マヂラブのネタ一般的には微妙な評価も一歩違えば決勝進出もあった?

 10月2日「お笑いの日」より、新たなキングオブコントチャンピオンが誕生した。数々のドラマとスターを生み出してきた本大会は、イチお笑い賞レースという枠組みを遥かに超えた注目度で日本中のお笑いファンを楽しませてくれた。

 大会委員長の松本人志が「高レベルだった」と評すほどの盛り上がりを見せた、「キングオブコント2021」の各ネタを、現役お笑い芸人が振り返る。

【※以下、ネタバレ有り】

蛙亭「ホムンクルス」

 研究室から脱走したホムンクルスと、ホムンクルスを作り出した博士のコント。

 ホムンクルスというキャラクター性の強い題材を選びながらもキャラ推しではなく、むしろキャラをエッセンスとして使っている所が突き抜けたセンス。

“ホムンクルスあるある”を随所にボケとしてハサみながらも、基軸となっているのはストーリーを追いながらのホムンクルスと博士の“感情ボケ”。関係性・感情の変化を中心に据える事で、ともすればキャラ推しではクドくなりがちな5分という尺の長さを、興味を引きつけながら完結させている。

 ちなみに通常、このような非日常設定を題材にするのはやや難易度が上がる。なぜならボケとは基本、「裏切り」と「共感」で成立するものだからだ。

 空気階段の2本目のネタで詳しく説明するが、非日常設定はお客さんの中に常識となる基軸が存在しない場合が多い為、何でもありな状況になりやすい。何でもありな状況では、裏切りも共感も存在せず、ボケが成立しない。

 しかしこのコントでは非日常設定の中に「実際にこの状況が起こったら、それはこうなるだろう」とみんなが思える関係性を作り込み、そこにフォーカスを当てる事により、全てのボケがしっくりと腑に落ち、共感を産んでいる。

 ホムンクルス登場シーンのツカミ・展開を追いながらの感情の変化・時折加えるキャラクターのエッセンス、視聴者を飽きさせない展開が徹頭徹尾考え抜かれた超良質な台本だった。

ジェラードン「角刈りの女の子」

 高校を舞台に繰り広げられる、長髪ウザ男と角刈りの女の子との恋愛模様を描いたコント。

 このコントの中核は「美男美女が行えば美しく仕上がるドラマを、超強烈なキャラクターで行う事により喜劇に仕立てる」というもの。そのため共感が持てる一般的なストーリーがセレクトされているので、そこでどれだけキャラで落差をつけられるかがキモとなる。

 本作ではその大ボケとなる2人のキャラの付け方が完璧だった。特筆すべきは、キャラを表現する為の細かな演技の積み立て。一見すると目につかない程細かな部分が、妥協なく考え抜かれた表現にて演じられている。

 最初の長髪男登場シーンでは、一つひとつ考えられた動作により、一言も発さない開始2秒でキャラの異質さを動きだけで表現している。

 また角刈りの女の子も、出オチシーンは女子高生とギャップのあるおじさんの顔でイン。しかし物語の終盤、恋心を喜劇に見せるシーンでは女の子の表情へ移行する。必要な状況で必要な表情を明確に定義し、キャラクターの振り幅を広げる顔の作り込みを行っている。

  また教室に取り残された転校生が、異質な2人のやり取りの中心に入らずに俯瞰でツッコむ事で、怪物たちの世界観を邪魔せず、異質な部分だけを浮き立たせている。

 細かな演技を積み立てる事により、怪物級のキャラクターの魅力を最大限に表現している、キャラクターと抜群の演技力が同居したコントとなった。

男性ブランコ「ボトルメール」

 海に流したボトルメールきっかけに、出会う男女を描いたコント。

 ロマンチックな設定で出会った女性が、尋常じゃないほどクドい関西人というツカミが秀逸。

 女性側は、視聴者の描いた「清楚で透明感のある人であって欲しい」という女性像への裏切り。通常その状況にツッコむコントが一般的な中、受け手側の男性も「その性格が好き」という、感情による裏切りボケをする。

 後半妄想から現実へ移行する、ネタを二重構造にした伏線回収の畳み掛けも秀逸。今回のような劇中劇は見ている側に強烈なリセットがかかるので、その後ウケ切るのが難しい。そのため次のボケが最初のツカミ以上に重要だが、リセットされた緊張感を上手く使ったテンドンの構成にして、更にもう一段階上の爆発を起こしている。

 高い台本力と、それを体現する技術力がないと成立しない、演者の力量が推し量れる非常にレベルの高いネタとなった。

うるとらブギーズ「迷子センター」

 迷子になった子供の父親と、迷子センターの職員のコント。

 日常を切り取る系コントの、最高峰ともいえる状況設定を用意したネタ。「迷子の呼び出しアナウンス」という絶対に笑ってはいけない状況で、職員がどうしても笑ってしまうという切り口が秀逸。

 異質なキャラが出る訳でもなく、設定で裏切る訳でもない。全く無理のない日常設定の中、ごくごく自然な流れで緊張と緩和を生む環境を用意。この状況設定を思いついた時点で、既に名作になる事が決まったと言っても良い程、ハイクラスな状況設定。

 また、物語への視聴者の引き込み方も秀逸。前半父親が過剰な程焦っている演技で伏線を張る事により、後半へ緊張感を持続させての緩和。視聴者が、焦る父親にも笑う職員にも、双方へ感情移入できる日常系コントの理想のようなネタ。

 ちなみに「笑ってはいけない状況で、笑いそうになる」職員の緊張感を、ものの10秒で視聴者に伝え切れる演技力も非常に高レベル。この緊張感を完全に伝え切れるかどうかは、後半の成否を決めるキーポイントであるが、明確なセリフのボケでもなく空気感の伝達に近いため、相応の演技力がなければ視聴者に伝わらない。名作コント。

ニッポンの社長「バッティングセンター」

 バッティングセンターにきた青年と、バッティングフォームを教えにくるおじさんとのコント。

「登場人物のおもしろさ」を中心に据えるのではなく、「起こっている現象のおもしろさ」を中心に据えるコント。

 日常から非日常への入り方が、抜群にうまい。バッティングセンターで知らないおじさんがバッティングフォームの指導をしてくるという日常から、指導しながらボールに当たり続けるという非日常へスライド。その非日常に対しオーバーリアクションはせずにあえて抑えめなリアクションをとる事で、より異質な現象を際立たせる事に成功している。

 ちなみにテレビサイズで見る、現在のコントの主流は以下の2パターン。

・「日常の設定で、設定の切り口を見せる」:ex)さらば青春の光 …など

・「日常の設定で、非日常のおかしいキャラがでる」:ex)バイきんぐ …など

 両者とも展開はあれど日常の設定で完結する事が多く、これは最初共感を得る日常から始める事により、そこからのズレであるボケがウケやすくなるからである。

 ただ今回のニッポンの社長のコントはどちらにも類せず、「設定自体を、“日常から非日常へスライドさせる”」コント。

 通常賞レースでは、設定の「日常→非日常」への移行はほとんど見られない。なぜなら5分尺で行うにはどこかに無理が生じたり、それによりお客さんを置いてけぼりにしてしまうからだ。

 それを計算された動きだけでこれほどスムーズに移行できるのは、ズバ抜けたセンスによるもの。更に言うと「日常→非日常」コントのお手本となるフォーマットを大舞台で公開した事により、今後もうひとつの主流を産むのではないかと思わせるほど、超良質なコント。

そいつどいつ「パックしてる彼女」

 同居している男女のやりとりを中心に、「日常生活でホラーに見える部分」に着目したコント。

 ネタ中に盛り込むボケを、言葉ではなく動きやギミックによる「視覚的な笑い」で構成している。競合を排して一本のネタとして見た場合、起承転結の精度が抜群。「視覚的な笑い」をより強調すべく、前半は“静”から入り、後半の“動”へ活かす振り幅が秀逸。

 ボケは「不条理なボケ」ではなく「日常風景を切り取るボケ」を中心に据えている。このようなネタは「日常」を表現できるだけの演技力が必要。演劇の世界に「“普通”を演じる事が一番難しい」というセリフがあるとおり、「過剰なコントキャラは演じられるが、日常系は演じられない」という芸人も多い。

 その演技はカップルの日常風景を壊さないよう過剰にツブ立てる事がなく、今大会で1番自然。言葉でまったく説明していないにも関わらず、たわいのないやり取りだけで男女が過ごした期間まで感じさせる。

 今大会はツカミが大ボケから入るコントが多かった為、前半部分が地味目に見えてしまったのが非常に残念。ネタ単体で見れば、狭いテーマをこれだけ大きく広げられる台本力と、それを支える演技力ともに光っているネタ。

ニューヨーク「ウェディングプランナー」

 結婚の打ち合わせに来た新郎と、ウェデングプランナーのやりとりを描いたコント。

 大喜利テイストのボケと並行し、「ボケのキャラクター」と「会話劇のおもしろさ」を中心に据え構成されたネタ。コントキャラを作る際の、「人間のどの部分を切り取るか」の目線が秀逸。

 ボケとなるキャラクターは、蛙亭やジェラードンなどのコントチックな大ボケキャラと違い、日常生活で出会う絶妙にズレているキャラクター。「完全な奇人ではなく、少しズレているキャラ」を題材にした場合、その切り口をどう表現するかは完全にセンスとなる。

 キャラのズレを引き立てるオーソドックスな設定から入り、アップテンポな会話でボケ数も圧倒的に多い。2~3個外してもそのほかのボケでコントに引き込めるように作られた、練りに練られたネタ構成。

 漫才・コント共にズバ抜けた実力を持つニューヨークだからこそできた、非常に高密度なネタ。

ザ・マミィ「変なおじさん」

 道を尋ねる青年と、道で叫んでる変なおじさんとのコント。

「登場人物同士の関係性」がねじれた設定を作り出し、そのキャラクターへの偏見を自分自身に言わせるネタ。このネタの成否を分けるのは、キャラの説得力とねじれ設定に入る導入のスムーズさ。ちなみに双方共に完璧だった。

 偏見を言うキャラ自身に説得力があるかどうかは、このネタのキモ中のキモ。1言ごとのウケ方が全く変わる。最後おじさんが改心する人間ドラマのストーリーも、前・中盤におじさんキャラへ共感を集められたからこそ、盛り上がる。ボケ酒井の、仕上がりが秀逸だった。

 また今回のように、関係性のねじれ設定を作るネタは、導入部分で時間尺が必要になる場合が多い。辻褄合わせのように無理矢理ねじれを作ると違和感が残ってウケが弱くなるため、丁寧な説明が必要になるからだ。

 そしてこのねじれ設定をどれだけ自然でかつ短時間で見せるかは、賞レースにおいて超重要項目。なぜなら賞レースには、制限時間があるから。極端な話、前半の説明の部分を削れなければ、後半の爆ウケするミュージカル部分を入れられない。

 決まった尺の中で前半に時間を使うという事はそういう事で、「前半部分のウケが弱くなる」ではなく、「一番盛り上げにかかる後ろの時間を削る」という行為。

 このネタでは、そのねじれ設定の作り方が非常に短時間でかつスムーズだった。その上、ツカミにしているという、一番の理想型。変なおじさんがツッコんだ瞬間に裏切りのツカミとして目を引いた感があるが、実際はねじれ設定へのインも可能とした、二枚の刃。

 見事なキャラクターセレクトと、そのキャラクターを活かし切る台本が両立されているネタ。

空気階段「SMクラブでの火事」

 火事が起こったSMクラブ内から、脱出する二人のコント。キングオブコント史上最高得点を叩き出した、歴史的なコント。5分の持ち時間を脂身だけで埋めた、超濃厚なネタ。起承転結がコース料理のそれではなく、全てがメイン。

「緊張感のある状況に、バカバカしいキャラクターが登場するコント」ではなく「バカバカしい状況によって、緊張感のあるキャラが滑稽に見える」というコント。

 このコントでは緊張感のあるキャラが発する「“真剣なセリフ”がおもしろい」となるため、ネタ中ツッコミが入るようなボケセリフはほとんど存在しない。

 結果、中盤以降は真剣なセリフを言い合うダブルボケ状態になる訳だが、逆にいうとほとんどツッコミを放棄しているため、ボケセリフ単体で笑いを完結させなければならない。これを実行するには、細心の注意を払ったセリフ回しと、土台となる前後のフリ作りが高いレベルで必要。

 バラシボケの置き所も秀逸。ひとつ目の消防士設定のバラシをした後、一旦その状況のおもしろさを十二分に伝えている。そこから展開を入れ、更にテンドンの形で警察設定のバラシを行っている。ここでツカまれた芸人も多いはず。

 設定の笑い・セリフの笑い・パンストを使った体の笑い。視覚と聴覚全てを楽しませた、コントの全てが詰まっていたコント。

マヂカルラブリー「コックリさん」

 コックリさんを行う高校生2人のやりとりを描くコント。

 そいつどいつが「日常設定でホラーなボケを見せる」コントに対して、このコントは「ホラー設定でバカバカしいボケを見せる」ネタ。

 心霊現場で「コックリさんが降りてきた」という緊張状態から、コックリさんに関節を極められたり、肛門に指を入れられたりという落差の作り方が秀逸。

 心霊現場の緊迫感を活かした上でのドタバタ劇はもっと評価されても良かったはずだが、審査員から出た「つり革のネタと、一緒といえば一緒」という言葉は、視聴者の多くも同様の意見だったよう。

 この言葉が指すところは、「だから集中できなかった」ではなく「だから、ボケの動きのおもしろさが薄れて見えた」という事に繋がる。「つり革ネタ」が披露されたのはほぼ一年前で、いまだにリフレインされるインパクトの強さは名作であるが故だが、今回はマイナスに働いてしまったよう。

 しかしこのような印象はマイナスに働く事もあれば、プラスに働く事もあり「つり革ネタ」をフリにした「いやだからそれ、つり革と一緒じゃん!」を笑いに変える事が狙いだった可能性も考えられる。もし笑いに変わっていれば、ファイナルステージ進出もあり得たネタ。

男性ブランコ「レジ袋」

 大量のお菓子の袋を持っている男性と、彼が落としたお菓子を拾ってあげた男性との会話劇を描いたコント。

 レジ袋代をケチったために荷物がかさばるという、平成時代にはなかった令和のあるあるネタ。

 比較的ローテンポなネタのため、笑いを取れるところで確実に取らなければならないが、溜めた前フリを切ってオトす、独特な言い回しのワードセンスが抜群。

 派手な演出も大掛かりな道具も一切使わず、個々

のコント能力を如何なく発揮したネタ。

ザ・マミィ「ドラマみたい」

 不正を行なった社長と、それを告発しにきた部下とのコント。

 ひとつのキーワードを推し、そこを笑いどころにするタイプのネタ。逆にいうとこの様なネタは、ボケの軸が「ドラマみたい」の1フレーズになる為、最後までウケ切るには良質な台本が必要。

 どれだけ1フレーズの前後に、視聴者の興味を引き続けられる変化をつけられるかが勝負となるが、最後まで十二分な笑いを取り続けた。

 1本目のネタと打って代わり、ほぼキャラに頼らず、その台本力が存分に発揮されたネタだった。

空気階段「メガトンパンチマン」

 「自分が小学生の時に作ったキャラクターのコンセプトカフェをやっているおじさん」という、超異質な設定。仮に思いついたとしてもウケ切る難易度はかなり高い、ハイレベルなネタ。

 このネタの笑いは、二種類の設定を重ねる事によって成されている。「自作のキャラクターのコンセプトカフェをやってるおじさん」という「日常の設定で、非日常のおかしいキャラがでる」の笑いと、「メガトンパンチマンの世界観」で巻き起こる「非日常設定」で作る笑いである。

 ベースは「メガトンパンチマン」の世界観で形成される「非日常設定」。蛙亭でやや触れたが、「非日常設定」は少し難易度が高くなる。例えばみんなが知っている「セーラームーン」のコンセプトカフェでは、あらゆる所で「裏切り」や「共感」ボケが可能だが、誰も知らない「メガトンパンチマン」のコンセプトカフェは「おじさん次第で何でもあり」の部分が多い為、「裏切り・共感」を得るボケどころがほとんど無い。

 そのため「基軸となるメガトンパンチマンの、世界観とルールを作る」作業と、「そこで作ったルールを裏切る」作業を、5分の間で同時並行的に行っている。

 そして、通常ルール作りで間延びしてしまう部分に「自作のキャラクターのコンセプトカフェをやってるおじさん」の設定を使った、重量感のある笑いを組み込んでいる。おじさんのドギツいキャラクターが発する「“おじさん自身の矛盾点”や“独自の価値観の押し付け”」という人間味のある笑いを埋め込む事で、ネタ全体をより密度の高い仕上がりにしている。

 キャラクターの強さと台本の強さ、双方を示したネタ。

まとめ

 設定が秀逸なコントやキャラが立っているコント、ストーリーが重厚なコント……。本大会で出た歴代最高得点は、空気階段の実力はもちろんの事ながら、他出場者が本大会を常に盛り上げ続けた結果でもある。キングオブコント2021は、例年以上に「おもしろさ」を追求したネタが多く登場した、最高の大会であった。

【※敬称略】

2021/10/14 6:00

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます