶望を表現してみせた。

冒頭、リナはサンドバッグに何度も何度もパンチを打ち込んでいた。あの拳は、花音を死に追いやった田淵に向けられたものだと思っていた。けれど、最後まで観て、もう一度、冒頭のシーンを観返したら、まったく見え方が変わっていた。もちろん憎しみの矛先は、田淵だ。でも本当にリナが殴りたかったのは、自分自身なんじゃないだろうか。大切な友人が壊れていくのを目の当たりにしながら何もできなかった。「ヒーロー」になれなかった無力な自分を悔いて、リナはサンドバッグを殴り続けていたのかもしれない。

また、「悠源館」を経営する黄月蘭子(国生さゆり)の存在もスパイスが効いていた。一見すると、同じ女性でありながら、女たちの犠牲の上に楼閣を建てる敵役だ。けれど、田淵の電話を切ったあと、蘭子は「男ってクソ」と吐き捨てた。権力を笠に甘い蜜を吸う男たちを最も近くで見てきたのが蘭子だ。都合よく利用されているように見えて、弱みを握り、男たちをコントロールするしたたかさを蘭子は持ち合わせている。決してそのやり方は許されるものではないが、彼女自身もまたこの男性社会で権力を得るために歯を食いしばって戦ってきたのだろう。

現に、リナが生きていると知った蘭子は、その場でリナを追いつめることもできたはず。けれど、あえて見逃した。その判断の裏に何があるのか。第4話で、蘭子という女性がどう描かれるのか、そこも楽しみにしたい。

同じように、最大の敵と目されている内閣官房副長官の大山(渡部篤郎)もまだ腹の読めないところがある。政敵を失脚させる証拠を手にし、愉快そうに口元をニヤつかせる内閣総理大臣・郷原(利重剛)を前に、大山は本心を隠したような表情を浮かべていた。第1話で「あんな総理だからこそ我々が守らなきゃいけないんだ」「あの人が総理でい続けることこそが、我々にとって最もメリットがあることだからね」と大山は話していた。では、大山の言うメリットとはなんなのか。

主題歌であるUVERworldの『AVALANCHE』には“Creating new world”というフレーズが登場する。新しい世界を創造しようとしているのは、「アバランチ」なのか。それとも大山なのだろうか。

回を重ね、スリリング度も増してきた『アバランチ』。一方、メンバー間の仲も深まり、ほっこりするような場面も増えてきた。今回で言えば、うまくハッキングができなくて子どもみたいに癇癪を起こす牧原(千葉雄大)に羽生(綾野剛)が大笑いしたり。防犯カメラの映像を入手してきた西城(福士蒼汰)がドヤ顔を決めたり。アウトロー集団とはまったく別の、ごくごく人間らしい顔を見せる彼らにどんどん愛着が湧いてくる。

けれど、そうやって彼らを愛しく思えば思うほど、近づいてくる危機に胃が迫り上がるような気持ちになる。桐島(山中崇)のつくったリストには、羽生や牧原、リナ、そして山守の名前が記されていた。特別犯罪対策企画室にはおそらく監視カメラがつけられている。はたして「アバランチ」は大山の手から逃れることはできるのだろうか。その正体が明らかになったとき、裁かれるのは「アバランチ」の方かもしれない。

文:横川良明 

【第4話あらすじ】

蘭子(国生さゆり)に接触した羽生(綾野剛)は、リナ(高橋メアリージュン)が体を張って手に入れた動画で蘭子が管理する“Kファイル”を渡すよう、取り引きを持ちかける。悠源館の実態が公になれば、築き上げてきた地位や名声を失うが、かといって簡単にファイルを渡すわけにはいかない。焦る蘭子がとった行動が、大山(渡部篤郎)も巻き込み、山守(木村佳乃)も予想していなかった事態に発展する…。

一方、打本(田中要次)は、大山とも懇意の仲で、長年にわたり関東医師連合の会長を務める神崎龍臣(中丸新将)に目をつけていた。神崎の病院に向かった打本とリナは、ある女性が患者の治療の優先順位を巡って医師に詰め寄る現場に出くわす。

 

「いよいよ俺の出番」と意気揚々と作戦に当たる打本。その過去を山守から聞いた羽生、西城(福士蒼汰)、牧原(千葉雄大)は驚きの声を上げる…。さらに、山守は大山を切り崩すため、西城に大山の秘書で大学の同級生でもある優美(堀田茜)に近づかせるが…。

『アバランチ』

毎週月曜夜10時~10時54分

カンテレ・フジテレビ系全国ネット

【出演】

綾野剛 福士蒼汰 千葉雄大 高橋メアリージュン 田中要次 利重剛 堀田茜 ・ 渡部篤郎(特別出演) 木村佳乃

【主題歌】

UVERworld(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【監督】

藤井道人、三宅喜重(カンテレ)、山口健人

©カンテレ

2021/11/2 20:00

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