人気フード編集者が選ぶ今だからこそ行きたい旨い店は「豪快な羊の塩茹で」と「バルで優しいスペイン料理」
―[ツレヅレハナコの旨いもの閻魔帳]―
緊急事態宣言がようやく解除され、さて、どの店に行こうか……と思ってる方も多いだろう。そこで今回は人気フード編集者として、数多くの飲食店を取材したツレヅレハナコさんに宣言が明けたから今だからこそ行きたい店を、近著『ツレヅレハナコの旨いもの閻魔帳』から紹介してもらった。
◆モンゴルのおふくろが作る豪快で愛のある羊料理
モンゴル料理と言えば、なんと言っても羊の塩茹で。正直、肉がパサッとして、粗野なイメージしかなかった。
「ただ塩で茹でてるだけでしょ?」
と思っていたけど前言撤回。モンゴリアンチャイニーズBAOで羊の塩ゆでをひと口食べた瞬間に「うんまーい!」。「思ったほど柔らかくないでしょ?」と店主のバオさんが言うように、ふわふわでもほくほくでもないけれど、この噛み応えがワイルドでたまらない。噛めば噛むほどあごの奥から肉の 旨味が湧いてきて、塩加減も絶妙。このバランス。すごく品がいい。
◆塩と羊だけの世界を堪能
以前、こんなことを聞いた。
「モンゴル料理は塩しかなかった。今は調味料が多すぎる」
確かに、昔はなかった調味料を今ではたくさん使っている。でも、BAOの羊料理は違っていて、塩と羊だけの世界が堪能できる。バオさんが満面の笑みで塩を鷲づかみにしながら、
「一番大事なのは火加減とタイミング。そして塩の量。みんなびっくりするよ」
って。でも、シンプルな料理だからこそ部位ごとのきめこまやかな手当がキモ。
「肉は水から茹でて、沸騰したら塩を入れてさらに30分。火を消したら、そのままちょっと置いておく。ただし、小さい塊は先に全部引き上げ、大きな骨付きの部位はもっと長めで」
バオさん、意識高い! そんなバオさんが作り出す「塩と羊だけの世界」は、一口食べればテーブルの上にモンゴルの原風景が広がるよう。バオさんの愛に包まれながら、堪能してみてほしい。
◆店主が作り出す雰囲気がたまらないスペインバル
スペインバルって、店に立つ人のキャラでお店が育っていくと私は思う。スペインバルのアニモもそう。店主の多戸綾さんが作り出すバルの雰囲気がたまらない。
この店がかつて西荻窪にあったころ、立ち飲みで10人も入ればいっぱいになる小さな店内は、いつも紳士のお客さんでにぎわっていた。おじさまたちをバッサバッサと斬っていく綾さんの客あしらいがすごく気持ちよくて、みんな見事に斬られてご機嫌になって帰っていったっけ。
◆家庭らしさ溢れるやさしいスペイン料理
もちろん料理もおいしい。バルの料理はややしょっぱいものがおおいのだけど、アニモの料理は塩も脂の加減もちょうどいい。やさしい料理がスペインの家庭らしさを醸し出している。
近くに住んでいる人が羨ましい……と思う一軒。
文/ツレヅレハナコ 構成/長谷川大祐(SPA!編集部)
―[ツレヅレハナコの旨いもの閻魔帳]―
【ツレヅレハナコ】
食と酒と旅をこよなく愛する編集者。雑誌などのメディアやTwitter、Instagramでレシピや美味しいお店を発信中。新刊『ツレヅレハナコの2素材で私つまみ』がKADOKAWAより好評発売中。他にも『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコの薬味づくしおつまみ帖』(PHP研究所)『ツレヅレハナコの南の島へ呑みに行こうよ!』(光文社)、『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)など著書多数。Twitter@turehana instagram@turehana1