きゅるんな赤楚衛二の上目遣いに悶絶『SUPER RICH』が魅せたヒロインとの新たな関係性

人生には、もうこのまま死んでしまいたいと思う夜がある。明日が見えなくて、自分がどこに立っているかさえわからなくて、星もない、出口もない、ただ真っ黒な夜の帳が全身に張りついて、その重みにそのまま押し潰されてしまいそうな夜がある、誰にでも、生きていれば、きっと。

そういう夜を共に過ごした人のことは、忘れない。大げさな言葉を使うなら、ちょっとした“同志”だ。たぶん氷河衛(江口のりこ)と春野優(赤楚衛二)が、あの夜、一杯のラーメンと共に分け合ったのは、“同志”みたいな連帯感だったんだと思う。

10月14日スタートの新ドラマ『SUPER RICH』(フジテレビ系)。その第1話で描かれたのは、そんな“同志”の再出発だった。

ただし、この“同志”は生まれも性格も正反対。資産家の家に生まれ、36年間、お金に苦労したことのない衛と、貧しい家庭に生まれ、25年間、お金で苦労しっぱなしだった優。銀行から1億円の融資を営業されても歯牙にもかけない衛に対し、優はタクシーに乗るお金さえままならない。まさに天と地の差だ。

衛からすればスーツを買うのに親から借金しなければならない優の懐事情なんて想像もつかないだろうし、そんな劣悪な環境から抜け出すことができないのは、優の努力が足りないから。全部、自己責任。そう容赦なく切り捨てるだけだった。タイムラインに流れてきた貧困にまつわる記事を一読だけして、ぴゅっとスワイプするみたいに。

ところが、一夜にして今度は衛が同じ立場になった。原因は、信頼していた盟友・亮(戸次重幸)の裏切り。亮の提案で出資した企業が反社会的勢力の関連企業だったことから、衛の経営するスリースターブックスの信用は失墜。

取引先からは取引中止を要求され、月末までに8億2000万円の支払いを迫られる。一方、優は専門学校の学費未納によって退学の危機に瀕する。その額は、5万円。

8億2000万円で人生にどん詰まった女と、5万円で人生を詰んだ男。スケールは大違いだけど、天と地までかけ離れていた2人の道は、そこで初めて交差した。ワンコインの屋台のラーメンを一緒にすすりながら。

お金は、可能性。なら無一文になった衛も優も、可能性はゼロということになる。でも、ゼロは何もないという意味じゃない。ここから何でもできるということだ。

「世の中、金やな。明日からお互い考えよう。そして、それを何に使うのか」

絶望のどん底に突き落とされながらも、衛はそう気づいた。ここから衛と優がどんな逆転劇を起こしていくのか。そこが、このドラマの大きな見どころになるだろう。

ひとまず第1話のテンポは軽快。衛の急転直下の転落劇をスピード感たっぷりに活写した。おそらく日本のドラマで、ヒロインが眉のない状態でこれだけ出続けたのは初めてなんじゃないかと思う。ほぼすっぴんでボサボサ頭の江口のりこはインパクト抜群で、何もかも失った衛の状況が説明せずとも画面から伝わってくる。

だけど、江口のりこの持っている飄々とした佇まいというか、いい意味でのふてぶてしさみたいなものが加味して、状況は悲惨なのに過度な悲壮感が漂ってこないところがいい。勝率ゼロのアウェーゲームに、しぶとく、図太く、ファイティングポーズをとっていく、新ヒロイン誕生の予感がした。

そして、そんな衛とタッグを組むのが、赤楚衛二演じる優。衛の心の氷を溶かしていくのが、優の春の陽だまりなんだろう。そんなネーミングを彷彿とさせる無垢な印象は、赤楚衛二ならでは。「きゅるん」という擬音が聞こえてきそうな困ったような上目遣い。少し鼻にかかった泣き声のような台詞回し。なんだかそれがとってもいじらしくて、たぶんこれが1990年代のドラマなら、衛が男性で優が女性のポジションだったはず。でも、もうそういう図式じゃなくてもいいじゃない、と。女性が前線に立ってパンチを放ち、男性が後方で支援する。そういう2人のコンビネーションが見たいと思ってしまった。

土下座したらリュックがずり下がってしまうところも、衛から分けられたラーメンを食べる前に、店主に上目遣いで「いただきます」と手を合わせるところも、愛らしさたっぷり。これからの展開はわからないけれど、なんとなく衛と優が恋愛関係にならなくてもいいんじゃないかな、という気がした。そうじゃなくて、男とか女とか、恋愛とか友情じゃない、“同志”としての絆を見たいな、と期待している。

とはいえ、宮村空(町田啓太)という存在がいる以上、そう単純にはいかないだろう。衛に絶大のリスペクトを寄せる空にとって、優は面白くない存在になるはず。『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)でチャーミングな恋模様を演じた2人が、今度はどんな関係性を見せてくれるのか。ここも今後の大きな注目ポイントだ。

とりあえず立ち上がりは上々。続きが早く見たいと素直に思える第1話だった。あとは戸次さん、早く出てきて謝らないと、視聴者から石投げられますよ!

文:横川良明

■木曜劇場『SUPER RICH』

毎週木曜よる10時放送

出演者:

江口のりこ、赤楚衛二、町田啓太、菅野莉央、板垣瑞生、嘉島 陸、野々村はなの、茅島みずき、矢本悠馬、志田未来、中村ゆり、戸次重幸、美保 純、古田新太、松嶋菜々子

主題歌:『ベテルギウス』優里(ソニー・ミュージックレーベルズ)

脚本:溝井英一デービス(『監察医朝顔』脚本協力、『癒されたい男』 他)

(C)フジテレビ

2021/10/15 20:00

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