バラエティ番組がまさかのドラマ化。フィクションは“事実”を超えられたのか

◆テレビ東京の名物バラエティを完全ドラマ化

「ご自宅までのタクシー代をお支払いしますんで、家ついて行っていいですか?」

 そんな、街ゆく一般人へのディレクターの言葉から始まるバラエティ番組『家、ついて行ってイイですか?』。それが今年、なんとドラマ化された。作品名もそのまま『ドラマ 家、ついて行ってイイですか?』だ。

“本家”のバラエティは、数奇な生い立ちやワケありな日常を送る一般人たちを追う内容がウリ。深夜番組として’14年にスタートし、全国ネット昇格、ゴールデン進出を経てテレ東の看板番組にまで成長した人気バラエティだ。ドラマ版では、本家で多くの反響を呼んだ“神回”を個性的な俳優陣で映像化したものだ。

◆名もなき一般人の想像を絶する人生

 カメラアングルなど当時のバラエティ版を完全に摸したバラエティパートと、物語の主人公となる一般人たちの人生を振り返るドラマパート、このふたつが交錯する構成となっている本作。現在は動画配信サイト「Paravi」で視聴可能だが、これが出色の出来なのだ。視聴後は「マジか……」と絶句せざるを得ない強烈なドラマだ。

◆彼女の言う「テレビに映せないもの」

 最大の見どころは、我々と同じように日々を生きる名もなき一般人の、外見からは想像がつかない壮絶な人生に尽きる。

 たとえば第2話。馬場ふみか演じる、見た目がちょっぴり派手な女・ゆりかは、不動産の宅建士をしているという。そんな彼女の家について行くと、「テレビに映せないものだけ隠しておいた」と言って、竜星涼演じるディレクター・玉岡を家にあげる。部屋にはブラなど下着類が放置されっぱなしでドキッとする玉岡だが、ゆりかは「これはただの布だから」と意に介さない。では彼女の言う「テレビに映せないもの」とは一体……。

◆愛し合う二人が実は…

 ここから話題はゆりかの彼氏の話に。このゆりかと彼氏、ふたりはなんと同じ地元で生まれ、年齢も、生年月日も同じなのだという。こんな運命的な出会いがあるだろうか? ふたりは導かれるように交際をスタートさせる。

 付き合うまでは漫然と生きてきたふたりだったが、彼氏はTOEIC、彼女は宅地建物取引士の資格取得のための勉強をはじめ、互いに励まし合いながら生きていくようになる。そして、愛を深め合ったふたりは結婚を決意し、ゆりかの実家へと挨拶に行くことになるが……。ゆりかの母親と雑談していくうちにその出自がわかっていき、何とこのふたり、生き別れの双子であることが判明する。「地元が同じで生年月日も一緒」。これは運命的な出会いでも何でもなく、ふたりが双子であることのただの証明に過ぎなかったのだ。

 この事実を「俺たちは出会っちゃいけなかったんだ!」と受け入れられなくなった彼は、自死を選んでしまう。「なぜ立ち直れたの?」とディレクター・玉岡に問われると、ゆりかはまっすぐ前を向き「彼との時間が幸せだったから」と言い切る。そして「ディレクターさん、私と結婚します?」と笑うゆりか。そう、冒頭で彼女が語った「テレビで見せられないもの」とは彼の遺影であり、自死を選んだという事実そのものだったのだ。

◆“普通”とされる人たちがもつ、全然“普通”じゃない人生の強さ

「日本人野球選手がメジャーで本塁打王争い、さらにはエースとして大活躍!」といった少年マンガを10年前に描いたところで「やりすぎだ」と編集者から一瞬でボツにされただろう。それと一緒で「これ以上ないほど愛した彼氏が生き別れの双子のきょうだいで、それを苦に自殺」というプロットを脚本家が書いても同様の理由で一蹴されて通らないはずだ。

 だが、コレがどうしようもなく事実だから、成立してしまう。まさに、事実は小説よりも奇なり。ある種、「やりすぎだ」と言える展開でも、それが事実なのだから、引き込まれずにはいられない。しかも、こんな数奇すぎる実在の人生が毎回描かれるのだから、このドラマが弱いわけがない。

 こうしたショッキングな事実のみに終始せず、人生の可笑しみや哀しみ、人間の強さとも言うべき部分がしっかりと描かれている点も高評価。オムニバス形式なので、どこから観てもスッと入っていける点も嬉しい。また、剛力彩芽や川島海荷、研ナオコといった取材対象者となる毎回の豪華メインゲストにも注目だ。

“普通”とされる人たちがもつ、全然“普通”じゃない人生。ひとりひとりの人生がドラマであると思わせてくれる良作だ。

取材・文/村橋ゴロー

2021/10/28 15:50

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